第62話 婚姻式には色々と意味があった

 アリエス様に連れられ、ジェミの部屋へ入ったんだけどいきなり抱き着かれてしまった。


「ワタリさん、ご無事でよかったです…とても心配しました…ダンジョンだから長く潜ることになるのは分かっていましたけど…」


 せっかく恋仲になったのにすぐダンジョンに潜ることになっちゃったもんね…そりゃ寂しがるよなぁ…うん、やっぱり恋人同士で親睦深めたりする時間を作らなきゃ!幸い、流れ人が40階層攻略するまでは各催しの準備に当てるみたいだし。


「ジェミ…せっかく恋人になったのに心配させちゃってごめんね?」


「いえ…ワタリさんにはすべきことがあるの分かっていましたから…でも、今はこうさせてください…」


 僕はジェミの背中をあやしながらしばらく抱きしめた。


「あのー…私もいるんだけど…おじゃまだったかしら…?」


「アリエス様、すみません…久しぶりに会えたし、僕の中で寂しがらせた反省も含めてでしたので…」


「…アリィお姉さま、空気読んでください…」


「…ちょっとジェミ、聞こえてるわよ?まったく、ワタリさんの事になると周りが見えなくなるんだから。こないだだって…」


「アリィお姉さま!それは言ってはダメです!」


 …いったい何があったんだろうか?それにしても、ジェミの体調も崩れていないようでよかった。魔力操作もまだ揺らぎがあるけれど、それは魔力量が多いから仕方ないし暴発の危険性もなさそうで安定している。


「ジェミ、きちんと訓練しているみたいだね。魔力量が多いから苦労しているだろうけど見違えるほどだよ。」


「ワタリさんが初めに手ほどきしてくれたからですよぅ…」


 ジェミは会った時のことを思い出しているのか少し恥ずかしそうにした。なんだろう、こう守ってあげたくなる感じの…小動物系ってことかな、可愛いよね。


「そこ!すぐ甘い雰囲気作らない!打ち合わせもする予定なんだから!」


 あ、そうだよね。研究棟で色々と催し物を考えているって言ってたし…


「まず、ジェミとワタリさんに関係あることだと婚姻式についてね。ジェミは王族から抜けるけれど、公爵という立場になるからワタリさんは貴族になるわ。婚姻式のあと治める領地に関して詰めていくわよ。婚姻式も私達王族と友好のために魔族の王族を呼ぶのよ。」


 友好のために魔族を呼ぶのは分かるんだけど、婚姻式に…?宗教国家側が招待されていないのも何かある…?


「アリエス様、なぜグロリオーサの人は呼ばずミンティアの王族を?」


 僕が質問するとアリエス様はため息をついた。


「…私達が住民板を見れるのは分かっているわよね?そして神託をする存在により流れ人の移動範囲外の地域は見るだけなの。ワタリさんの事は直接的に書いてませんが錬金術師というのは広まっているわ。そして、グロリオーサは流れ人を取り込めると思っている、というのをミンティアも理解している。そのためなんとしてもこの国ルクリアと友好を築いて庇護下に入りたいってことね。」


 なるほどね…住民板も使い方によっては危険なのか。変な企みをするとその時点で他国にも気づかれてしまって先手は取れなくなり、逆に対策を取られてしまう。今回はグロリオーサの考えを読んだミンティアが、住民板の情報を元に対応してきたということか。


「確かにそれなら友好を早く築きたいってなりますね…でもなぜ婚姻式に…ってまさか!?」


「きっと、ワタリさんに新しいお嫁さんが出来るんだと思いますよぅ…」


「そうね、あの国は一人娘でジェミと同い年だから15歳かしら?住民板を見ることは出来ないけれど親がワタリさんのことを伝えている可能性あるわ。だからこそ娘とも婚姻を結ばせて関係を強化する意味があると思う。ごめんなさいね、政治的なことに巻き込んでしまって…」


「いえ…間に入るのが流れ人である僕の方が摩擦が少ないでしょうし仕方ないと思います。ジェミって15歳だったんだ…ということはイーリスとラヴィ、ラナさんと同じなんだね。偶然だけどすごいな…リディさんだけ年上だけどみんな仲良くできるかなぁ…」


「ワタリさんと恋仲にある方々ですか?同年代なのは私も安心できますし、お姉さまが増えるのは嬉しいです。」


「後程改めて場を設けましょう。魔族は皆精強なのですが寿命が長い分出生率が低い上に男性の方々はその、欲が少ないの。戦争になったら種が滅びる可能性もあるから回避するために今回の婚姻ってことね。」


 種の保存的なものかな?寿命が短い種は数が多いけれど、長い種は平均出生率が確かに低そう…これが普通だったら増えすぎるもんね。


「まぁ…会ってみないと仲良くやっていけるか分かりませんが、希望に添えるよう頑張りたいと思います…」


「話に聞く限り、活発で可愛らしいみたいよ?あまり気負わなくても大丈夫よ、婚姻がうまく行ったらミンティアはワタリの領地となるでしょうけれど。」


 国を渡されても僕にはどうしようもないのですが…それと女の人が言う可愛いってどこまで信用していいんだろ…


 長寿だし王族の方にそのまま任せてのんびりさせてもらうってのもありかもね。基本はアルファスでのんびりしつつ、ミンティアに遊びに行く感覚がいいけれどどうなるやら…

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