第11話 生産は大変だ
「むぅ~…!」
隣では貴族のお嬢様が唸っている…どうしてこうなったんだ…
昨日は金属成型で疲れて、作業が終わったらすぐベットで寝たんだよね。頑張って加工したおかげで魔力の浸透効率が上がったし(銅だけかもしれないけど)朝もテオの分を作って起こしに行った(抱き着き癖があるのかな?)くらいだけど…
その後は魔力操作の練習しながら図書館のベンチを目指しただけだよね…なんでこのお嬢様は唸ってるんだ…
「えっと…ラナさん、なんで機嫌が悪いのでしょうか…?僕がなにかしちゃいました…?」
「知らない!」
ぷんって聞こえそうなほど顔を背ける。
誰か助けて…
「ふふ、お嬢様はワタリ様からの連絡を今か今かと待っていたのですよ?流れ人の眠りについている際も毎日ここに来ていましたし。」
「ちょっと!?言わないでよ!…恥ずかしいじゃない…」
なにこれ、可愛いんだけど…確かにフレンドなっているしメッセージ送ればよかったんだけど問題があってさ
「えーっと、貴族のお嬢様にメッセージを気軽に送って良いのか迷いまして…しかも婚姻をまだ結んでない女性に対して…」
そう言うとラナさんはばつが悪そうな顔をして
「それもそうね…でも私から頼んだのだから大丈夫よ。それに、許嫁がいるわけじゃないから私が誰と仲良くしていようが文句は言わせないわ!」
「それなら次からはきちんと連絡しますね、せっかくここまで来てもらったのにいなかったら寂しいでしょうし。」
「だ、だれも寂しいって言ってないじゃない!もう!」
こんな気さくな貴族って他にいないんじゃないかと思ってしまう。初めて会った貴族がラナさんでよかったかも?
「というかワタリ、あなたずいぶん魔力操作上手くなったわね。淀みなく流れてとても綺麗よ。結構、眠りについていたみたいだからその間衰えていると思ったのに。」
「昨日は錬金の練習で魔力操作を行っていたから、それが表れているのかも?かなり苦労したし…」
「錬金ってかなり難しいって聞くわ。それが出来るってあなた優秀ですのね。他の流れ人達に聞かせてあげたいくらいだわ!」
そういえば他の流れ人がどんな活動しているのか知らないや。錬金に来てないから生活圏が違うからなのかもしれないけど…
「あまり有名になりたくはないんですが…結構流れ人って嫉妬深い人とか多いので。」
「こちらから言いふらすことはありませんわ!ただ、どうしてもあなたの容姿や活動は目立つのでそこから広がるのも時間の問題と思いますの。」
そこは仕方がないかぁ…でも現地の人達が言わないでくれるのは助かる!自由に、しがらみにとらわれずに遊びたいし。
「分かりました、その対応で大丈夫です!」
「あなたが他の流れ人と違うのは見ていてわかりますわ。領主は流れ人の起こした問題の対処で手一杯ですし、貴族街に侵入しようとするので警備も厳重になりましたし。」
うわぁ…なんか聞くのが怖いな…というかみんな何してるんだ?さすがに人の家に入って壺とかタンス調べるとかしてないよね!?
「なんか迷惑かけてすみません…」
というと、ラナさんは目をぱちくりさせて
「ふふ、なぜあなたが謝るんですの?あなたと他はちゃんと別に捉えているので大丈夫ですわ。では今日はこの辺で、また会いましょう。」
そう言ってラナさんとメイドさんは丘を下って行った。
現地人から改めて流れ人の話聞くと僕達は異分子なんだなって考えちゃうね…
歩み寄ったほうが楽しく過ごせると思うのに。
ちょっと流れ人の問題行動に頭を悩ませながらギルドに戻っていく。でも、僕は自分で精一杯だし他の事に意識向けちゃうと今頑張っていることがないがしろになっちゃうからみんな頑張れ。
「あ、おかえりーワタリ!今日の練習は鍛冶ギルドでだよ!これ紹介状だから受付に渡してね。」
帰ってきて早々テオから修行を言い渡された。ほんと頭が下がる想いだ。いつもありがとうございます!
基本は反復練習、足りない所は聞くか自分で考えるか、資料を探すかで腕を磨いていかないとだね。導かれるだけじゃなく自分でも出来ること探していかないと!
えーっと鍛冶ギルドはっと…冒険者ギルドの向かいだっけ、やっぱ切っても切れない関係だもんね。
昼前だからか冒険者も周りに見えないのは僕にとっては嬉しい誤算だ。改めてギルドに入っていくと受付が見える。あれ?温度が高くないし音が聞こえないけど…とりあえず用事を済ませるか。
「いらっしゃいませ、鍛冶ギルドへようこそ。どのような要件でしょうか?」
「すみません、これ紹介状です。流れ人なのですが、鍛冶ギルドなのに室温が高くなかったり、音が静かなのには理由があるのですか?」
「お受け取りします。…はい、確認しました。生産ギルドは基本的に作業部屋は防音、防諜になっており、受付は空調が効いているので快適に過ごせるのです。それでは右端の作業部屋へどうぞ、素材は運び込んであります。」
そう言うと受付嬢は隣の嬢に断り奥の部屋へ行く。
とりあえず部屋に向かうかな、素材っていうのは多分昨日加工したやつかな。
部屋に入ると炉と金床が置いてある。まだ火は入っていないけど、木炭っぽいなにかと粒粒の石が見える。あれ?魔石なのかな?
「おう、お前が錬金術ギルドから出向してきたワタリか。俺はこのギルドの責任者、皆からは親方って呼ばれている。お前もそう呼べ。」
後ろから声がかかり振り向くと、いかにも鍛冶が得意なドワーフのようなヒゲの生えたおじさんが立っていた。
「はい!僕がワタリです。よろしくお願いします!」
とりあえず挨拶返さなきゃ!親方は豪快に笑った後ニカッとして
「おう、元気がいいな!んじゃまこれから一度手本を見せるぞ?質問はその後だ。」
親方は手をかざし炉に火を入れて見つめている。なにやらうなずいて
…作業を見つめて数時間、熔かした金属は鋳型から取り出されハンマーによって鍛造された。仕上げなのか刃を研いでいる。さすが親方、スムーズな流れ作業だ。
「これで完成になる。あとは鞘にいれるだけだな。」
ふぅ…なんかこっちまで息を止めて見入っちゃってたよ…
「質問良いでしょうか?多分炉は木炭で高温になりにくいと思いますが、それをカバーしているのは魔石ですか?あとは僕は錬金術師なので体力や筋力がそこまで高くないので作業が続くか分からないのですが…」
「うむ、着眼点がいいし自分の弱みが分かっているな。まず炉、これはその通り木炭の火力不足を補助する役割を魔石で行っている。これは錬金術師用に用意したものだ。普通の鍛冶師は石炭を使っているぞ。
あとは筋力や体力、銅は鉄にくらべて重くないからそこまで負担になるものではなく練習用に丁度いい。あと、作業は錬金術で補うといいぞ。ほれ、やってみろ。」
そう言われて僕は炉の前に行く。まずは温度だっけ…融点以上にすればいいんだけど…魔力を銅に這わせ、もう一方で火に魔力を当てる。んー…あれ?なにかつながるというか変な感覚が…あ、シーソーみたいに振れてるのか。これが釣り合うようにしてっと。
よし、これで金属を坩堝に入れて溶かす。あとは温度管理をしながらなんだけど…溶けたかの確認はやっぱ魔力でいいのかな?普通の鍛冶師はそんなことしなくても見極められるってすごいね!
これで次は鋳型に流し込む!ふぅ…部屋がかなり暑くなってるな…残りの作業は他ハンマーで鍛造なんだけど、これがまた重い…テオさんは魔力を体にとどめることにより身体強化されるって言ってたっけ…なんとかなりそう!刃を付けるように伸ばし、叩いていく。あとは研ぎだけど、包丁と同じようにでいいのかな?
「…どうでしょう…?」
「うむ、初めてにしては十分だ。というか他の奴らに見習わせたいくらいだぞ。まずは温度、上手く金属にあった見極めが出来ていた。取り出す時間もな。鍛造は己の弱い筋力を補う魔力の使用でしっかり行えた。研ぎも日常使いなら十分だな。」
よかったぁ…及第点もらえたみたい。まぁ治すところも多いからな…鍛造も研ぎも難しい…
「鍛冶で行う生産と錬金で行った場合の生産の違いがつかめたか?」
多分、こうなんじゃないかな?
「鍛冶による生産は一つ一つの過程で最善がとれ品質が高められる。錬金では不慣れだと鋳造の状態までにしかならず武器として使用ができない、上手く鍛造を模倣できても本来の劣化にしかならないって感じですか?」
「まぁそんな感じだな、一応錬金によるメリットもあるぞ?兵に配る分を用意するなどは作業が早いしな。あとは錬金を極めていくと劣化せずに合成などで不足分を補えたり、魔力を含んだものに出来るぞ!」
錬金ってどの分野にもやっぱり関わってくるんだなぁ、しかも角がたつ存在じゃないのは助かる…
「よし、あと数回行って休憩したら次のギルドへ行ってもらうぞ!」
ちょ!?今日中に全部回る感じなの!?
そして僕は金属加工の続きということで彫金、その後は裁縫、そして薬師ギルドへ出向した。
今僕はベットでうつ伏せになって倒れている…ハードだったけれどどうにか身についてよかった…どの責任者も丁寧に教えてくれてたから覚えるのに必死になった。
改めて身に着けたものを振り返る
彫金:金属の成型と装飾、魔道具の成り立ち
裁縫:被服製作(3Dモデルを作る際に勉強)、金属から糸にする方法、染色
薬師:各素材の細かい効能、錬金を用いない精製法、精製短縮の技法
どれも錬金がないと出来ない技術があったりで忘れない様に反復したり、メモに残さないとだ。この後はログアウトしないとだから次ログインしたときは図書館に行って勉強かなぁ。
それじゃおやすみなさい。
名前:ワタリ
所属:錬金術ギルド
階級:F(S~Fの7段階)
称号:流れ人の良心
スキル:錬金3、言語理解、植物鑑定2、生物鑑定1、魔力操作4、鍛冶1、彫金1
裁縫1、調合1
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