第59話 苦戦!…苦戦?
地下40階層手前のセーフティエリアで休んだ後に扉前まで進んだ。
「しっかし、とうとう地下40階か…攻略を急いだわけじゃないが、こんだけ探索してここまで早く来れるとはな。」
「ほんとよね、しかも休息時はしっかり休めたり体を清められたり快適だったわ。」
「転移の魔道具に使えそうな宝珠が見つかってよかったな。今は魔力が含まれていないがかなりの容量入りそうだぞ。」
そう、途中でいくつか宝珠を見つけたんだけど魔力保有限界が高いってくらいで他に効果がないんだよね。推測にすぎないけれど、転移装置の図面に似たようなものが描かれていたからおそらく合っていると思うんだ。でも、空っぽの魔力を補充しないと使えないだろうし、人から魔力を補充しようとしても満タンにするのにどれだけ必要か分からない…
その答えがこの先の部屋にあるんだろうな。一体なにが待ち構えているのか…
「基本戦略として俺とアグスが前に出るぞ。ワタリとリディは援護してくれ。ただ、全体攻撃持ちだった場合は致命傷を受けない様に各自対応してくれ。いざとなったら俺の判断かアグスで脱出アイテムを使用する。近くにいなくてもパーティーとして登録していれば効果あるのはほんと助かるよな…」
「情報がないから慎重にいかないと危険だろうな。ただ、今回は倒す必要があるから突発的な事にも対応しないといけない。」
「回復薬はかなりあるけれど、どんな魔物が来るかによってじり貧になる可能性もあるわ。」
僕の作った回復量の高いポーションでも瞬間的に治るものではなくジワジワと治るものなんだよね。傷口は塞がるし骨折も治るけれど、失った血は戻らないし部位欠損は治らないんだよね。
一応、錬金で偶然出来たもの(魔力を込め過ぎた)はあるんだけど、部位回復ってかなりの激痛伴うと思うんだ…だから麻痺薬を局所的に効くように改良をしたものを併用する必要がある。いざとなったら僕が皆を手助けしなくては!
「んじゃま、いっちょ倒すか!」
僕達は地下40階層に入った。
部屋の中は隠れられる障害物もない広い空間であった。そして僕達と対峙するのは一匹の銀色の毛を持つ狼。
「あ、あれってもしかして…フェンリル!?」
「おいおい…災害級の魔物じゃねぇか…地上だと知恵もまわる魔物筆頭種だぞ!」
「奴の体毛には魔法が効かない!絡め手や物理攻撃を主体で行くぞ!」
アグスさんが対応方法を指示し、ザインさんとともにフェンリルへ接近していった。
魔法が効かないって僕の天敵じゃないか…罠を設置する?あの毛を越えられる?傷もつかなかったら状態異常は効かない…考えるんだ!
素早く動くフェンリルをザインさんとアグスさんが捌き、リディさんが援護射撃を行っている。遠くから射られ鬱陶しく思ったのかフェンリルが狙いを変えた。
「リディ、避けろ!」
しかし、リディさんはその声により逆に硬直してしまい動けなくなってしまった。僕はリディさんの体を強引に突き飛ばし、僕自身は反発の力で反対側へ避けようとしたが間に合わず腕が食いちぎられてしまった。
「ぐっ…!!」
「おら!こっちこいや!アグス、時間稼ぐぞ!リディは攻撃控えてくれ!援護するなら相手が飛び掛かってくるのに注意しろ!」
「わ、ワタリ!大丈夫!?」
「大丈夫です!今は戦闘に集中してください!ちょっと我慢すれば治せますので!ザインさんとアグスさんへの援護任せます!」
僕はいざというときに準備していた麻痺薬を食いちぎられた箇所に塗布し、ポーションを患部にかけた。ポーションは飲んだ方が効果が高く体全体に効果が行き渡る。けれど今回みたいな麻痺させたいのが一部分の場合にはかけた方がいいんだ。即効性も高くなるしね。
くぅ…麻痺して感覚が鈍くなっているのに痛みがくる…骨から伝わってくるのかなこれって…衝撃が伝わるみたいな?自分で作った薬だけど、腕が生えて来るのって不気味すぎる…しかも傷口から徐々に再生なんだねこれ…骨が出来て筋肉が出来てという内側から外側の組織が出来ていくイメージ。
「はぁ…はぁ…きっつぅ…」
腕が再生し終わり、僕は麻痺を解いた。フェンリルの体にはあちこち切り傷は出来ているが致命傷には至っていないようだ。リディさんの放つ矢は爪で破壊されているが腕を一本使わせることでその間にザインさんとアグスさんが攻めているようだ。
「ワタリ!すごく汗かいているけど大丈夫!?」
「えぇ…痛みに耐えただけですので。それより一案あるのですが良いですか?」
そう、さっきからフェンリルの行動をみるとリディさんの矢を警戒している。そしてあちこちに傷が出来ているってことは突きに弱いってことだ。道中で拾ったミスリルを突き刺すことも考えている。それよりもまずは相手の機動力を奪う!アイテムを整理しているときに見つけたこれを矢に付けてもらって射ってもらう。
「リディさん、この袋を矢に括り付けてフェンリルに射ってくれませんか?」
「なんかやけに厳重ね…魔力で中のものが漏れない様になっているわね。」
「上手くいけば相手の機動力を抑えられると思います。その後に僕はミスリルの棘を生成しますので総攻撃をお願いします。」
「これの中にミスリル?分かったわ!やってみる!ザイン、アグス!気を付けてね!」
リディさんは袋を矢に取り付けフェンリル目掛けて射った。案の定フェンリルは矢を破壊しようと爪で迎撃をするがその際に袋から黒い塊があらわになった。その瞬間部屋の中には腐臭が広がった。
「ぐあぁ!?なんだこれ!」
「ぐっ…鼻がおかしくなりそうだ…」
「ねぇワタリ、さっきのあれってもしかして…」
リディさんが鼻を摘まみながら訪ねて来た。そう、あれは地下16-19階で出てきたゾンビ達の匂いを凝縮した塊。フェンリルはもはや戦闘どころではなく転げまわっている。鼻が利く魔物には脅威だろうね。
そして僕はトドメとばかりに一緒に混ぜていたミスリルによる棘の罠を複数発動させた。ミスリルは容易くフェンリルの毛皮に突き刺さり相手を拘束した。
「皆さん今です!」
僕の声により持ち直した2人とリディさんが道中で手に入れた魔法武器を手に取りフェンリルへ突撃していった。魔法武器ってすごい威力なんだね…エフェクトが炎やら氷やら雷やらすごい…動けないフェンリルはなすすべもなく総攻撃を受けそのままトドメを刺された。
「ふー…ワタリのおかげで形勢逆転できたが…この臭いどうにかならんか…?」
あ…僕は消臭スプレーを取り出し部屋へ散布した。でもこれで…
「地下40階突破ね…やったわ!」
「危なかったところもあるが…ワタリの機転には驚かされるな…だが先に臭いのことは言ってほしかったぞ…」
「いやぁ…知能が高いって言ってたからこちらの言葉も理解している可能性あるじゃないですか…」
「そうだな!何はともあれ攻略完了だ!…しっかしこれ以上先に進めないようだが、どうなってるんだ?」
僕らが不思議に思っているとフロア全体が揺れ、部屋の中央にゲートが出現した。そして奥の壁には下へ降りる階段らしきものが見える。
「ご丁寧に看板があるわ。何々…地下40階層で女神の作った階層は終了。その後は神託後に生成された…と。なるほどね、40階層以降は流れ人用って感じかしら。」
「神託後ってことならそうだろうな。意味を考えればここまでのが生ぬるいってくらい厳しい領域ってことだろう。」
「なら俺達のここでの攻略は終わりだな。他の地域のダンジョンや依頼を巡る方針でも大丈夫か?転移が実装されればリディも気軽にワタリへ会いに行けるだろうし平気か?」
「そうね…それで大丈夫よ。でもワタリから何か頼まれたらそちらを優先してもいいかしら?」
「それなら問題ないぞ!ワタリにはかなり助けられているから当然だろう?」
「良かったわ!あ、それとドロップはどうだったのかしら?」
「えっと…これがきっと転移に必要な魔力発生装置だと思います。」
「へぇ…宝珠みたいなやつね…って宝珠へ魔力を供給しはじめたわよ!」
「これ、離しても魔力の線がきれてないな…つねに供給されているってことなのか?」
これって多分電力の供給と同じかも?発電所の装置からリンクさせた宝珠へ供給。そこで繋がりができて転移装置に組み込むことでその場に飛べるようになるってことだよね。
「複数の宝珠を装置へ繋げてみたけれど、装置と繋いだ宝珠同士も魔力が繋がるわね」
「多分、宝珠を装置と繋げれば宝珠同士の場所にも転移が可能になるんだと思います。」
「ってこたぁ遠い地にも転移を普及させるとなると宝珠を持ってく必要があるってことか。こりゃ依頼としてでるかもな。盗まれても困るものだし高ランクにだろうな。」
「転移装置も普及予定箇所に運ぶなら国としても動くかもしれんぞ?まぁ、とりあえずゲートに入って戻るか。」
「あら?ワタリ、その見ている腕輪はなにかしら?」
これはいつの間にかバックに入ってたんだよね。ドロップとして倒した箇所に落ちるのではなく僕のバックへ…流れ人である僕だけってことは初討伐報酬?でもこれってなんだろう?
-それは個人用の転移装置です。地下40階層初討伐報酬になります。これから街に転移装置が普及されていきますがその腕輪があればどの場所からでも各街に転移できます。
って女神様!?頭の中に直接語り掛けて来るとは…ビックリしました。個人用とは…破格すぎますね、助かりますが…それにしても、ここって流れ人達に攻略できるのですか?基礎が出来ていないとかなり厳しい感じがしましたが…
-それについてはこちらも把握しています。神託を行う存在から指示があり、難易度を下げる方針です。魔力による手段を問わなくても攻略できるようになるでしょう。
それってかなり難易度下がるよね…全くの別物って感じなんだろうな。まぁ…高難易度は40階層以降って感じにすればいいんだろうね運営は。あ、僕達がクリアしたから難易度を下げるってことなのかな?
-いえ、それは関係ありません。単に他の流れ人の攻略進度が遅かったためです。
なるほどな…とりあえず、女神様ありがとうございます。この腕輪大事に使わせていただきます。
「どうしたのワタリ?ぼうっとして。」
「いえ、女神様から声がかけられていました。しばらくするとダンジョンの難易度が下がるみたいですよ。ちなみにこの腕輪は流れ人で初討伐報酬ってことらしいです。なんと個人用転移装置とのこと。」
「まじかよ!個人用とかどこにでも出かけられるようになるじゃねえぁ!俺達と冒険するのもありってことだよな!?それにしても…難易度下がるって俺達が攻略したからか?」
「あー…なんでも流れ人の攻略進度が遅いかららしいです…冒険に関しては、これからの生活次第ですかね。海の向こうも見てみたいですし、恋人達とも過ごしたいですし。」
「…もう少ししてから潜っていればかなり楽にここまでこれたのか…まぁ俺達もワタリのおかげで楽に来れたが…」
ちょっと情けなく感じるよね…流れ人が予想外に苦戦しているってことに。微妙な雰囲気になりながら僕達はゲートをくぐった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます