第3話 土地を受け継ぎました
姉が帰り、祖母と一緒に食事の後片付けを終えたあと、ふたりはリビングでテレビを流しながら、雑談を続けていた。
「あ、そうだ。賢人は実印持ってるかい?」
「実印? なんで?」
「土地の相続をしておきたいと思ってね」
「はぁ? 相続!?」
相続という言葉に、思わず声を上げてしまう。
「なに驚いてんだい? 年寄りなんてちょっとつまずいて頭打っただけでコロッと死んじまうんだからね」
「ばあちゃん、なに縁起でもないことを……」
「縁起の善し悪しなんて関係ないよ。こういうことはね、アタシが元気なうちにやっといたほうがいいのさ」
言いながら祖母は立ち上がり、棚を漁り始めた。
「いや、俺、ずっとこっちにいるとは限らないんだけど」
「べつにかまやしないよ。一応これ、見といておくれ」
戻ってきた祖母は、テーブルに権利書を置いた。
「うーん、ばあちゃんがそれでいいんならいいけど……」
「そのかわり、固定資産税の払いはたのむよ?」
そう言って祖母は、ぱちりと片目をつむった。
あいかわらず茶目っ気のある人だと、賢人の口から思わず笑みがこぼれる。
「しかし、土地の権利書ねぇ」
自分と無縁だと思っていたが、この歳になればそういう話が出てきてもおかしくないのかもしれない。
そう考えながら、賢人は権利書を手に取り、開いた。
「……なんか、土地多くない?」
権利書には、自宅の番地以外にいくつかの住所が記載されていた。
「ほれ、じいさまが趣味でやってた畑があるだろ? あれだよ」
「あー」
そういえば子供のころ、畑仕事を手伝わされた覚えがある。
「えっと、どれどれ……あー、ここか」
せっかくなので、賢人はスマートフォンを取り出し、記載された住所を入力して地図検索を行った。
航空写真モードに切り替えると、なんとなくその土地の思い出が蘇ってくる。
「おや、おもしろそうなもの見てるねぇ」
「お、ばあちゃんも見る?」
祖母の隣に座り直し、一緒にスマートフォンの画面を見ながら、亡き祖父への愚痴も含めて思い出を語り合った。
「……ん? これは、どこ?」
いくつか記載されていた住所の中で、ひとつだけ心当たりのないものがあった。
少し離れたところにあるその土地は、航空写真で見る限り周りに民家などのない雑木林だった。
広さはテニスコート半面分くらいだろうか。
「気になるのかい?」
「あー、うん。ちょっとだけ」
「だったら見に行けばいいじゃないか。ヒマなんだろ?」
「そうだね」
祖母の言うとおり、時間はあるのだから、気になるなら見に行けばいいだけの話だ。
「ま、なんにせよ車は必要だね」
「あれ、そういや、ばあちゃん車は?」
「ちょっと前に免許を返納してね。売っ払っちまったよ」
「え、不便じゃない?」
「近くにコンビニができたからね。あれがなきゃもう少し躊躇したと思うけどさ」
歩いて5分のところにコンビニができたのは、10年ほど前だったか。
このあたりの年寄りで結構繁盛しているらしい。
それに、週に1度は姉が買い出しに連れて行ってくれるそうだし、タクシーチケットやコミュニティバスを使えば、不便ながらもそれなりに生活できるのだとか。
「でも、チケットで全部まかなえるわけじゃないだろ? 結構な出費になるんじゃない?」
「どうだろうねぇ。税金やら車検代やらを考えると、案外安く上がるんじゃないかと思うけど」
「なるほどなぁ」
とはいえ、田舎で暮らす以上自動車はあるに越したことはないので、賢人は翌日カーディーラーへ行くことにした。
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