第65話 やるべきことは先に済ませておきたい

 ふぁぁ…昨日はいつの間にか眠ってしまっていた…朝起きたらすでにジェミが起きてたんだよね。ベッド占領しちゃったのかな?もしくは僕の寝相が悪くて寝れなかったのかな…それだったら申し訳ないんだけど…あれ?ジェミ、目の下に隈ない?


「ジェミ、ちゃんと寝た?目の下に隈出来ているんだけど…僕の寝相かイビキが酷くて寝れなかったとか…?」


 僕が聞くと首をぶんぶんと横に振って否定した。


「いえ!ワタリさんのせいじゃないです!…まぁある意味ワタリさんで眠れなかったのですが…」


「えっと…僕何かしちゃったかな?」


「あの…その、ワタリさんの匂いが胸いっぱいに広がってしまって…眠れなくなっちゃったんです…」


 あぁ、それは申し訳ないことしたけど…どうしようもないから慣れてもらうしかないよね…


「今日はしっかり寝るんだよ?体調崩されたら僕も悲しいし。匂いに関しては慣れてもらうしかないかなぁ…一緒に寝るたび眠れないってなると大変だし…」


「ワタリ様の服を一枚渡して慣れていただいたらどうでしょう?ジェミニ様が何に使うか分かりませんが。」


「ニア!あの…慣れるために1枚良いでしょうか…?もちろん匂いを嗅ぐだけです!」


 それもどうなのって思うけど、恋人だし問題ないのかな?僕は普段着ている替えの服を渡し、ニアさんから代金を受け取った。一応前に冒険服や普段服を整えたときから何度か買ったりしているんだよね、着たきり雀になるのも流石にねぇ…絵を描いたりモデルを作ったりしているからか、ほかの人の服はうまく組み合わせられるんだけど…自分の服ってなるとそれが生かせなくて、うまく選べないんだよね。だから毎回店員さんにお願いして選んでもらってるんだ。


  顔を真っ赤にして恥ずかしがっているジェミに挨拶をして侯爵様の別邸に向かおうか。あ、臭い消しの販売について商会で聞いてこなきゃ。寄ったらなんかすごく歓迎されるんだけど…なんでだ?すでに住民板でなにか情報が共有されたのかな?

 この商会は貴族御用達だからか流れ人がおらず、ゆったりとした時間が流れている気がする。店の中も調度品が華美すぎず落ち着いてて、店員の対応が丁寧なんだよね。


 臭い消しに関してなんだけど、見本として店に置いてもらって口コミを狙ってもらうかな。ダンジョンでもいいんだけど、香水にもなるなら貴族の来る店にあったほうがいいもんね。需要が見込めそうなら流通させる感じでさ。これも作り続けるのは大変だから錬金術師に広めるのがいいかな…テオに連絡を取っておくか。個人でやるより各自で香りを抽出して独自の香水にするって良いと思うし。そのあたりも注意書きとして追加してもらおうかな、場合によっては香り付けも出来ますって。


 そういえば…一人質問に来た子がいたんだった。卸しているお弁当に関して現地の人も食べたいっていう要望が多いらしく、販売してもいいかと。僕としては流れ人に行きわたっているなら任せちゃってもいいんだよね。すでにレシピは教えてあるから、販売数が増えても僕がずっと調理をしないといけない状態にはならない。それにお弁当が売れれば売れるだけ利益になる契約を結んでいるから、こちらとしてもありがたい話だと思う。

 もちろんレシピのアレンジはしてもらっても構わないと伝えておいた。それから以前より僕の取り分は下げていいと言ったんだけど、最初の割合のままで固辞されてしまった。プラネテスの世界は基本的に薄味が主流だからいくつか教えたレシピは味が濃いめなんだよね。だから流れ人にも人気なんだと思う。現地の人には食べすぎに注意とも伝えてもらわないと。


 これで今することは終わったかな?そう考えながら歩いていると屋敷に着いた。メイドさん達に軽く挨拶を済ませ部屋のベッドへ横になる。やっぱり疲れが溜まっているのかな…昨日きちんと寝たのにまだ眠いし…僕も緊張して眠りが浅かったのかな?

 横になるとフカフカな毛布に包まれて気持ちがいい。干したばかりなのかな?僕が居なくてもきちんと部屋を整えてくれるメイドさん達に感謝しなきゃ…ただ、お日様の匂いの他にどこかで嗅いだ匂いがするんだけど…どこだっけ…


 僕は思い出そうとしている間に眠ってしまった。



「ただいまー!今日は早く学校が終わって嬉しいねイーリスちゃん!」


「…ワタリが攻略してバタバタみたい、すごい。」


「ほんとワタリさん凄いですよね!私も一緒に冒険行けるようになるために訓練しなきゃ!ってイーリスちゃんどこいくの!?」


「…ん、ワタリの部屋。」


「せっかく干してもすぐイーリスちゃん匂い付けするんだから…」


「ラヴィも最初してた…」


「そ、それはあの時はワタリさんの匂いが残っていたから!って待ってください、私も行きます!」


 2人はワタリの部屋へ向かっていった。すでにワタリが戻ってきていることを教えようか迷うメイド達であったが、面白いことが好きなため黙って見届けていた。


「イーリスちゃんお先に!とうっ!」


 ラヴィはワタリの眠っているベッドへダイブした。



「いたっ!ん?なんだ!?」


 僕は急に圧迫感を感じ毛布から顔を出すとそこにはラヴィが気まずそうにこちらを見ていた。


「ラヴィ、人が寝ているベッドに飛び込んでくるってどういうことか説明してくれるかな?」


 気持ちよく寝ているところを急に起こされると結構不機嫌になっちゃうよね…僕はそうでもないんだけど、まずいと思ったのかラヴィはしゅんっとしてしまった。


「えっと…その…お、おかえりなさいって気持ちが溢れちゃって…」


 なんかぎこちない感じだけど…僕は後ろに控えているメイドさん達に目配せすると笑っていた。…なるほど、彼女達から僕が帰ってきていることが伝えられておらずベッドにか…あ、どこかで嗅いだことある匂いってイーリスのだ。そう思いイーリスの方を向くととてとてと歩いてきて抱き着いてきた。


「…ワタリ、おかえりなさい。」


「ただいまイーリス、そしてラヴィ。とりあえず、悪気はなかったということで納得しておくよ。メイドさん達もお咎めないだろうから気にしないでね。で、イーリス?自分は関係ないですよーって態度とらない。普段からこのベッドに入り込んでるでしょ?匂いが残ってるよ?」


 僕がそういうとイーリスが顔を恥ずかしそうに赤く染めた。


「…私の匂い覚えてくれてた、嬉しい…」


「はぁ…まぁいいか、悪いことではないし…2人とも、これからは少しゆっくり出来ると思うよ。アルファスでの屋敷に関して聞きたいんだけどラナさんって学校に来ているのかな?」


「あ、そう言うと思って午後にお屋敷へ招待しときましたよ!ラナさんもアリエス王女から勅令って形でビビったみたいでした…」


「そうなんだ…なんか迷惑かけちゃったね…僕がアルファスに行っても王都へは転移が実装されればすぐ来れると思うよ。アリエス様次第では王城へ直接転移することは出来ると思うし…個人の転移装置も手に入れたからどこからでもって感じかな。今は転移を使うと目立っちゃうから、他の流れ人が攻略終わって転移装置が普及するまでは乗合馬車移動だから時間かかっちゃうと思う。」


「そうなんですね…個人の転移装置ってすごいです!あ、屋敷に関して軽く聞きましたけどまだ施工状態だから移り住むのは当分先らしいです。」


「…それならこの屋敷でゆっくりさせてもらっても大丈夫なのかな?」


「…ん、大丈夫。ワタリならいつまででも。」


 流石にずっと厄介になるのはダメでしょう…でもあの侯爵様ならあり得るんだよなぁ…


「ありがとねイーリス。アルファスに行くのは当分先かぁ…とりあえずラナさんと話し合って決めるかな。」


 僕はラナさんとの再会を心待ちにしつつどうやって流れ人が攻略終わるまで過ごすか考えながら3人でベッドに横になった。

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