第68話 現状のアルファス

 2日ほどゆっくりと王都で過ごした僕は乗合馬車でアルファスに向かっていた。ベッセルに乗ればもっと早くつけるんだけど、アリエス様から連絡があって戻ってくる際は転移を試してもらいたいとのこと。

 確かに実際に試さないと本当に大丈夫か分からないからテストする必要あるもんね。ただ、王宮に馬がいきなり出現するのは問題だということで今回ベッセルはお留守番。僕は一人乗合馬車に揺られて景色を眺めている。


 同じ馬車には護衛と御者しかおらず、がらんとしている。御者の人に訳を聞くと今は王都で一山当てようとする商人が多く、王都に向かう人は多いが帰る人は少ないとのこと。商人達は自分達の馬車で護衛を雇って帰るらしく、今の流れ人特需状態の王都から移動する人が少ないんだって。

 まぁ…僕的には広々と馬車でくつろげるから嬉しいんだけど…あ、王都へ向かう人が多いから戻る乗合馬車が実装された感じだね、ベスタの時と同じ感じ。ただ、もう少ししたらこれが転移になるけれど…


 移動する人が増えたからか道中は平穏で無事アルファスへ着いた。流れ人の第二陣による混乱はすでに起こっておらず町は日常を取り戻しているようだ。ラナさんが王都に戻ってきていたこと考えると当然なんだけど…街中に流れ人みかけないな。これって残っているのは生産組だけ!?いや…流石にずっと部屋に籠っているとかありえないよね?

 噴水広場で街を観察していると女の子が冒険者の男にナンパされているのを見かけた。あれってどっちも流れ人か、他のゲームと違いこれは性別偽れないからあーいう人も出て来るんだね…僕は呆れながら眺めていると何やら口論が激しくなっていた。


「…だから、あなた達の専属になりません!好きな物を作りたいんですから!」


「俺達が素材を持ってくればあんたもスキル上げ楽だろ?一石二鳥じゃないか、なんでそんなに嫌がるんだ?」


「そうだよな?俺達の活動拠点に場所移して宿代も必要なくなるだろ?優秀な冒険者の俺達に付いたほうが今後の為になるぜ?」


 なんか雲行きが怪しくなってきてるな…というか、装備を見る限りベスタにすら行ってないんじゃないかな?状態抵抗の装備していないし。しかも男しかいないPTの活動拠点に連れ込むとか普通の感性をしている女性は断ると思うんだけど…とりあえず僕は関わりたくなさそうにしている警備兵に目線を送り、鎮圧しても平気か確認をした。…うん、任せたっていう視線だねあれ。他の住民もなんとかしてくれって感じだし…それじゃ動きますか!僕はフードを深くかぶり揉めている人達に近づいていった。


「素材もなにも私はいまの現状に満足しているんです!それに、男性しかいない拠点に行くわけないじゃないですか!…知ってますよ?あなた達他にも女性の生産職に声をかけてるでしょ?そんな思考の人達について行くわけないでしょ!」


「なにを!人が下手に出てりゃ調子乗りやがって!お前も他の生意気な女どもみたいに閉じ込めてやる!」


 僕は女性と男達の間に割って入った。


「あんた達往来でうるさすぎ。それと、男どもは女性を監禁しているんだってね?ちょっと警備の人らにそのこと話してもらえる?」


 僕はそう言いながら男どもを死角からロープを操り拘束した。あ、うるさくなりそうだったから口もしゃべれないようにしといたよ。成り行きを見ていた警備の人達が近づいてきて感謝を述べながら男達を引っ張っていった。男達に非があるのは見ていた人達も分かっていたから即拘束したけど大丈夫だよね。それじゃ僕も失礼してっと…


「あ、あの!助けてくれてありがとうございました!」


「あー、気にしなくていいよ?噴水広場の雰囲気が壊されていたから対応しただけだし。まぁ…流れ人の君達に巻き込まれたくないって感じで皆見ていたけどね。」


「ほ、ほんとにすみませんでした…私達流れ人は閉じ込められてしまうと死ななきゃ出れないんです…しかも拠点に入ることを了承したってことで攻撃不可のエリアになって逃げだすための自殺も出来なくなってしまうんです。味方のエリア…だからでしょうか…こういう誘拐紛いの事件があって今流れ人は出歩かないんです…それにしても、あんな強そうな冒険者をすぐ拘束するなんて…すごいんですね。」


 女性は僕が住民と思っているのか流れ人の事情を話してくれた。そうだったのか…そんなシステムになっていたんだねぇ、これって運営の落ち度じゃないかな?まぁ…ログアウトして場所が違うってのも問題だからだろうけど、VRじゃなくコンシューマのゲームだったら地形に嵌ったときに脱出手段なくない…?性犯罪は同意がなければ大丈夫だけど、監禁で精神折ってくる可能性もあるから油断できないよね…監禁されてた人達は怖いだろうし、ログインもしなそうだもんね。


「あいつらの装備はこの街に売っているものだから優秀じゃないよ。それに、不意打ちに近いから実力はそこまで必要ないからね。あと、そういう事件があるってことを神託を行う存在に報告したら対応してくれるんじゃないかな?世界的に問題がありそうなことだからね。」


「あ、そうですね…アドバイスまでありがとうございます!私、彫金師なのでお礼と言っては何ですが何か入用になったら作らせてください!」


 流れ人の彫金師かぁ…どうしよっか、素材こっち持ちでペンダントで写真というか絵が入れられるロケット作ってもらおうかな。みんなで持っておくのによさそうだし。


「んー…それじゃロケットペンダント作ってもらっていいかな?素材はこの銀を使って5個ほど。装飾はそこまで華美じゃなくていいよ。出来たら冒険者ギルドで王都にあるノルニール邸へ届けてもらって。」


「わ、分かりました!頑張って作らせてもらいます!あの…お名前は…」


 あまり名前は広めないほうがいいよね…?特に流れ人には…


「こういうのは一期一会を楽しんだほうがいいんじゃないかな。もし次に機会があればってことで。それでは。」


 僕はそう言いその場から離れていった。なんだか殺伐とした事件が起きていたんだね…他にもなにかやらかしていそうな気がするんだけど…僕は不安に感じながら懐かしの錬金術ギルドを目指した。

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