第76話 契約はしっかり確認しよう
「それでは契約にうつりましょうか。この洋紙に書かれた事にご納得いただけましたらサインをお願いします。」
司祭さんから洋紙を渡されたので確認する。何々…うん、簡単にまとめると衣食住と労働環境の保障、奴隷に対して非道な行いをした場合の罰則、奴隷契約を破棄する場合の諸注意かな。破棄する場合は双方の合意をもって行うのは当然で、一方的な解雇は無理ってことだね。まぁ、奴隷に裏切られないようにする契約でもあるから信頼できるなら縛る必要もなくて解除することも出来るのはいいね。
あとは…アルルの場合は夜伽は不可、ただし薬物や魔法、催眠などによる強要ではなく奴隷自ら望んだ場合は除くと…え、アルルこれいいの?僕はアルルに目を向けると口元を隠しているが笑っているようだった。僕はそんなつもりで買うわけじゃないけど仲が悪いよりは良いほうが安らぐよね、うん。
僕は洋紙にサインをして司祭さんに渡した。
「それでは奴隷契約を始めましょう。この陣の上でワタリ様の血をアルルーナが摂取し、繋がりを作りますのでこの小ナイフで指などを切ってください。あ、大量の血は必要ないので滲みでる程度で大丈夫ですよ。特に詠唱とかないのでアルルーナが摂取し、奴隷になると心から思うことで完了です。本人が望んだ場所に奴隷の証として印が出ますからね。」
僕は渡された小ナイフで人差し指を少し切り、血の粒を作った。この後どうすればいいんだろ…司祭さんが小さい杯を持ってきているのが見えたからそれに垂らせばいいのかな?…って傷つけた指にぬめっとした感触が伝わって来た!
指の様子を見るために振り向くとアルルが口の中に指を含んでいた。しゃぶるように吸い付き、舌で指を転がしてくるのですごくくすぐったい…それにしても…小さい子にこんなことされるとすごく背徳的なんだけど!?僕が焦っているのが伝わったのかアルルは上目遣いで僕を見上げ、執拗にしゃぶりついてきた。
しかし陣が光ったことに驚き、僕とアルルは動きが止まった。光が僕とアルルに吸い込まれていき、感覚的に魔力の繋がりが出来たことが分かった。アルルは上着の裾をまくり下腹部に印があること確認していた。…そんな所に付けたんだね…たしかに目立たない場所だからいいけど…
「無事完了したようですね。しかし…せっかく用意した杯が無駄になってしまいましたな。」
司祭さんは笑っているが僕の心臓はドキドキしっぱなしである。ぼーっとしている子と思ったけれどイーリスみたいな揶揄い方ではなく直接してくるとはね…魔族ってそっち方面の欲が少ないって話じゃなかったっけ…男性だけ?
とりあえず司祭さんにお礼を言い僕達は教会から出た。
「リディさん、アルルの服を選んでもらってもいいでしょうか?あまり荷物を持ってきていないようですし日常用品も整えないとだよね。」
「あら?ワタリも一緒に選びましょうよ。アルルってこんな可愛らしいんだし自分好みに染め上げるのも良いと思うわよ?」
リディさんがアルルの肩に手を置き僕に勧めてくる。
「…わくわく。」
そこ、何を期待しているんだ!?それとね、日常の服まで僕は指定しないよ?
「普段着から僕が選んでたら同じような系統になっちゃうでしょ?着てくれる本人が納得していないものを着ても嫌だろうし、なにより色んなタイプの服装が見れると嬉しいから僕は選びたくないかな…」
「そういう考え方もあるのね…普通だったら選んだ服を着てもらいたいって思いそうなのに。それなら私達もワタリが好きそうな服というより自分達で選んだほうがいいかしら。」
「そうだね、そのほうが僕としては嬉しいかな?買う店はいつも利用している商会のを使おうか。貴族御用達だからアルルの着ている服に近い物もあるだろうし、品質も信頼できるからね。」
目立たないように教会から離れ、いつも利用している商会に入った。
「お久しぶりですねワタリ様、本日はどんなご用件でしょうか?」
いつも対応してくれる店員さんに挨拶をし、用件を伝える。
「この子の服を数着お願いします。普段着と肌着、寝間着と…アルル、作業着って必要?」
「私なら必要…ないよ?食事も日の光や魔力があれば大丈夫。」
「アルル、食事は栄養を取るだけじゃなく心のゆとりのためでもあるからきちんと食べようね?それと魔力ってどういうこと?」
「私達の種族は魔力が源…だよ?特にワタリ様とはパスが繋がっているから意識してくれたら送れる…よ?」
魔力パスが繋がっているからお互いに供給しあえて、魔族という種族は魔力が食事に似ているって事なのかな?人によって魔力の許容量が違うから流しすぎも危険だから注意しないと!
「契約前みたいにお兄さんで大丈夫だよ?とりあえず作業服はいらないってことだね。リディさん一緒に選んで来てほしいな。僕はこのあたりで待っているから。」
「はいはい、それじゃアルル行きましょうか。」
僕はリディさんとアルルを見送り店員さんと世間話を続けた。
「それにしても、ワタリ様も奴隷を雇ったのですね。少々幼い感じがしますが素養はしっかりしている感じがしますね。」
「そうだね、幼い以外は僕の希望する人材だったから見つけられて良かったよ。」
服を選んでいるらしい2人の声が微かに聞こえてきた。
-今の服装に近いこれとかいいんじゃないかしら?
-ちょっと締め付け多いかな…お姉さん。ゆったりとした服のが好き
-ならこのあたりの服かしら?あとアルルって生理用品は必要?
-もう来てる…から契約に条件入れてたよ?
-それじゃそっちも準備しましょうか。あまりワタリを待たせるのも悪いし早めに選びましょ
僕としてはのんびり選んでもらっていいんだけど…確かに人を待たせている状態って落ち着かないのも分かる。それに気遣いは嬉しいからね。店員さんに先に費用を払おうとしたんだけど僕への利益から引いてくれるらしい。この店の商品ってかなりの金額な気がするんだけど、そんなに利益でていたのか!?
「ワタリお待たせ。とりあえず必要になりそうなものはそろえたわ、ねえアルル?」
「楽しみにしててね…お兄さん?」
「アルルは可愛いからね、どんな服を選んだのか楽しみにさせてもらうね?」
そう言って僕達は商会から出た。それにしても…なんでアルルからの好感度がこんなに高いんだろう…住民板は年齢的に見れないだろうし、家族から言われていたのかな?尋ねてみたんだけどはぐらかされるんだよなぁ…
「ふふ…気になる?そのうちね、お兄さん?」
悪い子じゃないのは分かっているから、話してくれる時を待っていればいいかな。とりあえず、皆との顔合わせが終わったら残っている重要なイベントは魔族の王族との会談か。どんなことになるやら。
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