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 少女を医務室のベッドに寝かせ、布団を掛ける。彼女は服を着ていないけれど、それに対して杏樹が自らの上着を着せていたので、原理は困ることもなかった。

「着心地は良くないだろうけどね。軍服だから」

「まあ、戦闘用の装備だからな」

 医師が手早く状態を確認して、身体機能には異常はないと言っていたので、単に眠っているだけらしいが、それがどれだけの期間の話なのかで、彼女への対応は変わってくるだろうことは原理にも予想がついていた。

「誰なんだろうな、この子。日本人には見えないけれど」

 顔立ちがこの艦では見ないものだった。髪や眼の色が何でもありなのはこの世界では仕方ないことだけれど、顔や体の造形だけは誤魔化しようがない。そこばかりが人種によって違うのも、なんだか不思議だと感じている。

 情報がないのでは何も出来ず。しかし、司令部に居た部隊を纏める総隊長、日長清籠(ひなが・せいろう)は何故か保護するように通達してきたのだった。

 その意味は原理や尸遠は当然、そして杏樹や空にも理解しえない指示でしかなかった。

「どうなんだろうね」

 指示を受けて伝えた亜友にも、そのニュアンスは読み取れなかったらしい。

「あの人がそういう指示をするってことが、何か意味を持っている気もするけれどね」

「言うて杏樹、不審そうな顔してるけど」

 そうかしら、なんて言いながら彼女は頬の傷痕を指でなぞる。考える時の癖のようだった。何か思うところでもあるのだろうか。


「ところで忌方君、腕を見せて」

「え、」

「折れてるでしょ、右の手首。見れば判るわ」

 杏樹は確信しているように言い切った。さっきの戦闘で多少痛めてしまったと思っていたけれど、原理の感覚では折れているようには感じていなかった。

「原理は異能に頼ると多少の無茶が利いちゃうからね。痛みに鈍いのもその影響でしょ?」

 空がやはり知っていることを口にする。そのことに対して原理は自覚的なつもりだったけれど、気を抜くと面倒がってしまうのは悪癖だった。

 右の手首を見れば、軽く鬱血していた。折れているといっても、骨にひびが入っている程度だろう。どちらかと言えば捻挫に近いか。

 空が医師を引っ張ってきた。

 むしろ原理が引っ張られていく側じゃないのか、とは思わなかった。


 手首を固められて、その上から空が治癒の霊符を張り付ける。早ければ二日で治るらしいけれど、呪術って便利なものだなと感心してしまう。

「いや、これで手持ちの治癒符は使い切ったよ。新しく作らないとね」

 無尽蔵の力でもないからねー、とへらへらされながら言われても真剣味が無い。空の言動はどうにも締まらないから、緊張感を忘れそうになるのだった。

「それにしても、」と空は視線をベッドの上に移す。話を戻してくるようだ。「可愛いね、この子。これで粗暴な性格とかだったら面白いんだけど」

「それは面白いけど扱いにくいだろ。これからどうなるかは判らないけど」

「異形からはじき出された人間って、どんな扱いなのかしらね。日長さんが口を出すなら、異能関連であることは予想がつくけれど」

 まさかいきなり、戦闘に放り込むことはないだろうが、将来的にそこを目指す可能性はゼロではなかった。というか十分にあり得る。

「適性を見てからって感じなんだろうけれどね」



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