第192話 南北内乱

 いつもアイツだけチヤホヤされて気に食わない。

 あんな奴見た目だけじゃないか。

 不細工な僕は、皆に気持ち悪いと貶される。


 いつも成果をあげるアイツも気に入らない。

 僕は失敗ばかりなのに。

 いつも試合に勝つアイツが気に入らない。

 僕だって練習すれば勝てるようになるさ。


 アイツもソイツもコイツも、みんなみんなみんな。

 僕をバカにして、笑い者にしていた。

 そりゃあ、ちょっとばかりは、努力もしているだろうけれど。

 僕だって努力すれば、あいつらみたいに出来るさ。

 ただ、やらないだけだ。


 そんな僕を神様は、ちゃんと見ていてくれた。

 胡散臭いと思ってはいたが、入ってみた邪教を崇拝する教団。

 その神様が、僕に力をくれた。

 僕だけの特別なだ。

 この力があれば、今までバカにしてきたヤツらを見返せる。

 見ていろよ。

 僕が世界を変えるんだ。

 王国の貴族だという、セルジュも手伝うと言った。

 神から授かった力で、この僕メウェンが世界を変えてやるんだ。


 評議国ほぼ中央、砂漠に挟まれた熱帯の草原地帯。

 乾季の今は短草の、サバンナが広がっていた。

 そんな大草原に、南部の部族が集結していた。

 北からの進軍に各首長が素早く対応し、迎え撃つべく大軍を布陣していた。

 ンクルマとヴィオラの働きで、迅速な対応が出来ていた。

 長い盾と細身の槍を持った戦士達が並ぶ。

 草原の北から相対する戦士達が現れる。


 国の全員が参戦している訳ではないが、南軍約300万に北軍約200万。

 軍事国家と言われる、東の帝国でも兵数は約4万人。

 装備は貧弱でも圧倒的な数だ。

 小さな部族単位で、全体としての纏まりはないが。

 隣接する国々としては、巻き込まれる訳にはいかない数だった。

 北軍には魔族も加わるとの噂も流れていた。

 東の帝国も西の新興国家、傭兵王国も国境まで兵を出していた。

 王国も国境を守る貴族が兵を集めていた。

 傭兵団を雇い、農民たちを徴兵して数を揃える。

 ギルドにも各国から要請があり、高ランクの戦士たちが集められていた。

 そんな中、Sランク暗殺の報がギルドに入る。

 最高戦力が一気に二人、しかもたった一人に暗殺されたと。

 集まった戦士たちにも動揺が走る。

 それでも、名を売るチャンスだと、猛る者は北へ向かった。


 各国を巻き込みながら、もう止められない内戦へ突入してしまう。

 北軍のさらに北から軍を追う、停戦派の部族と男。

 何処かに紛れ、何かを画策する邪教徒たち。

 まだ見ぬ魔界の軍勢。

 名を売る為に参戦する、ギルドの冒険者ベンチャー狩人ハンター


 さらに混乱の中、戦う若者が居た。

 彼等は評議国、南西のオアシスに。

 共に孤児として育ち、外へ、戦いに身を投じた少年少女。

 彼らの戦いにも、一応の決着がつく。


 肩近くから切断された腕が飛ぶ。

 使い込んだシミターが握られた右腕が飛んだ。


 カムラがクロエの腕を斬り飛ばし駆け抜ける。

「えっ?」

 トムイの間の抜けた驚きの声に、カムラが振り向く。

「どうなってんの?」

 シアも自分の目を疑いたくなる程、何を見ているのか分からない。

 残っていた腕を失くし、噴き出す血を迸らせたクロエ。

 その姿が……目の前から消えていた。

 飛び散る血を残し、姿も気配も消えていた。

「血が……」

 逃げたのか、血の跡が続いていた。

 飛び散った血が滴り、その場を離れて行き点々と。

 カムラが見つけた血の跡は、すぐに途絶えていた。

 隻腕だったのだから、もう一本失くしても、死なないかもしれない。

 両腕共に失くして、どうやって止血をしたのか。

 腕を失くしたまま、気配を消して、走れるものなのだろうか。

 周りには、隠れる場所とて碌にない、荒野が広がっている。

 とにかく暗殺者の姿は消えていた。


「なんとか撃退って事かな」

 トムイが周囲を探っても、暗殺者は見つからなかった。

「聞いた事ないけど、おっかない奴ねぇ」

「はぁ~、怖かったぁ」

 シアの言葉に気が抜けたカムラから力が抜ける。

「あんな凄いのを雇うくらいだから、戦争には教団が係わってるんだろうね」

「Sランクの勇者もやられたらしいし、まだ何かしてくるかもね」

 内乱を心配するトムイに、シアも邪教徒の狙いを気にする。


「行こう」

 泣き虫なままなのに力強く、決意を示すカムラ。

「分かってんの? あんなのが他にもいるかも知れないよ?」

「また、とんでもないのを、び出すかもしれないよ?」

 シアもトムイも、怖がりなカムラを煽る。

「それでも! 行かなきゃ。止められなくても、師匠もいるんじゃないかな」

「ははっ、カムラはわがままだなぁ」

「はぁ~、まったく。金にもならないのにね」

 楽しそうなトムイと、溜息をく面倒くさそうなシア。

 そんな三人は南北の部族がぶつかる戦場へ。

 他国の内戦へ、勝手に参戦しに向かう。


 

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