第23話 北はてんやわんや

 北側は何というか…死屍累々というかゾンビアタックの真っ最中って状態だった。たしかに流れ人はそれが出来るけど…人数がいるから均衡しているけどさ…かなり士気は低い。


「これはなんというか…さすが流れ人ですねぇ…」


 ロエナさんがあきれ顔で言った。僕もそう思う…住民達がこれに参加してなくて良かったって思うほど…とりあえずなぜこんな状態になっているのかを確認する。


「これって飛んでいる魔物に対処出来てないからですかね?」


「そのようですね、地上の虫などはちゃんと倒せていますが蜂や蝶など飛行型の魔物に遠距離の方々が当てられないようです。」


 やっぱり…んー…体長50cmはあるけど、矢とか魔法当てるのは苦労しそうだね、範囲で一気にならいいけど…リアルなら雨で飛べなくなるよね。


「一応考えてみたんですが、水魔法により散水というか霧を作るのはどうでしょうか?僕達の世界だと虫は小さいのですが羽に水滴がつくことで飛べなくなります。この世界は大きいのでもし落ちなかったら雷で放電させて落とすとか。」


「なるほど…たしかに飛べる状態じゃなくなれば今の人数でも十分対応できそうですね。でもそんな細かい操作できる人がいるかどうか。」


「あ、大丈夫ですよ僕がやりますので。とりあえず水を細かい粒子にして風で運んでっと…ん-、落ちる気配がありませんね…」


「そうですね、でも動きは鈍くなった気がしますが…」


「それでは雷を流してみますね!」


 僕は大気中で水分が飽和状態になった霧に向かって雷を打ち出した。

 眩い光の後に轟音が戦場に響きわたる。


「すさまじい光と音ですね…まだ目がおかしくなっています…」


「先に言っておけばよかったですね…ここまでなるとは思いませんでしたが…」


 戦場を見ると大量の蜂と蝶が落ちていたが、流れ人も魔物も動きが止まっている。死に戻りから帰って来たらしい流れ人達が魔物に突っ込んでいく。目と耳がやられたのか魔物達は動けず倒されていく。


「この状態を生産職の方が作り出したとは誰も思わないでしょうね…」


「名乗り出る気はありませんよ…流れ人は嫉妬深いですし、面倒事になりそうですから。それに、戦場はもう大丈夫そうですね、流れは完全にこちらになっていますし、追加で現れる気配はありませんし。」


 もう誰が一番倒すか競い合っている状態である。…でも、オーガはいつ来るんだ?

北側だと思ったんだが


「グオオオォォォ!!!」


 あたりに咆哮が響き渡る。


「お、あれがボスか!俺がつっこむぜ!」


「いやいや!俺が打ち取ってやる!」


「情報が何もないんだから様子を見たほうがいいんじゃない!?」


 流れ人達はオーガに突っ込んでいく。しかし鋭く振るわれた棍棒により薙ぎ払われた。


「やべぇぞ!盾持ち前で防ぐぞ!遠距離はどんどん攻撃してくれ!」


 その声により流れ人は自分達の役割をこなそうと分かれる。しかしオーガも黙っておらず、雨あられと降る遠距離攻撃の発生源に突っ込んでいく。


「おい!ヘイト取り過ぎだ!タゲ維持ができねぇ!」


「攻撃パターン見切れてないから殴るタイミングがつかめん!遠距離はまだ攻撃抑えておいてくれ!」


「俺が進行方向に割り込む!その間タゲを取り戻してくれ!」


 一人の戦士が遠距離とボスの間に割り込む。両手に持った斧をオーガの足に振るった。


「ちぃっ硬ってぇ!だが俺一人で倒すんじゃないから止められれば…もっかい!

 とまれぇぇぇ!」


 戦士がオーガの脚に渾身の一撃を食らわせ転倒させた。


「いまだ!集中攻撃しろ!盾持ちも殴ってヘイト頼んだ!」


 うぉぉぉぉ!あたりに流れ人の叫び声が響く。


「これはいけそうですかね?」


 ロエナさんが聞いてくる。このまま行けるのかな?オーガの様子を見るに最後にやらかしそうな気がする…


「んん…念のためオーガが踏み込んだら崩れるように地面に空洞でも開けときますか。」


「ワタリ様って結構用心深いというか思慮深いですね…。軍師としてもやっていけるんじゃないですか?」


「個人ならともかく、大勢の人の命を左右する軍師なんて荷が重すぎますよ…僕にはそんな覚悟はありません…」


 そんな答えを聞いてロエナさんはクスっと笑い


「ワタリ様らしいですね。…あ、オーガが思いっきり棍棒を振ろうとした時に地面が崩れましたよ。これで決定的ですね、一方的に攻撃できる状況を作り出しましたね。」


「ただの落とし穴じゃなく、効くか分かりませんが土でトゲを作ってあるんですよ?」



―オーガの討伐を確認。これより討伐数と貢献度を集計しポイントを付与します

 ポイントを使いアイテムと交換になります―


「あ、オーガを倒したみたいですよ?防衛成功したみたいで良かった。」


「ほんとですね。しかし、流れ人はすさまじいですね…私達にも流れ人が悪事を行った際に裁く権利を女神様から渡されているとはいえ、少し恐怖します…」


「僕も注意していかなきゃですね…それではロエナさん、護衛ありがとうございました!ラナさんによろしく伝えておいてください。あ、でも僕のやったことはしゃべらないでほしいかなぁと…」


「さすがに無理ですよ?私兵の方々はワタリ様の活躍を分かっていますし。」


 うあー…ロエナさんに抱き着いてるとこ見られてるよな…打ち首だけは勘弁してください…


 僕は少し心配に思いながら街に向かう。

 街の中は防衛が成功したことを知らせるために冒険者の偉い人?が演説している。


 教会の中は住民で溢れかえっていた。シスターが回復魔法を放っているが顔には疲労がうかがえる。僕はシスターに近づき回復ポーションの寄付を申し出た。


「ありがとうございます!重傷者には魔法で対処しましたがすべての人を見れるわけではないので…」


「一人で根を詰めるのも良くないですよ?防衛は成功しましたし、新たな重傷者は現れないと思います。」


 そう言って僕は礼拝堂の奥に行き女神様に祈りを捧げる。


 女神様、無事ベスタの防衛に成功しました。住民に死者はなく重傷者はいても回復出来る範囲です。すべてを救えるわけではないですが、僕が女神様から授かった錬金術を使い、少しでも住民達の負担が減るよう一層努力をしていきたいと思います。

 今回、魔物と直接対峙したわけじゃないので戦利品はありませんが事前に作っておいた回復薬を供物として捧げます…


 しばらく目を瞑り、祈りを終える。


 こうやって、住民の被害を見ると自分には何が出来るのかって考えさせられるね…流れ人はイベントと思っても、そこに住む人達には脅威なんだから。

 一度アルファスに戻りこれからどうすべきかテオに相談してみるかな。

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