第3話 ひとりで森を歩きました

 ――バスッ! ……バスッ! ……バスッ!


 短筒の撃鉄を起こし、引き金を引けば、音と衝撃が生まれ、なにかが射出される。

 それは光の弾のようにみえた。

 撃鉄が黒い石を打つたびに、銃口から小さな光の弾丸が飛んでいく。

 それらは吸い込まれるように、狙った位置に命中した。


「なんだこりゃ?」


 理解できない光景だった。

 少なくとも、賢人はこのような光弾を射出する銃の存在を知らない。

 射撃競技にはビームライフルというものもあるが、あれにしたって発射される光線が見えるわけでもないのだ。


 気を取り直して射撃を再開する。

 引き金を引けば、光弾が飛び、木に当たって消える。

 命中精度は大したものだが、威力はまったくない。

 乾いた樹皮を剥がすほどの威力すらなく、ただ消えるだけ。


「おもちゃか?」


 当たっても痛くない光の弾を発射する銃のおもちゃ。

 なるほど、これで遊べば盛り上がりそうだ。

 しかし、ならばなぜこんな古風な短筒の形をしているのだろうか。


「いや、そもそも当たっても痛くないのか?」


 木にダメージはない。

 だからといって、身体に受けても平気だとは限らない。


「……やめとこう」


 無害かもしれないが、もしかしたら怪我をするかもしれない。

 この意味不明な状況にあっては、かすり傷ですら避けるべきだろう。

 救急セットはあるが、だからといって怪我をしていいわけではない。


「さて、これからどうするかな」


 防災セットから水を飲み、練りようかんを1本食べた賢人は、あたりを見回しながらつぶやいた。

 ここがどこなのかは依然わからないし、どこにいくべきかもわからない。

 しかしこの場に留まり続けても意味はない。


「とりあえず、歩こう」


 下手に動けば遭難の恐れはある。

 だが、すでに遭難している状態といってもいいのではないか。

 仮に迷って、ここまで戻れなくなったとして、なにか困ることがあるわけでもない。

 待っていて誰かが来てくれる可能性も低い。

 なら、とりあえず歩こう。

 そう思い、賢人はリュックサックをしっかりと両肩にかけ、短筒を片手に歩き始めた。


「案外歩けるな」


 草木が密集しているように見えた森だが、近づいて見れば人がひとり通れるだけのスペースはそこかしこにあった。

 ときおり邪魔な枝葉や蔦を短筒で払いながら、森のなかを進んでいく。


「本格的に遭難したかな、こりゃ」


 1時間ほど歩き、もうどの方向からきたのかもわからなくなった。

 不安はある。

 不意に叫びたくなるほど怖くなることも。


「すぅ…………はぁー……」


 そんなときはミントパイプを吸って心を落ち着けた。


 ――ガササッ……!


 少し離れたところから、茂みの揺れる音が聞こえた。


「なにか動物でもいるのか?」


 その音は徐々に接近し、やがて足音が混ざり始める。

 なにかがこちらへと走ってきているのか?


「どこだ?」


 賢人は辺りを見回したが、音の発生源を特定できないでいた。

 風にそよぐ草木のこすれる音が邪魔をし、乱立する樹木に音が反響する。

 軽く腰を落とし、警戒していると、すぐ近くの木の陰から、なにかが飛び出した。


「うわぁっ!?」


 声を上げ、短筒を構える。


「――人?」


 現れたのは、人間のようだった。


「あんた冒険者!? ランクはっ!?」


 突然現れた人物は、賢人を見るなりそう叫んだ。

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