第10話 アイテムボックスについて聞きました

「あ、そうだ、これ」


 HPの説明を聞き終えた賢人は、改めて練りようかんを差し出した。

 ほかにも聞きたいことはあるが、それは町に着いてからでいいだろう。


「えっと……」


 出された練りようかんを見たルーシーが、困ったような表情を浮かべる。


「どうしたの?」

「それって、高いものじゃないの?」

「んー、どうだろ」


 一般的な練りようかんなら1本100円程度なので、日本の市場価格で考えれば安いものではある。


「そんなに美味しくってHPが回復する食べ物なんて、聞いたことがないわよ? どこにでも売ってるものじゃないと思うんだけど」

「まぁ、改めて買うとなると大変かも」


 いくら安いからといって、いまの状況で同じものが手に入るかと問われるなら、困難と言わざるを得ないだろう。


「そんな貴重なものもらえないわよ!」

「でも、HPが回復するんなら持っておいたほうがいいんじゃない? 高価なものだとしても、命には替えられないだろ?」

「いえ、下手をすればあたしの命より高価かもよ、それ」

「は?」


 さすがに冗談だろうと思ったが、ルーシーは案外真剣な顔をしていた。


「いや、さすがにそれはないって」

「そ、そうかな……」


 すぐさま賢人が否定すると、彼女は少しだけ照れたように視線を逸らした。


「とりあえず町に帰るまででいいからさ、アイテムボックスだっけ? それにでも入れておきなよ」

「えっと、ケントが、そういうなら」


 遠慮がちに練りようかんを受け取ったルーシーだったが、不意に目を見開き、続けて苦笑を漏らす。

 めまぐるしい表情の変化に、賢人は首を傾げた。


「どうした?」

「これ、やっぱり結構高いものじゃないの。このサイズで5スロットなんて……」

「えっと、なに? スロット?」


 ルーシーが言うには、〈アイテムボックス〉に物を収納すると、空きスロットが埋まっていくとのことだった。

 収納物によって必要スロット数は変わってくるのだが、大きさや重さだけでなく、価値なども関わってくるのだとか。


「たとえばゴブリンやコボルトのドロップなら1スロット、オークだと2スロットね。魔石は大きさや重さのわりに必要スロットが大きくて、ゴブリンやコボルトの小さいやつでも1個1スロット埋まっちゃうのよ。オークのだと3つも」

「なるほど、それでコボルトの牙や魔石は俺が持つことになったのか」

「そういうこと。で、このようかんっていうのは5スロット必要ってわけ。ハイポーション並みね」


 ハイポーションの価値はわからないが、オークの魔石やブロック肉より価値が高いと判断されたようだ。

 結局ルーシーは練りようかんを腰のポーチに入れた。


「さて、ケントのおかげでHPも回復したし、そろそろいきましょうか」


 ルーシーに促されて立ち上がる。

 あまり休んだ気にはならないが、多少休憩時間をのばしたところで疲れは取れないだろうと諦め、賢人は立ち上がった。


「ほら、あそこよ」


 10分ほど歩いたところで、遠くに町らしきものが見えた。


「……遠くない?」


 1時間はかかるといわれて多少覚悟をしていたが、いざ目的地までの距離を目の当たりにすると、げんなりしてしまう。


「あははっ、これくらい歩けなくてどうするの? その恰好といい、やっぱりケントって貴族なんじゃない?」

「……どうだろうね」


 田舎に帰ってから、めっきり歩かなくなったことに思い至る。

 都会に住んでいたころはもう少し歩いていたはずで、買い物に出た日など1時間やそこら歩き回ることはよくあった。。

 しかし、街中を歩くのと違って、変わり映えのない景色のなかを歩くのは精神的にもかなり疲れた。


「ほら、ケント、あともうちょっとよ」


 それでも賢人は、ルーシーに励まされながらなんとか町の入り口にたどり着いたのだった。

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