第12話 冒険者ギルドに来ました
古い欧風の街並み。
しばらく歩いた賢人は、そんな感想を抱いた。
人は多く、活気が見られた。
ただ、道を行く人のなかには鎧を着ていたり、剣を腰に下げていたり、槍を担いでいたりするものも散見された。
もちろんすべての人が武装しているわけではなく、むしろ割合は少ないほうだが、どうしても目立つので印象に残ってしまう。
また、ルーシーのように獣の耳や尻尾を持った者もいた。
ほかにも、色白で耳が長くとがった者、背の低いずんぐりむっくりとした髭面の者なども見受けられた。
「着いたわ。ここが冒険者ギルドよ」
町に入ってさらに30分ほど歩いたところで、目当ての場所にたどり着いた。
疲れはかなりあったが、草原を歩くよりは風景のめまぐるしく変わる街中を歩いているほうが、随分と楽に感じられた。
町に到着した時点で少し日は傾きかけていたのだが、町に入ってから一気に日は暮れ、あたりは薄暗くなっていた。
両開きのスウィングドアを抜けると、その先にはテーブルや椅子が雑多に並べられた酒場のような場所が現れた。
そこには武装した様々な人種の男女が、酒や食事を楽しんでいた。
席は半分以上埋まっていたが、これからさらに人は増えるのだろう。
「よぉルーシー! 元気そうじゃねぇか」
「なんだなんだ、男連れか?」
「その人、貴族かなにかなの? 紹介しなさいよー」
と、いろいろな人がルーシーに気安く声をかける。
ルーシーのほうは多少わずらわしそうにするものの、嫌悪感などはないのか、適当にあしらっていた。
そうやって酒場の喧噪を抜けると、ずらりと並ぶ受付台があった。
そのなかから、ルーシーはグレーの髪をオールバックにしたごつい中年男性のいる受付台の前に立った。
「いらっしゃい。納品でいいか?」
「それはあとで。先に彼の登録をしてほしいんだけど、いいかしら?」
「ほう、見ない顔だな」
ルーシーの斜め後ろに立っていた賢人を見て、受付の男性が興味深げな表情を浮かべる。
「どういう関係だ?」
「森でばったり会ってね。危ないところを助けてもらったの」
「へぇ。強そうには見えねぇがな」
「加護なしでオークを倒せるくらいには強いわよ、彼」
どこか誇らしげに言ったルーシーの言葉に、受付の男性は大きく目を見開いた。
「何もんだ?」
「それは聞かないでくれると嬉しいかな」
男は訝しげな表情でルーシーを見たが、ふっと苦笑を漏らして肩をすくめた。
「まぁいい。ここにいるってことは入場審査を通ったってことだしな」
そこまで言うと、彼は再び賢人に目を向ける。
「じゃ、手続きをするからこっちにきな」
「あ、はい」
「仮の身分証はあるか?」
「これです、どうぞ」
賢人の答えに男は軽く眉をひそめたが、すぐ表情を改めてカードを受け取ると、なにか手続きを始めた。
「登録料はどうする?」
「それはあたしが立て替えるわ」
賢人に替わってルーシーが答える。
「そうか。保証金もルーシーが払ってるんだな」
この時点で賢人の身元をルーシーに代わって冒険者ギルドが保証することになり、入場時に預けた保証金は、この場で還付される。
「それじゃルーシー、加護板を」
「はい、これ」
冒険者ギルドへの登録料は5万シクロ。
保証金10万シクロからそれを差し引いたぶんが、ルーシーに返される。
ちなみに登録料は分割での支払いも可能だが、今回はルーシーが一括で立て替えることにしていた。
「登録料の支払いは問題ねぇみてぇだから、手続きを進めるぞ。講習は明日か? 時間があるならいまからでも大丈夫だが」
「いえ、明日でお願いします」
冒険者登録をするには講習を受けなくてはならず、そのことについてはルーシーから事前に説明を受けていた。
いまは疲労のピークにあり、これ以上なにかをするのはできるだけ避けたい。
この状態で講習を受けても、なにも頭に入らないだろう。
「じゃあ明日の午前中に予約しとこうか。ルーシー、納品は?」
「んー、明日にするわ」
「そうか。じゃあ明日な」
受付台を離れ、歩き出したところで、賢人の腹がグゥと鳴った。
併設された酒場から流れてくる料理の匂いが、空腹中枢を刺激する。
「ごはん、どうする?」
「んー」
美味そうな匂いを漂わせている酒場だが、先ほどよりも人が増えてかなり騒がしい。
「ふふ……宿の食堂ならもう少し落ち着いて食べられるから、そっちにしようか」
「あー、うん。助かる」
「そのかわり、もうちょっとだけ我慢してね」
賢人は暴力的ともいえる料理の匂いに耐えながら、ルーシーのあとに続いてギルドを出た。
外はもうすっかり暗くなっていた。
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