第227話 聖騎士

 法国の暗殺部隊、祭祀の施設を急襲した三人。

 通りすがりの暗殺者が祭祀を倒す。

 その後、施設を全力で全壊させたシアだった。

 そんなカムラ、トムイ、シアの三人は、そのまま神殿を目指す。

 法国西側で派手に暴れる、ギルドの戦士達に対し、援軍が送られていた。

 神の祝福を受けた三人の聖騎士が、西の戦場へ到着していた。


「異教徒どもめ! 好き勝手もそこまでだ」

 大司教サンドロが、聖騎士部隊を引き連れて叫ぶ。

 邪教に勧誘され、教団にどっぷりと浸かった大司教。

 教団の都合と力で、大司教の地位を手に入れただけの小者が吠える。

 権力も欲しいし金も欲しいし女も欲しい。

 法国一、欲に塗れた聖職者だった。

 そんな脂ぎった大司教が、偉そうにふんぞり返る。


 キラキラと光る、全身鎧に身を包んだ騎士が前に出る。

「聖槌の騎士ラウラ」

 スレッジハンマーを担いだ、ずんぐりした騎士が前に出る。

「聖盾の騎士ダニエレ」

 大きなタワーシールドを持った大柄な騎士が立つ。

「聖剣の騎士アメデオ」

 白い猿のような可愛い名前の騎士が、分厚いグレートソードを大地に突き立てる。


 名前と噂だけは大陸に広がっていたが、実際に姿を見た冒険者はいなかった。

 そんな三人の聖騎士が、ギルドの戦士達と相対する。

「神の祝福を受けた其方らの力、異教徒たちに見せてやれ」

 三人を信頼しているのか、大司教が鷹揚に命じる。

 大陸の宗教は法国にしかないので、他国の者は異教徒でもないのだが。

 教会から見ると、光の神を信仰していない者は、全て異教徒だった。


「神の祝福がなんだってんだ」

「この数、相手に何が出来るんだよ」

「おら! 囲め囲めぇ!」

 まるでセリフとギャラでも、受け取っているかのように戦士数人が叫ぶ。

「愚かな……神の奇跡を見よ」

 聖槌の騎士ラウラが一人、前に出るとスレッジハンマーをふりかぶる。

「そんなもん当たるかよぉ」

「ぎゃはははっ! そんなとこで振り回してどうする気だよ」

 ラウラを囲み笑う、かませ達。

 だが、神の祝福は本物だった。


 何もない地面に、ラウラの槌が叩きつけられる。

 そこから光が、まばゆい光が迸る。

 あふれる光が、ラウラを半円に囲む戦士達を包む。

「これが奇跡だ」

 その眩しさに目を背けたギルドの戦士達、光が消えて目を開く。

 そこにはラウラを囲んでいた戦士達の装備だけが落ちていた。

 見事な、かませの仕事の見本のように、一瞬で装備だけを残して消えてしまった。

「なっ、何しやがった!」

「てめぇ、あいつらを何処にやったんだ!」

 目の前の光景が信じられず、それでも未知の力に怯える戦士達が叫ぶ。


「怯むな! 矢だ、矢を放て!」

てっ、うてぇ!」

「力を使わせるな! 射殺せぇ!」

 我を取り戻した数人が、次々に叫ぶ。

 飛び道具を持つ者は、それぞれに矢を番えて、好き勝手に撃ち出した。

「それをさせるとでも? 護れ! 奇跡の盾よ」

 ラウラの前に聖盾の騎士ダニエレが立ち塞がる。

 ダニエレの構える盾からも、眩い光が放たれる。

 二人の騎士を包む光が、飛来する矢もつぶても反射する。

「ぐぁっ!」 「うぐぅ!」 「ひぐぁ!」

「なっ、なんだ? どうなってんだ」

 放った飛び道具が使用者を襲う。

 自らの放った矢に、礫に、射抜かれ倒れていく戦士たち。


「神の奇跡の前に跪け」

 聖剣の騎士アメデオが大剣を振るう。

 剣から放たれた閃光が、ギルドの戦士達の中を駆け抜ける。

「う……うぅ……」

 剣を抜いた戦士が、突然低く呻きうずくまる。

「う、うわぁぁあぁ! ひぃやぁあああっ!」

 ポールアックスを投げ捨てた屈強な戦士が、悲鳴をあげて逃げ出した。

「やめろ……やめろぉ! くるなぁ!」

 剣を抜いた戦士が、近くの仲間に斬りかかる。

「うへ……うへへ……」

 両手にナイフを持った軽装の戦士が、虚ろな目で涎を垂らして立ち竦む。

 聖剣の閃光を受けた者は、それぞれの幻影に惑わされていた。

 幻影を見せ、精神を破壊する聖剣の力だった。


 たった三人を相手に翻弄されるギルドの戦士たち。

 魔物や魔族すら相手にする冒険者、狩人たちでも聖騎士の奇跡の力に翻弄される。

 形勢が一気に傾く。

 そんな戦士たちの中から飛び出す白い影。

「好き勝手にさせる訳にもいかないのですよ」

 誰も、敵味方含め、誰もが反応できない程の速さで、駆け抜ける剣士。

 白い刃が光に変わる。

 無数の光芒が盾と槌の、二人の聖騎士にはしる。


 その傍らを静かに駆け抜けた剣士が、ゆっくりと振り返る。

「うぇ? にゅく……ぽっ」

「なにしやがっ……ぷぁ」

 鎧袖一触、盾ごと鎧ごと、白い刃が切り刻む。

 幾重にも切り刻まれ、痛みすら感じる間もなく倒れる聖騎士。

「どんな奇跡だろうと、使う暇は与えませんよ」

 白い刃に白く輝く派手な鎧の剣士。

 ギルドのSランク、剣の勇者、貴公子ミハイルだった。


 一気に傾いた形勢を一瞬で逆転され、聖騎士二人が何も出来ずに倒された。

 怒りか恐怖か、プルプルと震える、聖剣の騎士だけが残っていた。

「た、多少は出来る者もい、居たようだが? せ、聖剣の奇跡の前には、無駄だ」

「余裕がなさそうですね。魔剣の騎士殿?」

「っ! ぷっっくりゃっ!」

 顔を真っ赤にさせ、意味の分からない言葉を叫ぶアメデオ。

 聖騎士の魔剣が、ミハイルへ閃光を放つ。

 まさしく光の速さで、閃光がミハイルを貫いた。

 ギルドの最後の希望、貴公子ミハイルを魔剣の幻影が捉える。


「力が欲しいか……」

「ちから……」

「何者をも屈服させる、圧倒的な力だ」

「ぼくは……まもるんだ」

「すべてを護れる力だ。もう、何もなくさない」

「みんなをまもれるちから」

「そうだ。力だ。対価はその身と魂だ。明け渡せ……力を受け入れろ」

 幻影にとらわれ、立ち尽くすミハイル。

 動きを止めた彼に、アメデオがゆっくり近付く。

 ニヤニヤといやらしい嗤いを浮かべ、魔剣をミハイルに突き出した。

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