第212話 破壊の悪魔

「まぁ、後は施設の破壊だから、シアに丸投げだけどね」

 トムイが何も出来ないと両手をあげた。

「じゃあ退がってて。いっくよー!」

 珍しくシアが大声で気合を入れる。

「やばそうだな」

「もうちょっと離れようか」

 何かを感じた二人が、未だ動けないハーレム部隊を引き摺るように離れる。


「ふぅ~……うねり、たけり、はじけ、呑み込み焼き尽くせ。全力全!」

 槍を祭祀さいしの建物に向け、意識を集中したシアの、気力が横溢おういつし弾け叫ぶ。

「今、なんか違う全だった! 絶対なんか違った」

「シア? ちょっと入口を壊すだけでいいんだよ?」

 大分離れた場所で、トムイとカムラが慌てている。

「消し飛べ! ばぁくれぇつぅ~……エクスプロージョン!」


 これだけは負けない。

 そういった技を一つ、身に着けておくと自信となる。

 いざという時の力になる。

 そう、師匠である男に教わった。


 大音声だいおんじょうで必殺技の名を、叫ぶのも効果的だと教わった。

 特に若い内は、勢いというものも大事だと。

 それは確かに効果はある。

 確かにあるが、必要以上に効果は出た。


 シアは暫く、全力での爆裂魔法を使っていなかった。

 魔力自体も上がり、練度も上がった。

 今の全力、最大火力を試してみたかった。

 そんなシアの全力。

 極大爆裂魔法がRC造(鉄筋コンクリート)三階建てに炸裂する。

 コンクリートも鉄筋も、一瞬で融解し蒸発した。

 爆炎が吹き上げ、爆風が周囲を薙ぎ払う。


「ヤバイ! フラクタム・ブレイカー!」

 予想以上の威力に、カムラが盾の魔法を起動する。

 何故か味方の攻撃に、とっておきを発動するカムラ。

 トムイを後ろに庇い、地面に盾を突き立てた。

 その直後、爆風に呑み込まれた。


「ひぃっ!」 「きゃああっ!」

 動けないお荷物四人を庇う余裕はなかった。

 悲鳴を残して爆風に呑まれ、飛ばされ転がっていく四人。

 為す術なく、熱風に包まれる四人。

「うわぁ……生きてるかなぁ」

 諦め顔のトムイが、転がって行く四人を見ていた。

 ……助けはしないが。


 爆風が収まり、大きく抉れたクレーターの前で、シアが振り向く。

「えへへ……やりすぎちゃったかな?」

 出入口を崩すだけの筈が、建物は跡形もなく消し飛んでいた。

 巨大なクレーターを造っておいて、笑って誤魔化す気だ。

「やり過ぎだろ!」

「えへへ……じゃないよ! どうすんのさコレ?」

 何故かシアは、腕を組んでむくれる。

 反省はしていないようだ。


 吹き飛ばされた四人は、なんとか生きていた。

 抵抗もせず吹き飛ばされたのが、逆に良かったのだろうか。

 爆風で飛ばされているので、火傷はしているし、無傷ではないが。

 それでも生きてはいた。

「ま、魔女だ……」

「人じゃない……悪魔よ」

 四人がシアを指差し震えていた。


「え~? えっへへ~、そうかなぁ?」

 魔女だ、悪魔だと言われ、恥ずかしそうに照れる少女。

「シア……あの人達、褒めてないと思うよ?」

 そんなトムイの言葉も、照れて浮かれるシアには届かなかった。

「いやぁ~半分は、確かに魔族ではあるけれどぉ……悪魔だなんてぇ」


 一般には、魔界の住人とされている者を、魔族と呼んでいた。

 魔界という世界が実在するのかは別として、一般的には、そう認識されていた。

 その中でも上位の者。

 力の強い、支配階級と思われている者を、悪魔と呼んでいた。

 悪魔が名乗った訳でもなく、人間が勝手に呼んでいた。

 魔法使いの中でも悪魔や魔神、邪神と契約したと言われる、強大な魔法を使う女性を、魔女と呼ぶという御伽噺が浸透していた。

 勝手なカテゴリー分けをして、勝手な名前をつけるのが人間だった。


 魔族の血を引く、ハーフのシア。

 その魔法を魔女だと褒められ、その血を悪魔だと褒められた。

 人々の恐怖は、彼女にとって、誉め言葉でしかなかった。

 恐怖に包まれ、トラウマを抱える若者達は居ても、とにかく任務は成功した。

 法国の最高戦力、祭祀を抑えた。

 抑えるどころか殲滅していた。

 実際に祭祀を始末したのは、殺し屋クロエだとしても。


 そんなチート組の派手な戦闘が注意を引く頃、東側では泥沼の戦闘が続いていた。

 正規軍を打ち破り、何故か発生したアンデッドも退けた連合軍。

 その進軍を妨げるのは、さらなるアンデッドの大軍だった。

 近隣の町、村から次々と集まるアンデッドの群れ。

 幽体のゴースト、レイスまで集まっていた。

 王国の魔女に渡された結界も、無制限に使えるものでもない。

 何より、その場に結界を張る道具なので、移動しながらは使えない。

 結界を張ると進軍できず、進軍しようとするとアンデッドが集まってきた。


「何故、神聖な光の神の国で、アンデッドが溢れているのでしょうねぇ」

「神聖ではなかったか、邪教に乗り換えたか」

「どちらにしても、殲滅するしかなさそうですなぁ」

「まずはアンデッドの群れをどうにかしませんと」

「肉体のないゴーストたちは厄介ですな」

 各国の代表達が集まり話し合うが打開策は出ない。

 地道に片付けていくしかなかった。


 そこで意外にも戦力になったのが評議国だった。

 数に任せて、まっすぐに突き進むだけ。

 そんな軍隊だが、他国が攻めあぐねる肉体を持たない幽体。

 ゴーストやレイスを相手に評議国の呪術が効果的だった。


 幽体へ評議国の呪術師と戦士達をあて、動く死体には帝国兵があたる。

 王国兵はアンデッドを増やさないように、生身の法国民を抑える。

 近隣の村、集落の民を捕らえおさえつける。

 死なないように縛り付けていった。

 それでも、アンデッドを増やす者は見つからなかった。

 教会の光の神の力なのか、教団の死の神の力なのか。

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