5章 のんびり休息を取ろう

第61話 帰還報告

 僕達がゲートに入るとそこはもう地上だった。あんなに苦労したのに戻るときは一瞬なんだねぇ…僕達が出てきたゲートはすぐに消えちゃった。もう一度入れたら楽なのに…

 あれ?入ったときとダンジョン前の雰囲気が違う?あの衛兵さんなにしているんだろ?ゲートに体当たりしているんだけど…っとザインさんが話かけにいった。


「…なにしてるんだ?」


「あぁいや…このゲートが急に現れたんだが入ることができなくてな…」


 ぶつかっているだけで確かに入れない。出口用なのかな?


「どれ、変わってみろ?…おぉ?通れるじゃないか。」


「あれ…おかしいな…」


 ザインさんがゲートに腕を通している。ザインさんと衛兵さんの違いってダンジョン攻略?


「ザインさん、もしかするとダンジョンの攻略進度かもしれません。」


 僕が答えると納得といった表情をした。


「あーたしかにな。あまり騒ぎにしたくないから簡潔に言うと目標のもんを手に入れた。」


「!?それならこんな変化が起きても不思議ではないですね。ではこれから研究棟へ?」


「そうだな、早めに済ませておこうか。住民板にも情報流して対応してもらえるようにするか。」


「それならば私が軽く流しておきます!ささ、研究棟へ向かってください!」


 なにやらすごく興奮しているんだけど、やっぱり悲願かなにかだったのかな?いままで全く攻略が進まなかったみたいだし、国としても移動が楽になるのは嬉しいのかもしれない。


 たしかにダンジョン前で騒いでたら何事かと流れ人に問い詰められちゃうもんね…ここは素直に頷いておこう。そして僕達は研究棟へ向かった。


「まさか地上にも変化があるなんてね。さすが女神様なのかしら?」


「余計な被害を増やさない様にって配慮なのかもしれないな。ダンジョンに潜るのは一応自己責任ではあるが…おや?ザイン、脱出用アイテムが見当たらないが…なくなってしまったか?」


「…なくなってるな。ま、そんなアイテムが出回れば軽く潜ってみようって輩がでてもおかしくないからこれでいいんだろ。」


 いつでも脱出出来るってことは良いことばかりじゃないからね、気が緩むだろうから。一度しか結局ダンジョンに潜らなかったけれど、ある程度緊張を保ち続けなければ罠や魔物の感知に遅れてしまうし…やっぱり冒険って一筋縄ではいかないよね。



 研究棟の前までくるとシュレーさんが入口にいて、僕達を見ると近寄って来た。責任者自ら出迎えってやっぱり違和感あるよね…前回もそうだったけれど。それだけ今回の事が重要な案件なんだろうね。


「お待ちしておりました。さ、どうぞ中へ。」


 僕達は中へ入り、前回案内してもらった会議室で各自座った。


「んじゃ、とりあえず手に入れたものを並べていくぞ。」


 ザインさんの言葉でアグスさんとリディさんが分担していた魔法武器、魔道具を並べていき、最後にザインさんが宝珠と魔力の発生装置を並べた。


「おぉ…やはり30階以降まで進むと手に入るアイテムのランクもあがりますな。武器に関しては使用した感じどうでした?」


 シュレーさんがこちらに問いかけている間に他の研究員によって解析が進められていく。すごいね…材質やら魔力保有量、出土された装備との相対的威力差なんかも分かるのか!前来た時はみんなのほほんとお茶飲んでいたけど…ここまで解析が速いならやることなくなるよね…あと、新しいもの好きってか珍しいもの好きの人が多いのかも?すっごく目を輝かせているんだけど!


「通常使いは難しいな、燃費が悪すぎる。ただし威力はすさまじいの一言だな。だが、ダンジョン以外だと素材すら残らん可能性がある。」


「ある意味決戦兵器みたいなものですか…必要な適正は属性だけなので汎用性は高いですな。血統とか特殊な因子が必要となると使い手が限られてしまいますし。」


「そこはほんと助かったわ。40階層のフェンリルを相手にこれらの武器がなかったら大変だったもの。」


「後で俺から30階以降のレポートを提出しておこう。攻略できる人員は少ないだろうが、あるほうがいいだろう。」


 アグスさんならまとめるの上手そうだから安心!これがザインさんが書くことになってたら…ぞっとする…死ななきゃたどり着けるみたいに書きそう。


「そして…これが魔力発生装置ですか。設計図と同じ形ですしなにより魔力の保有量、まったくわかりませんね…常に生み出しているのでしょうか…また、こちらの宝珠も同じ形ですし…装置と魔力で繋がっていますな。」


「ワタリの見解になるが発生装置から宝珠を通してクモの巣のように転移箇所を繋げるもんらしいぞ。」


「…なるほど!それでしたらどこかの宝珠が魔力量が減るという事はないですね。平均的に満たされるということでしょう。宝珠自体も少しは魔力を生み出すようなので異常事態の時にも備えられますな。この宝珠、30階以降で手に入るんですよね?いまは3つですか。」


「それ以上は流れ人から買うって感じになるだろうな。宝珠自体に効果はなんもないから安く買っても不自然ではないだろうよ。国中に転移網を作るなら数が必要だろう?」


「そうですな…ダンジョンも難易度が下がるならそのうち到達できるでしょうし、多ければ国外とも繋げられますからね。」


 こうやって見ているとザインさんはしっかりリーダーやっているんだなぁって思う。なんでダンジョン中は脳筋なのか分からないけれど…任せられる仲間がいるからって考えなのかもしれない。


「あ、シュレーさん。国外に関してなんですがちょっと気になることがあるんです。」


「おや?ワタリ君どうしたのかな?」


「ザインさん達に国外の事を聞いたのですが、魔族の小国と人族至上主義の国の事を聞いて不安な部分があるのです。流れ人の国では魔族は悪と捉える創作物が多いので人族至上主義の影響を受ける可能性があります。」


「それは危険ですね…この国、ルクリアからの航路はその2国なのですが…まずは魔族の国、ミンティアは小国で細々とですが交流があります。といっても行き来は現在はしていませんが…私達人族とは容姿が違いますが基本的に穏やかな性格をしています。からかうのが好きな種族もありますがそれは人も同じですし。そして人族至上主義の宗教国家グロリオーサですね。同じ女神様を祀ってはいますが解釈違いで相違があります。狭義で捉えているのがグロリオーサ、広義的なのがルクリア、という感じです。

 どの部分が狭義かは…種族に関してですね。人から枝分かれした種族を排他するか認めて手を取り合って友好を築くかですな。」


 どの世界にも種族の違いで色々とあるんだねぇ…宗教って確かに解釈の違いで捉え方が変わるから難しいけど…僕が会った女神様は全て等しく認める、愛するみたいな印象だったし。まぁ…流れ人に関しては微妙だったけれど…


「国としては魔族と友好を結ぶわ。そのための催しとして闘技大会、職人によるアイテムの展示をして優秀な品をオークション形式で競売。あとは妹の婚姻式に魔族の王族を招待するわ、規模は小さく身内と魔族の王族だけにするけれど。」


「あ、アリエス王女様!いつのまに部屋へ!?」


「シュレー、あなたが時間を忘れて話し込んでいると思ったから来たのよ。ワタリさん久しぶりね。そして3人の優秀な冒険者達、今回はほんと助かったわ。」


「い、いや…俺達は出来ることをしただけだ…ワタリ、先に戻ってるぞ!今回は助かった!」


「ちょっとザイン!王女様が来たからって慌てなくても!まったく、堅苦しいのが苦手なのは相変わらずね…それじゃワタリ、今度妹さんを紹介してね?あと他の人達も!」


「あ、はい!今回はありがとうございました。リディさん、今度皆さんで顔合わせしましょう!」


 アグスさんがため息つきながらザインさんの後を追っていった。


「…ワタリさん、モテモテですね?ジェミをないがしろにしないようにね?」


「しませんよ!皆さんほんと良い人ばかりなので順位などつけれませんが…平等に愛しますよ!」


「それなら良いです。ではシュレー、ワタリさんを連れて行かせてもらいますね、ジェミが会いたがっていますので。」


「はは、こちらはもう大丈夫ですよ。後で報告書をまとめておきます。」


「ではワタリさん、行きましょう?」


 ジェミと久しぶりに会うけどダンジョン潜ってたから心配させちゃったかな?元気にしてくれてると良いけれど…

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