第2話 銃の確認をしました
祖母の意図に疑問は残るが、考えても仕方がないので、次はなにがなくなっているかを確認する。
「まず、スマホ。あと財布。それから……」
服の上からポケットを叩き、なにも入っていないことを確認した賢人は、続けて周りを見回した。
「……車だ」
そして、近くにあったはずの自動車がないことを確認した。
景色が変わり、近くにあったものがなくなっている。
やはり、先ほどまでとは別の場所にいると考えていいのだろう。
「次は、こいつだな」
続けて賢人は短筒を手に取った。
本当ならいの一番に調べたかったが、現状把握が優先だろうと後回しにしていたのだ。
手にかかるずっしりとした重さが心地いい。
引き金に指をかけず、銃口をのぞき込む。
暗くてよく見えないので、LEDライトで中を照らした。
「ライフリングは、なし……」
近代銃は銃弾に回転を与え、威力や命中精度をあげるため、銃身の内側にらせん状の溝――ライフリング――が刻まれる。
だが火縄銃などの古い銃にはライフリングがない。
「どう見ても前装式だから……」
銃身の尾部や弾倉に弾を込めるのではなく、銃口から銃弾を込める方式を、前装式、または先込め式という。
「マスケット、だよなぁ」
マスケットとは、ライフリングのない前装式の銃を指すものだ。
「パーカッションロックか、渋いな」
古代銃であれ現代銃であれ、火薬の爆発を利用して弾丸を飛ばすという仕組みに違いはない。
賢人が手にした短筒は、パーカッションロック方式、または
銃口から銃弾を込めたあと、銃身にあるニップルと呼ばれる穴の空いた突起に火薬の入った
それを撃鉄で叩いて火薬を爆発させ、発射するという方式だ。
現代銃だと火薬の入った銃弾の尾部を撃鉄で叩くことで弾丸を発射する。
つまり弾丸と雷管がセットになっているわけだが、パーカッションロック式の銃は、それが別々になっているわけだ。
「顧問のうんちくが、こんなところで役に立つとは……」
高校時代に賢人が所属していた射撃部の顧問は、日本史を担当する教師でもあり、部活の合間にこの手のうんちくをよく聞かされた。
ときにはマスケットを持ち込んで、実物を触りながらの解説をしてくれたこともあった。
装飾品とわかっていても、いざ銃を前にすると男子部員の多くは目を輝かせていたことを思い出す。
「弾は入ってないよな?」
念のため賢人は銃口を下に向けて銃を振ってみたが、弾丸はもちろん火薬のひと粒も出てこなかった。
「雷管はないけど……石がついてるのか?」
火薬の入った雷管をセットすべきニップルの先には、黒い石がはめ込まれていた。
「とりあえず、試し撃ちはしとこうか」
なにが射出されると言うこともないだろうが、念のため少し離れた場所をめがけて引き金を引いてみることにする。
「あの木で、いいか」
10メートルほど先にある樹木の幹を標的に定めた。
標的に対して身体の右側面を向け、足を軽く開いてしっかりと大地を踏みしめる。
軽く上半身をひねって標的の方に向き、左腕を下げたまま短筒を持った右手を肩の高さへ。
顎を引き、背を軽く反らしながら、照門と照星を重ねて標的に狙いを定める。
ピストル射撃で慣れ親しんだ、
――カチリ……。
撃鉄を起こすと、仕掛けがはまるような小さな感触を得た。
「すぅ……」
軽く息を吸い、止め、標的を見据えて引き金を引く。
カチッ! と撃鉄が黒い石を叩いた瞬間――、
――バスッ!
――という空気の抜けるような短い音とともに、エア・ピストルと同じくらいの軽い衝撃が手に伝わってきた。
「なんか、出たよな……?」
一瞬のことでよく見えなかったが、銃口からなにかが高速で射出され、標的とした木の幹に命中した。
なにも起こらないだろうという予想のもと引き金を引いたので、注意深く見ていなかったせいか、賢人はそれを見逃してしまった。
「確かこのへんに当たったよな……」
木の近くまで歩き、なにかが当たったと思われる箇所を見てみたが、傷らしい傷はなかった。
「気のせいか? とりあえずもう一回やってみるか」
賢人はもう一度先ほどと同じ場所まで下がり、短筒を構えて撃鉄を起こし、そして引き金を引いた。
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