第70話 心構えだけはしておこう
全ての回復ポーションのチェックが終わったのは10日後であった。不眠不休の作業をテオはしようとしたけれどそれは僕が止めた。しっかり休息と睡眠を取る方が効率が上がるからね。特に期限が決まっていたわけじゃないからノルマというよりチェックミスが少なくなる方法のが良いと思ったし。
「やっと終わったー!ワタリ、手伝ってくれてありがとう!わたし一人だと無理だったよ…他の業務もあるからチェックばかりできないし。それと、ほんとに休んだほうが効率は良かったね!わたしだけでやっていた時はもっと時間かかっていたよ?」
効果が実感できたみたいでよかった。同じ作業が続くと気が滅入るし集中力が持続しないだろうからね。それにしても…テオの魔力観察はすごく精練されているからこちらとしても参考になったかな。僕より倍以上こなしているのに…ほんとすごい。
流れ人が想像以上に住民達に迷惑かけているのが今回の事で分かったんだけど…流れ人への販売制限をすると影響がでかすぎるかな…?
「テオさん。現状、生産ギルドでの流れ人育成ってどんな状況なんです?基礎を覚えて各自技術を磨くって感じですか?」
「そうだね…最初からいる人達ならギルドを通してじゃなく各自流れ人の友達と直接やりとりしているって聞いたよ。育成自体は一段落しているかな。」
なるほどね…流れ人はフレンドと装備や素材をやり取りしているのか。
「それでしたら流れ人と住民達での販売に制限かけるとか…?冒険者ギルドに素材は納品されますし、住民側の冒険者はそちらに卸すでしょうから。装備品は制限かけると痛いでしょうから薬品関係はっていう条件が落としどころでしょうか…まぁ…錬金術師は人数がすくないので流れ人に卸すことになるでしょうけど…」
僕が提案するとテオは思案し始めた。
「…確かに素材は大丈夫…余計な亀裂は生まれない…他の生産ギルドに確認を取って…うん、大丈夫かも!きちんと詰めないといけないだろうからちょっと時間かかるかもしれないけど…流れ人達で仲良い人で集まる集団が出来てきているし、組織として認めて管理する感じになると思う!」
あ、これってもしや流れ人がギルドやクランを作れるってことになるのかな?アリエス王女様が王都の周りの土地を生かすために流れ人に貸し出す予定って拠点について聞いたときに言ってたし。
「完全に売らないとかじゃなく、仲が良くなれば売るかもってくらいのが良いかもしれませんね。いざというときに売れないって決めちゃうと問題がありそうですし。」
「そうだね!流石ワタリ、頼りになるね!私もワタリに囲ってもらおうかしら?」
そう言うとテオは僕にしなだれかかってきた。年齢的には似合う仕草なんだろうけど、外見に合ってなくて僕は苦笑いを浮かべた。
「逆に僕が囲われているような状況ですけどね…際限なく増えそうなんでちょっと怖いです。僕としてはテオさんと親しくなれたら嬉しいですよ?錬金の事も教えてもらえますし長く生きているのでこの世界の昔のことを聞きたいし。」
僕はテオに向かって答えたら照れた顔をした。
「了承されるとは思わなかったよ…年甲斐もなく顔が火照っちゃう。…ワタリは深く考えすぎだと思うよ?もっと気楽にいこ!周りに女の子が増えるんだからハーレムを喜んだらいいよ!」
普通だったら喜ぶんだろうけど、現実でニュースにあるようなドロドロとした人間関係になるのが怖いんだよね…
「ハーレムってなにがきっかけで壊れるか分からないじゃないですか…人間関係で苦労しそうなんですけど…といっても現状、ハーレムが構築されちゃってますけど…」
「流れ人からすると一般的ではないから抵抗があるのかな?この世界では複数娶るのは珍しいことじゃないから気にしなくて大丈夫だよ!理由としては常に死が隣り合わせで人の寿命が短く、男性の数が女性より少ないからバランスを取る意味もあるかな!だから何人妻がいたとしてもこの世界の女性は気にしないよ!まぁ、相性もあるけど。」
きちんと理由があるんだ。そういえば現実世界だと男女比は1:1って言われているから偏った場合はこの世界と同じ形式をとる可能性もあるってことか。
「相性はどうなるかわかりませんね…仲良くしてほしいですけど身分的にも差があったので価値観が違うでしょうし‥」
「ん-、気にしなくても大丈夫だと思うよ!なんたってワタリを好きになった子達なんだから!」
そうストレートに言われると恥ずかしくなる…テオって僕よりはるかに年上なのに裏のない無邪気な笑顔が素敵なんだよね。見た目は完全におこちゃまなのに。
「それなら心構えをきちんとしないとだね。僕が不安にしていたら他の子達も心配になっちゃうだろうし。テオさん、いつもアドバイスありがとう。」
僕はお礼を伝え、テオを抱きしめると頭を撫でられた。
ここ数日間、適度に休憩をとっていたけれど缶詰状態だった作業から解放されてすさんでいた心が穏やかになっていくのを感じた。
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