第11話 町に入りました
町は高い市壁に囲まれていた。
魔物の被害を防ぐためのものだろう。
かなり広い町らしく、近くまでくると市壁の端が見えないほどだった。
長く伸びる市壁の中央に門があり、行列ができていた。
賢人とルーシーは、もちろん最後尾に並んだ。
「町に入るのに審査とかある?」
「ええ。身分証の提示を求められるわね」
「俺、持ってないんだけど」
財布があれば運転免許証が入っているのだが、と一瞬考えがよぎったものの、それがここで役立つとは思えず、すぐ思考の外に追いやった。
「あたしが保証人になるから大丈夫だよ」
「そうか。迷惑をかけてすまないね」
「気にしないで。忘れてるかもしれないけど、ケントはあたしの命の恩人なんだからさ」
この町で過ごすうえでの注意事項や一般常識などの説明をルーシーから受けているうちに、ふたりの順番がやってきた。
「ではここに手を当ててくれるか」
鎧に身を包んだ門番らしき男性に事情を話すと、脇にある石柱に手を置くようにいわれた。
短筒が置かれていたものによく似ていたが、気にしても仕方がないので、指示通り石柱に手を置く。
すると、石柱の上に設置された白い板が青く光った。
「犯罪歴はなし、だな」
どうやらこの石柱、あるいは上端に設置された白い板は、過去の犯罪歴を照合できるものらしい。
市壁をくぐる通路にはいくつかこの石柱が設置され、通る人はそこにカードを当てたり手を当てたりしていた。
ちなみにルーシーはすでに加護板を当てて審査をパスしている。
「ではFランク冒険者ルーシーが保証人となる、ということでいいな?」
「ええ、それでいいわ」
保証人になる上での注意事項が述べられたが、ようは賢人がなにかやらかしたらその責任をルーシーが負うというものだった。
「保証金は10万シクルだ」
「じゃあこれで」
ルーシーが加護板を渡すと、門番はそれを専用の端末に当てた。
「うむ」
保証金の支払いが終了したのか、門番は加護板をルーシーに返した。
(まるで電子マネー決済だな)
そんなことを思いながら、賢人はふたりのやりとりを見ていた。
並んでいるあいだに聞いた物価などから、賢人は1シクルを約1円と判断した。
結構な大金だが必要経費でもあるので、ルーシーが立て替えるということでお互いに納得している。
「武器は持っているか?」
「これを」
賢人は短筒を門番に渡す。
「銃か……。悪いがこれは預からせてもらうぞ?」
「ええ、わかりました」
「身分証ができたら返すが、どこで受け取る?」
「えっと――」
「冒険者ギルドで受け取るわ」
答えに迷う賢人に変わって、ルーシーが答える。
「わかった。後ほど届けておこう。では仮の身分証を渡しておくので、できるだけ早くギルド登録を行うように。10日を過ぎると保証金の還付はできなくなるからな」
審査は無事終わったようで、賢人は門番からカードを渡された。
**********
【名前】ケント
【保証人】ルーシー
【備考】要、武器返却
**********
半透明のカードにはこのような表示が浮かび上がっていた。
「エデの町へようこそ。通っていいぞ」
門番は愛想なくそう告げると、次の入場者の対応を始めた。
「助かったよ、ありがとう」
門を抜け、町に入った賢人は、改めてルーシーに礼を述べた。
「お礼なんていいわよ。なにせあなたは命の――」
「それを言うならこっちも似たようなもんだって」
もしあそこでルーシーに出会わなければ、森で野垂れ死んでいた可能性もあるのだ。
運良く森を抜けて、ここへたどり着けたとしても、保証人もいない無一文の賢人が町に入れたかどうかもあやしいところだ。
もしかしたら何らかの方法で入場できたかもしれないが、こうもすんなりとはいかなかっただろう。
「そうね。ならお互いさまってことで」
「そういうこと」
そう言って軽く笑い合ったあと、ふたりは町を歩き始めた。
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