第75話 奴隷斡旋所は快適?

僕とリディさんは侯爵様から以前に渡されていた地図を見て奴隷斡旋所へ向かっていた。この地図を見る限り王都の郊外にあるってわけじゃないんだね。ただ…ほんとに女性で庭師って見つかるのかな?


「リディさん、庭師で女性って難しくない?僕のイメージだとおじいさんや壮年あたりのおじさんがやっている感じなんだけど…」


「私の見解もそんなものよ?だから女性でガーデニングが好きならその人がいいんじゃないかしら?そして定期的に本職の方に見てもらうとか?」


 やっぱりそうなるよねぇ…良い人がいればいいんだけど。前に聞いた話だと奴隷の衣食住は買った人が保障しなきゃならないから住み込みで働いてもらうからには人柄重視で探さなきゃね。


 というか、今向かっている場所ってもしかして教会なんじゃ?まさか奴隷を斡旋している場所が教会なんて思わなかったな…


「これ…リディさんは知っていました?」


「噂では聞いたことがあったけれど本当だったのね…冒険者に奴隷は縁がないもの、散財した人以外は…奴隷になるのは装備を整えることが出来ず冒険に行けなくてやりくりできなくなった人ね。それに、命を預けられる仲間じゃないといざというとき怖いわ。信が置けないというか…あとは貴族が遊びで奴隷を連れて冒険に行くくらいかしら。特に奴隷になるのは元冒険者が多いから護衛として雇うのにはうってつけよ。」


 民間に任せるより国教に制定している場所で管理していたほうが待遇に不満が出ないのかもしれない。浮浪者やスラムを作られないようにしているってことだもんね。


「でも、きちんと奴隷の身分が保障されているのは良いね。流れ人のイメージだと主人が何してもいいって思っていそうだから、流れ人に購入制限されているのは良いと思うし。僕だけ特別にされているのはビックリしているけれど…」


「ワタリの場合は性格もそうだけど、普段の行動で判断されたのよ。毎回問題解決に取り組んでいてくれていて、住民板でも話題の中心だったもの。この世界の住人達に寄り添って頑張った結果と思っていればいいのよ。」


 僕の歩んできた道筋の結果がこうやって目に見えると嬉しくなる。今まで親から言われて頑張ってきたけれど結果に結びつかなくて悔しい思いをしてきたからね…ただ、言われたことだけをするより心にゆとりが持てるような何か、僕だったら絵を描いたりゲームをしたり趣味を持つのが大事なんだと思う。好きこそ物の上手なれってほんとなんだよね。


「入口に流れ人達が多いから外套で顔を隠していこうか。リディさん綺麗だし声かけられちゃうかもしれないから。」


「私だけじゃなくワタリにも声かけてきそうよ?そのベビーフェイスでどれだけの人を落とせば気が済むのかしら?でも…ほんとダンジョンで何度死んだとか話しているのね、匂いが目に見えるほどだから相当な数死んでいるわ…。無謀な挑戦を繰り返しているのかしら?」


 僕にはわからないけれど、リディさんが言うからには相当酷いんだろうね。ゲームによってはPKなどした場合にカルマが溜まっていくっていうのは聞くし…これにはそういう状態を緩和させる禊みたいなのはないのかな?あるとしたら住民達の為に働いた場合にってありそうだけど…


 僕達はお祈りに来た住民達に紛れて教会へ入った。こう、住民側に立つと入口を塞ぐように流れ人がいるとかなり迷惑だね…このあたりのことはリアルでも一緒なはずなんだけどなぁ…自分の首を絞めることにならないといいね…


 教会の中は荘厳な雰囲気で満たされ、外の喧噪けんそうが嘘のような空間であった。女神様の像の前には住民達が祈りを行っている。ダンジョン探索前に一度きたけれど王都の教会は大聖堂と言ってもいいほどの装飾や女神像なんだよね。


「こんにちは、今日はどんなご用件でしょうか?」


 教会の雰囲気に圧倒されていると司祭さんが声をかけて来た。僕が侯爵様から渡された許可証を懐から取り出し提示すると、ハッとした顔をした後に無言で後ろについてくるよう促してきた。


 大聖堂の奥へ行き小部屋へ入ると祭壇と女神像が安置されていた。見た感じ懺悔室っぽいんだけど…って!?司祭さんが祭壇の裏から消えた?


「ワタリ、裏に下へ降りる階段があるわ!」


 おぉ…なんか古き良きRPGにありそうな隠し階段!僕達は地下へ降りていった。明かりもきちんと付いていて暗い雰囲気がせず、苔ではなく草木が地下でも成長しているようだ。魔力が満ちている空間だからかな?ダンジョンも王城の地下にあるしもしかすると龍脈の上だからかもしれない。


 僕たちが外套を脱ぎ奥へ進むと、司祭さんが部屋へ誘導してくれた。


「ここまでくれば他の目もありませんね。初めましてワタリ様、私は奴隷斡旋の担当をしています。どのような奴隷をお求めでしょうか?各種技術者から荷物持ちなどの雑用係、娼婦まで、なんでもござれです。」


 娼婦もいるんだ。契約でOKにしているってことなのかな?猫とか犬、狐とかも好きだから愛玩ってのも興味あるけど…ってリディさん分かってますって!そんな目で見ないで。


「えっと女性の庭師を探しているんです。住み込みで働いてもらいたいのでどんな性格なのかに重点を置きたいです。」


 僕が条件を言うと司祭さんは難しい顔をして


「庭師の女性、となると結構難しいですね…」


「本職じゃなくてガーデニングが趣味の人物でも平気よ。流石に女性ではいないだろうと思っていたし。」


 リディさんが条件の緩和を提示したけれど…司祭さんは奴隷のプロフィールの書かれたリストを眺めているが芳しくないようだ。条件を広げてみてもやはり難しいんだね…物語とかでは庭いじりをするメイドさんとか書かれているけれど、この世界では仕事としての土いじりは男性というイメージが強いし、奴隷=派遣業って考えるとプロフィールにガーデニングという趣味を載せないのかな。


「一人だけ条件に合いそうな子がいるんですが…まだ若い上に、魔族なんですよ。」


「え?魔族の方が奴隷になっているんですか?それって大丈夫なんでしょうか…?」


 僕は司祭さんに聞き返した。


「対外的にあまりよくありませんし、今は大事な時期ですから紹介自体を控えていたのですが…住民からの信頼の厚いワタリさんであれば大丈夫でしょう。条件に合うような子がほかにいませんでしたし…奴隷になった理由もお金に困ったとかではなく国外に出たかったみたいでして…」


 若いとそれだけ外に憧れっていうのがあるのかな?魔族の国って鎖国に近いことになっているはずだし。細々と交易を続けている船にでも乗り込んだのかな?


「お金に困っていないのに奴隷になってまでなんて、物好きな子ねぇ…」


 そうだよね、何か理由があるのかな?


「なんでも色んな所を見てみたかったからと…奴隷になっても身分は保障されますし夜伽はNG指定ですから、本人はちょっとした旅行気分程度なのではないでしょうか。」


 ん-…僕としては魔族だったとしても庭のことをしてくれるなら問題はないんだけど…奴隷になった理由を考えると冒険に連れていけってなる可能性もあるよね。友好が結ばれるまでは扱いが難しいかもしれない。


「リディさん、僕としては庭が荒れなければ構わないと思うのですがどうでしょう?」


「そうね…見聞広げたいのは他の子も一緒でしょうし話が合うかもしれないわね。とりあえず会ってみてから決めたらどうかしら?」


 そうだね、百聞は一見にしかずっていうし見てみない事には始まらないか。


「それなら今から連れて参りますので少々お待ちください。」


 そう言い残し司祭さんは部屋から出て行った。


「奴隷の人達、結構住みやすそうだね。日の光は浴びれないだろうけれど。」


「そうね。ちなみにワタリはどんなイメージだったのかしら?」


「そりゃぁ…牢屋の中に奴隷が居て布の服のみ着ていたり包帯巻いていたりかなぁ…一般的な流れ人と同じイメージだね。」


「話を聞く限り、そんな状態だったら買われても働けないって感じよね…夜伽や愛玩目的なのかしら…?」


 労働力の為って感じられないよねぇやっぱり。最初は荷物持ちや愛玩目的っていう物語が多いけど、最終的にはくっつくからね。冒険に出てたら吊り橋効果とかもあるしなぁ…


 そうやってリディさんと奴隷について語っていると扉が開いた。


「お待たせしました。」


 司祭さんがフードを被った子を連れて来た。司祭さんが僕らの前に来るとリディさんは僕の後ろ側へ立った。この立ち位置ってもしや相手にも主人になるのがどちらか分かるようにかな?こういう気遣いがすごいよねリディさんって。


「その子が話にあった魔族の子かな?僕はワタリ、流れ人なんだけど縁があって奴隷を購入する権利を得たんだ。屋敷を買うんだけど庭師を探していて君が候補にあがったんだ。

 屋敷に住むのは僕以外女の子だから、その子たちと仲良くできる女の子で住み込みが条件なんだよ。庭師って言っても、荒れないように日々の世話をしてくれれば大丈夫。剪定とか植え替えみたいな大掛かりなものはその時だけ男性の庭師に頼むからね。もしよかったら顔見せてもらってもいいかな?」


 一気にしゃべりすぎたけれど大丈夫かな…?若い子って言っていたけど…どのくらいなんだ?


 緊張しているのかその子は震える手でフードを外してくれた。


 ふっくらとした幼い顔付きで、薄い緑色のウェーブ掛かった髪には大きな紫の花が付いている。服装もお嬢様っぽく上品に着飾られていて、奴隷斡旋所にいるのがおかしい感じがする。


「髪飾りの花からなのかな?いい香りがするね、とても綺麗だし。」


 僕がそう言うと恥ずかしそうに身を捩っていた。


「ワタリ、この子アルラウネよ?髪の花は飾りではないわ。あと…花を褒めるのは告白に近かったはずよ。」


 あ…たしかに種族的に象徴的な部分だからそう捉えられるのか!?


「あー…いきなりごめんね…流れ人だから魔族に詳しくなくて…」


 そう謝るとアルラウネは首をブンブン振って


「気にしなくていいよ、流れ人の…お兄さん?わたしはアルルーナ・エルトメンヒェン、アルルって呼んで欲しいな?12歳、庭いじりは出来ると思う…けど満足してくれるか不安。」


 12歳で家出というか国を越えて来るって行動力が凄いな…って!?家名持ち!?


「リディさん、魔族で家名って普通の事…?」


「ワタリ、心配するようなことはないわよ?家名というより種族の部族名って感じかしら?それでもいい所の出だと思うけれど。」


「それで合ってるよ…お姉さん?でも…ここにいるのはただのアルル、気にしないでね?」


 そうだね、気にしないで行こうか。


「魔族と人で感性が違う所もあるだろうし、実験的にやっても大丈夫だよ。知り合いに貴族がいるからお庭を見せてもらう事も出来るから心配しなくても平気だからね。良ければ僕に買われてみない?」


「お兄さん…私12歳だし夜伽できないよ?それでも買ってくれるの?」


「えーっと…夜伽目的で買うわけじゃないから問題ないかな。女性の庭師がほんと見つからなかったからアルルを買いたいんだ。」


 そう言うとアルルがくすっと笑い


「…それなら買われてあげる。わたしの能力ならお庭の管理も入れ替えも呼吸をするくらい簡単だよ?」


「そうよね…大地の小人って言われるくらい自然に結びついている種族だもの。これ以上にないほど適任よ?」


 まさか探していた庭師にピッタリすぎるほどの魔族の子が見つかるとは思わなかったけれど、これで懸念事項であった庭の管理は大丈夫だね!まだ12歳で遊びたい盛りだろうし庭が安定したら出かけられるようにしなきゃ!

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