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 闇の底に沈んでいた意識が、急速に浮かんでいくのを感じていた。

 見ていた過去、憶えていたはずの風景、そんな夢を見ていた気はするけど、それが意識の奥底に取り残されて見えなくなっているのを、思考できない少女の意識は疑問に思うこともない。

 なにか、自分のありようを歪めてしまうような不快感が脳をきりきりと苛むのにも、彼女にはよくわからない。

 そもそも、ここはいったいどこなのだろう、と朧な思考が回りかける。

 眠っているように心地よく、しかし、大事なものを取りこぼして泣いているように苦しく、それでもそこに何もないと解っているかのように曖曖昧な絶望感が思考を阻害している。

 その阻害されていることにも気づかず、ただそこにあり続けるだけの少女の視界に、最後の景色が浮かび上がっていた。

「……?」

 赤色。その一色のイメージが禍々しく映る。

 何の色?

 血の色。

 問いかけたらしき心の声に、応えたような別の声。それは、それでも自分で問うて答えただけの問答にもならない独り言でしかない。

 なんで?

 お前は×××だから。

 その言葉の意味がよく判らない。単純なことしか考えられない彼女にそれを考えられない。でも、それは自分にとってとても大事なことであることは解っていた。

 解っている気になっているのだとしても、忘れてはならない、何かだ。

「でも、そうじゃないよ」

 いや、そうだろう。

 断定される言葉が、何故か痛かった。否定しても、それを否定し返すのも自分自身だ。

「…………いやだ、そんなの」

 声になったかもわからない、呟き。それはただの願望で、だから返答もない。

 それはいつまでも変わっていない、淡い望みで。

 そればかりが夢の終わりに残響していた。


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