九十三 待たざるもの

「──姉御の大勝利にかんぱ~~い!!」


 白星が青の屋敷に戻った頃には、宴もたけなわ、御馳走がずらりと並び、皆で杯を交わし合っているところであった。


「おかえりなさいまし、白星様。どうぞこちらへ」


 白が呆気に取られる白星の手を引いて、上座へと導いて座らせる。


「おお、ようやく主役のご到着か。ささ、まずは駆けつけ三杯。景気づけに頼みまするぞ」


 すかさず青が杯を持たせ、とくとくと酒で満たしてゆく。


「かか。主役も待たずに始めておるとはの」

「先触れの伝達糸で結果は知れましたからな。宴の準備は早い方が良いと皆がうるさくて敵いませぬで」

「よく言うわ。ぬしも楽しんでおったと顔に書いておるぞ」


 白星は言い返すと、瞬く間に三杯の酒を呑み干し、座敷を沸かせた。


「さっすがうわばみの姉御! おれらも負けられねえぞ! もっと酒持ってこーい!」

「あいよお!」


 土蜘蛛達が盛り上がりを見せる中、青が白星に寄り添うようにはべり、新たに酒を注ぐ。


「いや、まことさすがにございまするな。酒の強さも、胆力も。まさかあの大百足をかように容易くひねるとは……」

「何、相性がよかったのよ」

「ほほ。ご謙遜を」


 笑いながら再び酒を注ぐ青に、


「ところで、福一はどうした」


 白星は酒をちろりと舐めながら尋ねた。


「かの者ならば、一人だけここで何もせずに待っている訳にはゆかぬと、他の龍穴を探しに出ていかれました」


 青と反対側へ座した白が答える。


「かか。真面目な奴よ」


 杯を揺らして笑みを浮かべる白星の元に、


「おう、姉御! 呑んでるかい?」

「先におっぱじめてですまねえな」


 打猿と国麿がどやどやとやってくる。


 すでに相当量飲んでいるようで足元が覚束ないが、八本足でなんとか倒れるのを堪えている様子だった。


「実はよ、おれらも一回別行動しようと思っでよお」

「青と白は、八十女の中でも立場が上の方だから、姉御に協力する意見を残りの八十女に認めさせたんだ」

「けどよ、青みてえに頭の固い奴がまだ数人いるってんで、おれらが直接がつんと言ってきてやろうと思っでなあ」

「これ。私を引き合いに出すでない」

「あいだ!」


 青の放った徳利が打猿の顔面に直撃し、話が寸断されるが、国麿が後を継いだ。


「ちゃあんと姉御の凄さをわからせできでやるぞ。兵は少しでも多い方がいいだろ? どうせなら、土蜘蛛全員で姉御の役に立ちてえんだ」

「ほほう。ぬしら、気が利くの。なれば止めはせん。またいずれ会おうぞ」


 白星が杯を掲げると、打猿と国麿も、多少乱暴に杯をぶつけ、互いに一気に干した。


「おう。まだこうしで一緒に酒を呑みてえもんだな」

「だっはっは! 楽しみが増えだな、兄貴!」


 その後もどんちゃん騒ぎは続き、空が白む頃まで喧噪が途切れる事は無かった。

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