第63話 転移が実現した場合の問題
「ワタリさん、先ほどから気になっていたのですがその腕輪はダンジョンで入手したのですか?研究棟へおいてこなくてよかったのかしら?」
僕の身に着けている腕輪にアリエス様が気づいたようだ。
「えっと、これは流れ人の中で最初に40階層を攻略した者に配られるらしいです。まぁ、パーティーのリーダーが現地の方でしたから他の流れ人には気付かれないと思いますが。」
「わぁ…綺麗ですね、シンプルなのにどこか惹きつけられる気がします。」
「流れ人に、ですか…すさまじい能力を持ってそうですね。」
流石アリエス様、神託を授ける存在が厄介なことからとんでもない物と思っているらしい。確かにその通りなんだけど…
「個人用の転移装置らしいですよ、僕にとっては嬉しい限りですが…」
「それは…ある意味ワタリさんが手に入れてくれて助かったわ。街に設置する転移装置も無料ではなく使用料を取る予定なの。流石に無料にすると貿易が狂いすぎるでしょうし…距離に応じた価格を決めるわ。乗合馬車の値段を参考に少し割高にって感じかしら…お金で時間を買うということよ。」
それなら問題はないのかな。途中の村などの事も考えると乗合馬車が出ている方が安心するし、巡回があるから道が荒れないって意味でも転移装置に頼り切りはダメだろうからね。それに、景色を楽しみたいなら転移は無粋だもんね。
「なるほど、分かりました。ただ、これがあることで王城とアルファスの往復も簡単に行えますし、何より新しい土地に行ったときに自宅にいつでも帰ることが出来るのは安心できますからね。急ぐ旅をするわけじゃないですし観光をしながらぐるりと回れたらいいかなって感じです。」
「私も一緒に色んな地域を見て回りたいです。今までずっと部屋に籠ってばかりでしたし…」
ジェミはそうだよね。王族から外れるにしても連れまわして大丈夫なのかな?僕は確認の意味を込めてアリエス様の顔を窺った。
「ジェミの姿は知られていないから大丈夫、幼少の頃の姿は覚えているかもしれないけれど成長した姿は想像できないはずよ。あまり危険なところへ行かないで欲しいけれど…そうならないために治安をよくするのが国であり貴族ですものね。」
アリエス様がため息つきながら頼むわねと視線を送って来た。もちろん気を付けます。それにきちんと魔力を訓練しているようなので後衛としてはかなり優秀になるんじゃないかな?適正はきちんと魔力を制御できるようにしてからのが危険は抑えられるから慌てず練習してほしい。
「今一番対処しなきゃいけない問題は流れ人が他国の影響を受けることね。魔族は危険じゃないってことを催しで印象付けられるといいのだけど…これは運営の仕方次第ね。
あ、ワタリさん。アルファスの領主に土地を融通してくれないか聞いておいたわ。恩もあるし娘に押されて屋敷や庭園についても話が進んでいるそうよ。」
いつの間にそんな大ごとに!?屋敷自体は僕が手を付けても良かったのに…庭園に関してはラナさんと話で盛り上がったからかな?手入れが大変だろうけど、庭師も雇う必要がでてくるのかなぁ…というか領主様よりラナさんのが権力強いの!?娘に甘いだけかもしれないけど大丈夫なのかな?あとでお礼を言わなきゃ。
「なんか領主様に申し訳ない気がするんですが…良いのでしょうか?」
「ワタリさん達が行ったダンジョン攻略はそれほど素晴らしいものなのよ。冒険者の方達にもそれなりの恩賞がでるわ。あとは…敷地は広いけれど、屋敷自体はワタリさんの事を考えて華美にならないようにするって息巻いていたわ。」
「ワタリさん達ほんとすごいです!あのぅ…今日はもうお帰りになられちゃいますか…?ダンジョンの話も聞きたいですしその…泊まっていかれてはどうでしょう…」
「特に用事はないから大丈夫だけど…ダンジョンから出たことはお世話になった方達に送らせてもらうね。もう住民板で伝わっているかもしれないけれど、僕から送ることに意味があると思うし。」
「ワタリさんのそういう心遣いが皆さん嬉しいんだと思います、私もそうですし…」
「だから!すぐ2人の世界を作らない!そんなに2人きりがいいなら部屋に泊まってもらったらどうかしら?」
「アリィお姉さま!そんな…まだ早すぎますよぅ…」
王城に泊まることはいいんだけど流石にジェミの部屋で一緒に寝るのは…冒険帰りの人達みたいにそこまで欲が出ているわけじゃないけれど、まずいと思うよ…?
「2人とも早いと思いながらも興味深々じゃない。私は単に一緒の部屋に泊まったらって言っただけよ?何を想像したのかしら?」
「お姉さま!揶揄わないでくださいよぅ…あの、ワタリさん…もしよろしければ私の部屋でどうですか…?お話聞きながら眠りたいですし…」
「あー…ジェミが良いならそうしようか。ダンジョン探索自体が初めてだったし、40階層までの事を語るとなると時間かかるからね。ただ…疲れが残っているかもしれないから早く寝ちゃうと思うよ?」
「…そういえば、ダンジョンから戻ってきてそのまま引っ張ってきちゃったわね…すぐに食事とお風呂を準備させるわ。ニア、任せたわ。」
あの付き人さん、ニアさんって言うのか。たしかジェミと一緒についてくるんだよね。寡黙で主人を立たせる姿勢で凄いよね。目立たないけれどさりげなく紅茶入れられてたりしてビックリするし。出来る女性ってかっこいい!
それにしても、色々とありすぎて怒涛の一日だったね…このあとはゆっくりできることを考えると頑張ったかいがあるけどね。難易度が下がったダンジョン、他の流れ人はどのくらいで攻略できるかな?
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