第46話 見えない疲労に注意

 時間の感覚がダンジョン内だと分からなくなりそうだけど、流れ人は確認することが出来るからそこは助かるね。現地の人達だと体内時計というか疲れたら休むみたいになっちゃうらしい。


 現在地下9階でここまで来るのにかかった時間は11時間。途中休憩をはさみながら探索してきて、ボス前のセーフティエリアでしっかり休む予定となっている。出て来る魔物はゴブリンでジョブが分かれているため多様性がある。しかし、まだ統率が取れている攻め方をしてこないためそこまで脅威ではないけれど、リーダー格が居たら危ないんだろうな…


 罠も魔法的な物じゃなく踏んだり押したりしたら発動するタイプのものばかりだった。リディさんが言うにはランダム性があるけれど巧妙なものは地下深いほうが多く発生するらしい。初見殺しや浅い層で殺傷力の高いものはさすがにないんだね。

 僕が考える致命的な罠って防具を外させる系だと思うんだよね…敵が襲ってくる中で着直すの大変だろうし。あとは不快感がでる匂いや液体を浴びるとか危ないと思う。戦意を削ぐ方針の罠とかね。


「このペースって探索としてはどうなんですか?」


 僕が質問すると、アグスさんが答えてくれた。


「今回は結構ゆっくりだな。俺達としては基本もう少し先からきっちり探索を始めるが、それは食料問題があるからだな。今回は腰を据えての探索と思ってくれていい。それに、地下へ潜るほどフロアは広大になり、時間がかかるからな。」


 なるほど、やっぱり探索で食料は重要なんだね…


「あとはきちんと探索をして脱出アイテムが出たら嬉しいわ。やっぱり保険があるのとないのじゃ違うもの。」


「そうだな…ワタリ、先に言っとくが地下10階のボスはゴブリンキングだ。手下を召喚してくるぞ。無視してキングを倒そうとすると手下がさらに手下を呼ぶんだ。部屋を埋め尽くすまで増えるから気をつけろよ?


 鼠算式に増えていくのはかなり危険だね…なら攻略法としては手下が召喚されたら優先して倒してってことなのか。


「それなら僕が手下を相手するのが良さそうですね、皆さんでボスを集中的に攻撃して、手下が増えるようでしたら加勢してもらう感じですか?」


「おう、そうしてくれると助かる!ワタリの負担を減らすためにもボスを早めにって思っていたしな。それに、俺達はそこまでゴブリンキングに苦戦しないからな。」


 やっぱりみんな強いんだね。死なずにこのレベルまで鍛えるのは慎重だけどきちんと討伐に参加してきたってことなんだろうな。


「お、降りる所見つけたな。ここでこのフロアは最後の探索箇所だったからセーフティエリアで当初の予定通り仮眠をとるぞ。」


 楽に進んでいるように見えて気を張りつめてるから、精神的疲労がたまるんだよね…僕は後ろから明かりを照らしたり、魔力による探索補助をおこなったり、リディさんに罠の解除を習うくらいだったからまだマシなんだろうけれど…これに戦闘が加わるとね…見えない疲労が蓄積している時ほど注意が必要だろうし…


 僕達はセーフティエリアで一休みをする。とりあえず食事の準備かな。テーブルとイスを人数分だして、作ってすぐバックに入れておいた料理をだす。温かいままだからほんと助かるよね、みんなが僕を連れて来るのがよく分かる。…ってなんかみんな呆れてるんだけど…


「あー…確かに食事は頼んだんだけど…テーブルとイスが出て来るとは思わなかったな…」


「そうね…ダンジョン攻略中ってのを忘れてしまいそうになるわね…」


「ワタリのことだから他のも用意していそうだな…」


「そこまで準備していませんよ…あるのは布団とシャワー用の個室ですよ。」


「それだけあれば十分よ…でも、シャワーはほんと助かるわ、ダンジョンの中だと匂いとか酷くなって…いつもは諦めているんだけど嬉しいわ。」


 喜んでくれてよかった。匂いって重要だからね。清潔にしていないとそれだけで病気になる可能性も上がるんだから、出来ることならなんとかしたいもんね。


「セーフティエリアは見張りの必要ないからしっかり休めるぞ。」


「私は最後にシャワー浴びるからあなたたち先に良いわよ?」


「…なにか企んでるな?ワタリを巻き込むなよ…」


 あー…きっと一緒にとかなのかな…


「えーっと、リディさん…愛玩人形とかそんな考えじゃないならきちんとこちらも考えますよ…?」


「そりゃそうだよな、真剣な考えなら真剣に答えないと失礼だもんな。おいリディ、どうなんだ?」


「普段の絡みを見ると可愛いもの好きってだけにしか思えないんだよな…」


「失礼ね!ちゃんと男性として見ているわ!ただ、可愛いから好きってわけじゃないわよ。最初は男性として珍しい容姿で興味をもったからだけど、普段の連絡や一緒に旅して驚かされるけど頼れる人って思っているんだから!」


 ちゃんと考えてくれてたんだなぁ。そうなると僕の答えはある程度絞られるね…来るもの拒まずだけど、他の子達と仲良くしてくれる人なら嬉しいし。


「それならきちんと返事しますね。僕に好意を持ってくれている方が複数いるのでその方々と仲良くできる方ならいいのですが…そもそも複数の方に良い寄られるとは思ってなかったけれど…それに、僕としてもリディさんを好ましく思っていますよ?」


「…モテるだろうとは思っていたけれどそんな状態とはな。ワタリやるなぁ…」


「いえ…まだ気持ちに答えただけで何もありませんよ…そもそも拠点もないですし移動のしづらさから遠距離での恋は難しいと思いますし…なので転移装置が実装されればきちんと関係を持ちたいと考えていましたから。」


「ワタリは安定志向だな。冒険者としては見習うべき点だろう。宵越しの金を持たないやつが多いからな…」


 そもそもモテたいために始めたわけじゃないからね…自分が今まで培ってきたことが活かせたら良かったんだから。


「どんな子がワタリと付き合っているのか分からないけれど、きっと大丈夫よ!悪い子はいないだろうし。…ちなみに、どんな子達なのか教えてもらえないかしら?」


「えっと、レグルス伯爵とノルニール侯爵の娘さんとジェミニ王女様ですかね。王女様は身分を捨てて僕のところに来ますし。あとは仲がいいけれどどうなるかは分からない人がいるかな…」


「…国の中枢に近い人達ばかりでビックリしたわ…私、やっていけるのかしら…」


 僕が答えると何やらショックを受けた模様。大丈夫、立場で選んだわけじゃないので気にしないでください、と僕は答えておいた。

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