第69話 錬金術ギルドでの惨状確認

 錬金術ギルドに帰って来たはいいものの、受付にはテオの姿はなかった。あれ…どこに行ったんだろ?施錠されていなかったし建物内にはいると思うんだけど…辺りを見回していると作業部屋から何やら叫び声がした。


「うにゃー!何時まで経っても終わらない!疲れたよぉ…」


 …この声はテオだな。とりあえず見に行くけど厄介事に巻き込まれる予感がする…それにしても、なぜかどこにいても巻き込まれている気がするんだけどなんでだろ?


 僕は声のした作業部屋に入っていった。


「テオさん久しぶり。叫び声あげていたみたいだけどどうしたの?」


 テオに声をかけると振り向き、僕を見て口をパクパクさせている。あ、これ抱き着いてくるパターンだ…


「わ、ワタリー!久しぶりだね!元気だった?定期的にやりとりしていたけどやっぱ直接会って確認したいもんね!あ、香水に関しては試作品というか私用に作ってみたよ!あとで感想教えてね!住民板はワタリの事で盛り上がってたよー!これで流通や移動が楽になったり情報伝わり易くなったり便利になるよ!それと…手伝ってほしいことがあるんだけど…」


 突進してきたテオを抱き留めマシンガントークを聞いていた。予想していたから突進に対処できたけど身構えていなかったら倒れていたな…というかもう試作品作ったのか!教えてからまだそんな時間経っていないのに満足のいくものが作れるって凄いなぁ…それとテオ、上目遣いで何をさせようっていうんだ…身長が変わらないから上目遣いになっていないけど…


「乗合馬車でずっと移動していたから疲れてはいないけど…時間かかるような用件だったら少し休んでからでもいい?」


 じっとしているのも結構疲れるから、用件次第では休んで備えないといけないよね。


「えーっとね…この街に卸している回復ポーションは薬師ギルドがメインで素材の備蓄によっては錬金術ギルドが担当するのは知っているよね?で、その卸先は街の雑貨屋以外だと領内に分配するために領主が購入するんだけど…購入したものが不良品だったんだよ。傷の治りが遅いとか効果がまったくないとか刺激臭がするとかね。」


 それってかなり問題があるじゃないか!?ってことはこの部屋にある大量のポーションはまさか…


「じゃあテオさんがしているのは不良品の発見ってことですか?…これ全部?薬師ギルドは品質を確認しなかったのかな…」


「刺激臭がするものは取り除いたけれど回復量の違いなんて薬師には分からないから錬金術師にお鉢が回ってきたの。魔力含有量が規定以下なものをはじいていく感じ!

 で、問題なのは薬師ギルドで何があったのだね…基本的に生産職でもただ生産するだけじゃなく販路の確保も大事なのは分かるよね?それを経験させるために薬師ギルドは流れ人に納品を任せたみたい。素材をケチったり色だけ真似たものを作って材料費と販売の差額を懐にいれてたの。納品数が多いから一つ一つは大したことない額でも大きな利益になるというね…」


 呆れを通りこして哀れにしか感じないなぁ流れ人…でも、使ったらすぐバレるんじゃないのかな?僕がそう聞くと…


「変に狡猾でさ、まともな物の中に数個混ぜるんだよねぇ…そのせいで発見が遅れちゃったの。薬師ギルドも管理の見直しと流れ人が作ったものの販売先を縮小…というか流れ人にだけ回すようにしたんだよ。ワタリが王都で住民と流れ人の溝を深めないようにしたのを参考にね。お願い、手伝って!」


 なんか本当に流れ人が迷惑かけてすみませんって気持ちになる…運営が介入しないし住民と流れ人の関係に亀裂が入るようにしているの?って思っちゃうよね。


「手伝いますから安心してください。街中でも流れ人による流れ人の監禁問題とかありましたし、色々なことが起こっていますね…それと、魔力含有量を調べるなら一気に部屋内を確認する感じですか?」


「今回、基準となるこのポーション未満をはじいていくんだけど、なんとなくではなく正確にはじく必要があるんだ。作る際にもムラが出来るから全体で確認しても分かりづらいからね。だから最大でも5個くらいでしっかり量ってね!私はもうちょい多く比べていくけど、魔力観察を鍛えるいい機会でもあるから頑張って!ざっと10万個くらいあるし!」


え、なんか桁がおかしい気がしたんだけど…聞き間違いだよね?


「領全体のチェックなんだし、発見するまでに薬師ギルドはそれ以上売りさばいていたみたいだからこのくらいの数になるよ!」


「聞き間違いじゃなかったんですね…それじゃお手伝いに誰か雇うとかした方がいいんじゃないです…?もしくは他に錬金術師の人とか…」


「街の人を不安にさせないためにもすぐ領主が住民板で呼びかけて回収したんだけど、不特定多数の人を手伝わせるとチェック漏れの責任場所がややこしくなるから私とワタリの2人で頑張ろう!」


 そっか、管理する時も人が多くなりすぎると難しいもんね。肥大化した組織が腐るのもそれが原因みたいなものだし…盛者必衰というか…


 僕は目の前に広がる回復ポーションを見て、流れ人はいろんな場所に禍根を残し住民をNPCとしか思っていない考え方に辟易した。

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