第7話 何事においても基本は大事

 チュン、チュン…


 ん…んー…?もう朝かな?


「ふわぁぁ…なんかすっごいよく眠れた気がする、ベットがフカフカでお日様の匂いとか眠れないほうがおかしい…」


 とりあえず顔を洗いに行くかな。洗面台は各部屋にある。

 この建物は1階に風呂があって、錬金部屋が用意されているらしい。使う人が僕以外にいないみたいだけど…2階にはプライベートルームというか寝る場所だね、テオが言うには弟子を育てる際に使うため、張り切って良い部屋にしたみたい。昨日、館の説明受けたときにすごく興奮して教えてくれた。こんな大きな建物に一人は寂しいもんね…


 顔洗ってスッキリしたところで、周りをみるとテオはまだ寝ているみたい。朝食の準備しといたほうがいいのかな?とりあえず台所に行ってみてから考えるか。


「ん-、このあたりの食材は昨日使ったやつかな?多分次の日に使うために下ごしらえは済ませてあるっぽいんだけど…」


 昨日図書館に行って植物図鑑見たから、野菜や植物素材は理解できる。卵も用意されていて食パン?もあるから、昨日のスープ、サラダ、パンに卵焼きあたりが朝食かな。それなら僕にも用意出来るけど、温めるには火の準備だけど大丈夫…?


 2口のコンロがあるからとりあえず上にスープとフライパンを置いてっと…問題の火は…あ、これかな?このコンロ自体が魔道具っぽい、電池の代わりに石がはまっているけど、多分魔石で魔力を供給しているのかな?これなら大丈夫だね、火加減を調整して始めるかな。


 

 よし、これで完成。盛り付けてテーブルに置いたけどまだテオは起きないみたい。慣れないことが多かったから疲れが溜まってたのかも?起こしに行ったほうが良いよね。


 2階にあがり、部屋の前まで来たけれどなんか緊張する…


「テオさんー、朝ですよー起きてますか?」


 トントンっとノックをして反応をうかがう。

…んー、ダメっぽい?


「テオさんー、すみませんが入りますよー!」


 そう断ってから部屋に入らせてもらう、幸い鍵はかかっていなかった。

 部屋には辺り一面に人形やぬいぐるみが置かれ、すごく乙女チックであった。錬金術師の部屋って機能美とか本や薬品が大量に置かれているイメージだったんだけど、固定観念って駄目だね;

 さて、肝心のテオはっと…毛布を抱き枕のように丸めて抱きしめている。まるでビスクドールのように整った少女がベビードールを着ていて、背徳的なんだけど…しかも裾が捲れてちゃって下着が見えちゃってる!?


「テオさん!そろそろ起きてくださいー!朝ですよ!」


 少し大きめに声をだし肩をゆする。


「んー…」


「ちょ、テオさんベットに引きずりこまないで!…って、抱き着いてこないでください!」


 慌てて抜け出そうとするががっちりと掴まれているようではずれない。というかこれってもしかして…


「テオさん…もしや起きてますね?」


 ピクっと瞼が動いた!やっぱりなぁ…


「まったく、いい加減にしてくださいよぉ…男をいきなりベットに引きずりこんだりして危ないですよ?」


「あはは、ごめんねワタリ。でもずっと一人だったから人肌恋しくて抱きしめたのには嘘はないよ?ただ、その顔見るとちょっと刺激が強かったみたいだね。」


 そう言ってテオは顔を綻ばせながら僕を見つめて来る。女の子に慣れてない僕はすぐ目を逸らした。そうするとテオは余計ににこやかに笑った。


「さ、そろそろ1階に向かおうか!ワタリがせっかく朝食用意してくれたんだし冷めるともったいないからね!」


「あぁ!?テオさん僕が出てから着替えてください!ちょ、脱がないで!今部屋からでるから!」


 まるで小悪魔だなぁ…あれで僕よりずっと年上みたいだけど、肉体に引っ張られるのって大変なんだな…


 

 朝食をとり、今日の予定を確認する。


「じゃあワタリ、今日から本格的に錬金術を教えていくわけだけど…すべての根幹である魔力の扱い方を練習するよ。魔力の扱い方が上手くなるほど魔力の質、籠める量、身体能力もある程度上がるから頑張ってね!」


「えっと…そもそも魔力を感じることが出来ないのですが…」


そういうと、テオはそういえば…みたいな思案顔になった。


「あ、そっか。ワタリは流れ人だもんね、魔力を感じることがない世界らしいから感覚がつかめないか…ちょっと立ってもらえる?そう…んでわたしと手を繋ぐ!」

 

 背の高さは同じくらいなのにテオの手は小さかった、そして柔らかくもあるからやっぱり僕と女の子は全然違うんだなぁと再認識した。


「それじゃわたしから魔力を流していくから、違和感があるところに注視してみてね!」


 そういうとテオは目をつぶった。

 …5分くらいするとなにか感じて来た。あれ?いまで気づかなかったけど僕の体の中を何か流れてる…右手から入り込んだものは心臓を通り全身へ行き、そして左手から抜けていく…もしや血流の流れみたいになっているのかな?

 異物というか、すごく優しい感じがする…これを僕側のものを探して動かすのかな?あ、へその下、いわゆる丹田のとこにあるかも?これを動かして…よし!

 このあとはどうすればいいんだろ、テオと同じように二人を循環させてみようかな。テオの魔力に追従してっと。

 うーん…僕のほうが動かすのやっぱり遅いな…置いて行かれそうになるとテオの魔力がゆっくりになって導いてくれるのはほんと感謝の念しかない。

 ちょっとテオの顔がほのかに赤くなっているんだけど大丈夫かな?他の人の魔力が合わさって流れていると興奮作用があるのかな?ちょっと心配になってくる、質が悪いのかもしれない。


「ん、追従を終えてそのまま自分にとどめるようにして。」


そう言ってテオは僕から離れた。とどめるって、全身に行きわたらせる感じで良いのかな?


「そうそう、上手い上手い!体外に出す放出は外で一か所に集まるように意識して。」


 ムムム…なかなか体の中から出て行かない…手を繋いでいた時は自然と外に出ていたんだけど…何が違うんだろう…細胞一つ一つに魔力を行きわたらせているなら皮膚の表面から外に出せるよね?そこを意識してっと…よし、上手くいった!

 おぉ、目の前に鈍く輝く光の玉が出来た。


「うんうん、上手くできたね!魔力の質が上がると輝きもこう変わっていくからね!あとは魔力にのる感情もプラスされるけど今は気にしなくて大丈夫!」


 テオの魔力は眩いほど光っていた。ただ、眩しいだけじゃなく優しさというか落ち着ける木漏れ日に近いかも?これが感情がのった性質なのかもしれない。


「それじゃ午前中は魔力の質を高める循環と対外放出を反復練習してね!すべての基礎になるから!あと魔力は形があるようでないもの、不定形だから魔力を操作して色々と遊べるよ!質が高まれば物質に近くもできるから頑張ってね!」


「分かりました!それじゃここで練習していていいのでしょうか?」


「えっと、無意識にでも循環できるようになるのが目標だから街を探索しながらがいいかも?昨日ここに来たばかりであまりよくわかってないでしょ?いい街だから是非見ておいて欲しいし!」


 そうだよね、基礎で魔法職だと普段から出来ていないとダメな部分だから、動いたりしながらでも出来なきゃだった…放出はまとめると危険だから散布する感じで少しずつ漏れ出すように調整してみるかな。


「わたしは午後に使う薬草や器材そろえておくからね!楽しんできてねー!」


「それじゃ行ってきます!」


 …歩きながら魔力を循環させるの難しくないか…マルチタスクみたいに両方意識してってなら出来るんだろうけど、そーいうやり方ではないだろうな…無意識にでもできなきゃいざというときに意味ないし…

 まずは歩くことは無意識にでもできる…うん、このアプローチでいいかも?どっちかは無意識に出来るんだから、もう片方も自然と出来るようにっと…


 僕はゆったりとした足取りだけど一歩一歩循環を確認しながら進んでいく。

なんか師にすごく恵まれて、これからの生活に期待で胸を膨らませながら街の中心を目指した。

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