第58話 種族の事情

 一方、ラヴィとイーリスは学校にある食堂の一角でのんびりとくつろいでいた。


「ワタリさん達がダンジョンに潜って結構経ちますね…大丈夫でしょうか…」


「…戻ってきてないなら進んでる証拠。」


「そうなんでしょうけど…イーリスちゃんは心配じゃないんですか?」


「…心配だけど…戻ってきたとき私達が成長していないことでガッカリされたくない。」


「うっ…ちゃ、ちゃんと練習しているじゃないですか!前よりかなりスムーズになっていますよ!」


 ラヴィとイーリスが話していると、そこへ一人の女生徒が近づいていった。


「イーリスさんとラヴィーネさんお久しぶりですわね。」


「あ、ラナさん!お久しぶりですね!もう街は大丈夫なのですか?」


「…ラナ、久しぶり。」


「イーリスさんは相変わらずですわね…街は…やっと落ち着きを取り戻した感じですわ。次にまた来たとしても皆様慣れてらっしゃるので混乱は起きないと思います。

 あら?お二人とも魔力操作を練習中ですの?」


「そういうラナさんだってしているじゃないですか。私達はとある方に直接教えてもらったんですよーえへへ。」


「ラヴィーネさん?淑女としてその顔はいただけないと思うわ…何を想像したのかしら。」


「…ラヴィは最近すぐこうなる。」


「お父様からイーリスさんとラヴィーネさんがワタリさんと懇意なのは聞いていますわよ。私にも打診が来ていますし、もしかすると一緒に暮らすことになるかもしれませんわ。」


「あ、やっぱりそうなんだ!ラナさんとこれからも一緒にいれるなんて嬉しい!」


「うん、一緒…」


 嬉しそうにするラヴィとイーリスをよそにラナは少し困った顔をしていた。


「お父様が王女様直々にアルファスで土地を用意しろって言われていたわ…いきなりなんだと思ったらワタリさんが関わっていたのですね…何をしたら王族と婚約になるんですか…」


「それ、私達もビックリしたよ…屋敷に帰ってきてこれからの予定聞かされた時に言われたもん。」


「あの方はびっくり箱みたいですわね…これから先も色々苦労させられそうですわ…嫌ではないですが。一体今はダンジョンでどう過ごしているのかしら。」


 そう言い、3人はお茶を楽しむのだった。




 ワタリ達は現在39階まで来ていた。なぜここまで攻略が速いのか…


「それにしても、迷路区域じゃなくなったのは助かったな。あのままずっと続くようだったら気が滅入ってたぜ。」


「ほんとよね…でもまさか地下35階からデュラハンやヴァンピールが出て来るとはね。」


「唯一の救いはヴァンパイアじゃなかったことだな。人からヴァンパイアになったハーフというものだから純血よりは力が劣るし。」


 鎧と死霊ってことで一応予想は出来ていたんだよねデュラハン。ただ、ヴァンピールは完全に予想外だった…死霊というより夜の眷属ってイメージだったし…


「ハーフつっても脅威だがな…コウモリの情報をもらってこちらへ襲ってくるしな。ワタリのおかげで対策できたが。デュラハンは正攻法しかないがな。」


「ワタリがこちらに有利な場を整えてくれているから普通より楽でしょ!」


 僕がしていたのはコウモリには音波対策、通路をふさぐように魔力の壁を設置していって進む感じかな。壁のおかげでコウモリの索敵を無効化できたから、ヴァンピールは真正面から突っ込んでくるしかなくて不意打ちされなかったんだ。

 困ったのはデュラハン対策なんだよねぇ…とりあえず鎧なんだし油まいてこけてもらったんだよね。あと、一応ゾンビというか死霊扱いなんだから火が効くかなって思ってリディさんに燃やしてもらったり、その後急速冷凍してみたりしたらすんなりザインさんやアグスさんが鎧を破壊出来たというね。


 油に余裕があるから取れる戦法ではあったけれど現地人だけだったら貴重な油をこんな風に使うなんて考えられないだろうし、流れ人はやっぱずるい部分があるよね。女神様的にはそこで現地人の成長を促す起爆剤になればいいと考えているかもしれない。発想を伝えるみたいな…まぁ、すでに運営と女神様の意識が乖離しているからな…女神様も完全に拒否したら消されるだろうから大丈夫な部分で介入しているっぽいし。


 運営が帳尻合わせようとするから不満がたまった結果なんだろうな…ある意味、そのおかげでAI達が独自に思考するようになったって感じだから僕としては異世界に来たように思えてよりリアルに感じるけど。


「油に余裕ありますしヴァンピールは人が基準っぽいですから冷気が効くのが嬉しいですね。耐性もっていたらどうしようかと思いましたが…」


「耐性持ちは基本純血種だから大丈夫だろう。ハーフになると能力の劣化って覚えればいいぞ!ただ、それは知性のない魔物同士のハーフやダンジョンの場合だから偏見を持ったらダメだぞ?」


「そうよ!人と他種族のハーフとか良いとこどりになったりするんだから!昔は人と知性のある魔物種が結ばれることもあったみたいよ。」


「だな。今では魔族って呼ばれているが起源をたどると人になるから種族で偏見を持つことに意味はない。」


 人と魔族が争っていないってのは初めて聞いた。起源が同じだし、それぞれの種族で特色があるから住み分けというかお互い仲良くしているのかも。


「そうだったんですね。流れ人の考えは多分魔族は悪って思っている人が多いと思うので気を付けたほうがいいかもしれません。」


「…それはダンジョンが終わったら情報を伝えておこう。この国から海へ出ると航路が2つあるんだが、そのうちの一つが人族至上主義でな。もう片方は今は交流が細々とだが魔族の国なんだよ…何も起きなければいいんだが…」


 これって、運営が利用しそうな部分だよね。魔族を作ったはいいが言う事を聞かないからイベント扱いで消すとかしそうだけど…そんなことにならないといいな…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る