第6話 例の土地に来ました

 自動車に乗って家を出た賢人は、念のためスマートフォンのナビアプリを使いながら、目的地を目指した。

 結局迷うほどの道もなく、到着する。

 ただ、最後の獣道には閉口し、引き返そうかとも思ったが、なんとかたどり着くことができた。


「なんもないよなぁ?」


 草木が鬱蒼と生い茂り、薄暗くなっているちょっとした広場のような場所だった。

 広場と言っても、そこそこ丈の高い雑草が生い茂ってはいるのだが。

 大きな樹木などは生えていないので、なんとか自動車を乗り入れることができた。

 ヘッドライトをつけてはいるが、あまり視界はよくない。


「あ、もしかして」


 ふと思うところがあり、賢人は防災セットの入ったバッグを漁った。


「お、あったあった!」


 予想したとおり、LEDライトが入っていた。


「ばあちゃんに感謝だな」


 バッグを肩にかけ、車を降りる。


「スーツにして正解だったのか……?」


 LEDライトを頼りに荒れ地を歩きながら、賢人はそう呟いた。

 生い茂る草木は思っていたよりもたくましく、ジャージを貫いて肌を傷つけていたかもしれない。

 しかしスーツが汚れたり、変に引っかかってほつれたりするのではないかと考えると、多少自分が傷ついてもジャージでよかったんじゃないかとも思う。

 それほど広い土地でもないので、数歩歩いて見回すだけで済ませることにした。


「ん?」


 広場の中心でひととおり視線の先にライトを当てた賢人は、なにか光るもの見つけた。

 そちらへライトを向け、角度を細かく調整すると、やはりチカチカと光を反射するなにかがあった。


「……いくしかないよな」


 数メートル先まで歩くのもひと苦労だったが、賢人はゆっくりと大股で歩き、その場所にたどり着いた。

 そこには大理石のような材質の、石柱があった。

 周りに生えた草木のせいで見つけにくくはなっているが、石柱自体に蔦が絡んでいるようなことはない。

 そこだけぽっかりとスペースがあいていて、腰の高さまである円柱は、磨き上げられたように輝いていた。

 石柱そのものも異様ではあるが、賢人の視線はその上端に置かれたものに固定されていた。


「拳銃……いや、たんづつか?」


 賢人の言うとおり、それは片手で扱うタイプの火縄銃に見えた。

 その短筒は長らく放置されていたであろう荒れ地にありながら、汚れもサビもなく、ほこりすら被っていない。

 装飾品のようにきれいなものだった。


「いや、装飾品か?」


 本物の銃が、このような場所にあるはずもない。

 そもそもこの手の銃が製造されていたのは100年以上前の話だろう。

 そう考えると、この短筒はきれいすぎた。


「しかし、なんなんだろうな、これ」


 興味を引かれた賢人は、LEDライトを左手に持ち替え、その銃を手に取った。


「ん、なんだこりゃ?」


 その瞬間、あたりが光に覆われていく。


「うぉっ!? まぶしっ……!」


 思わず左腕で目元を覆う。

 それから十秒ほどで光は収まった。


「なんなんだよ……?」


 文句を口にしながら、なんども目を瞬かせる。

 そうしてほどなく目は慣れ、視界がはっきりとしてきた。


「えっと……どこ?」


 賢人は思わず首をかしげた。


 そこは森の中だった。


 しかし、樹木に覆われて薄暗かった先ほどの場所と違い、陽光が淡く射し込んでいて、そこそこ明るかった。

 雑草の丈も低く、歩きやすそうではある。

 あきらかに先ほどとは違う場所だった。

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