第188話 観光気分の先に
男が砂漠を抜ける少し前。
仕事を終わらせ、騒ぎに巻き込まれ……いや、飛び込んで。
初めての評議国を観光に歩く三人。
カムラ、トムイ、シアは城塞都市に来ていた。
「いやぁ、でっかいなぁ」
「どうやって建てたんだろうねぇ」
「口あけて見上げないでよ。恥ずかしい」
巨大な防壁を見上げ感嘆する二人。
素直な二人が少し恥ずかしいシア。
都市に泊まって存分に観光に、のんびりとすごす三人だった。
「もうちょい西まで行ってみようか」
「まぁ、折角だしねぇ」
「偶にはのんびりするのも良いんじゃない?」
城塞都市を抜け、さらに西へ三人はあてもなく進む。
荒野の先を別の三人組が歩いているのが見えた。
大分離れているが、冒険者風の格好に見える。
特に敵意や危険も感じない。
突然怒鳴り声が響き、前方の三人が戦闘を開始したようだ。
大きな四つ足のモンスターに襲われたようだ。
「行こう!」
カムラが躊躇なく飛び出し駆け出す。
「えっ、待ってよぉ」
トムイもカムラの後を追って走り出す。
「また、すぐに首を突っ込むんだからぁ」
乗り気でないシアが溜息を吐く。
砂漠に棲むという大型爬虫類、砂漠トカゲに三人が襲われていた。
三人共冒険者風の評議国人に見える。
ある程度は戦えるようだが、5m近いトカゲを相手に苦戦していた。
「お邪魔しまぁす!」
そこへ全力で駆けて来た、カムラが飛び込む。
「余計な事ならごめんなさい。手伝います」
トムイもカムラの後ろについて、三人の前に立つ。
「うわぁ、でっけぇ。どうしようシア」
想像以上の大きさに、怯んだカムラが、シアに指示を求める。
だが、彼女は未だ、遥か後方を歩いていた。
「うわぁ……助ける気、なさそうだねぇ」
困ったトムイが、鋼糸とナイフを構える。
「え、え?」
「すまん。助かる」
青年二人と若い女性が一人。
襲われていたようで、カムラたちの合流を受け入れた。
「アイツが攻撃を受け止めるんで、もうちょい離れてください」
トムイが三人をさがらせる。
大きなトカゲのしっぽが、横薙ぎに振られる。
「んっにゃあっ!」
相変わらずの気の抜けそうな掛け声で、強烈な攻撃をカムラが受け流す。
強力ではあるが、その牙も尾も、ライオットシールドが受け流す。
「カムラ、いいよぉ」
仕掛けの終わったトムイの合図と共に、トカゲがカムラに跳び掛かる。
「フラクタム・ブレイカー!」
ライオットシールドから太い鉄杭が地面に伸びる。
カムラの声で発動する魔法の杭が、地中に根を張るように突き刺さる。
鉄杭で固定された盾が、トカゲの突進を受け止める。
その脇を擦り抜け、トムイが飛び出す。
カムラの盾に引っ掛けられた鋼糸が、トムイの両手に伸びていた。
トカゲを挟み込み立つ、トムイとカムラ。
盾を持たないトムイに、反転したトカゲが襲い掛かる。
「おおっとぉ」
素早く軽やかに、華麗にトカゲを躱したトムイが跳ぶ。
トカゲを飛び越えたトムイが、盾の裏へ入り鋼糸を縦に絡める。
行って帰って来た鋼糸が、トカゲの巨体を絡めとっていた。
荒野に立つ盾に、絡みついた鋼糸で固定されるトカゲ。
「「シア!」」
トカゲを捕まえた二人が、後ろに叫ぶ。
「仕方ないなぁもぉ」
のんびり歩いて来たシアの爆裂魔法が、盾の前で発動する。
轟音と共にトカゲが爆ぜる。
唖然とする、襲われていた三人の前に、トカゲの残骸が降り注いだ。
「やりすぎだよシア~」
「なんか威力上がってないかぁ?」
「ん~、なんか魔力が溢れそうなくらいなのよね~」
本人にも謎なまま、絶好調のシアだった。
「助かったよ。魔法使いまで連れてるなんて凄いんだな」
爆裂魔法のショックから立ち直った青年が、素直に礼を伝える。
「皆無事で何よりでした」
トムイとカムラも笑顔で応える。
「勝手しちゃって、ごめんなさい。俺はカムラ。
「僕はトムイ。こっちはシアです」
「……どうも」
何かを感じ取っているのか、シアが変な反応だったりはする。
だが、危険な感じではなさそうだった。
「俺はカリドゥ。よろしくな」
ファルシオンと小型の盾バックラーを装備した戦士だ。
「ありがとう。僕はサディオだ」
カリドゥと同じく軽装で、手作りのような細身の槍を持っている。
「本当に助かったよ。アタシはレジーナだ」
女性は短い棒、バトンを武器として持っていた。
ファルシオン
フォールチョンとも呼ばれる、ノルマン人が使用したといわれる刀です。
幅の広い刃で鉈に近いものが多いようです。
剣と違い、装飾を施されたものがほぼ残っていなかったり、剣よりも安価で、戦士の武器というよりも、民衆の生活用具の一つ、だったと考えられています。
語源も鎌を意味するといわれています。
ついでのノルマン人はヨーロッパ各地を侵略した民族です。
ノルマンディー公国、シチリア王国、キエフ大公国やデンマーク、スウェーデン、ノルウェー、アイスランドなどを建国しました。
西はカナダ、東はウクライナまで、イングランド、アイルランドなど広く、各地に侵攻したようです。
実際に見て来た訳ではなく、そういう記録もあります。という程度の情報です。
これが全て確実に正しいとは限りません。
雰囲気だけ楽しんでいってください。
「レジーナさんって、どこかで聞いた事、あるような気がするんだけど」
「え? 有名な人?」
トムイが聞き覚えがあると言うと、カムラが有名人かと反応する。
「はははっ。別のレジーナだろうねぇ。この辺りじゃ珍しくない名だからね」
「この辺じゃ、小さな部族でも、数人はレジーナが居るな」
レジーナが笑いながら否定して、カリドゥもレジーナは多いと言う。
「君らはギルドの仕事かい?」
「仕事が終わったので、初めての評議国を見てまわってます」
サディオにトムイが答える。
「もう少し西に湖があるんだが、この辺りの水場はそこだけなんだ」
「そこの部族はちと乱暴でね」
「勝手に水場に近付くと、襲われるかもしれない」
「俺たちは近くの部族出身だから、知り合いがいるんだよ」
「助けて貰った礼代わりだ。西へ行くなら紹介するよ」
三人が交互に近くの情報を話してくれる。
急ぐ旅でもないし、せっかくなので西の湖へ向かう事にした。
北と南の内乱に、巻き込まれていく男と対照的に、のんびりと観光気分な三人。
その先に待つのは、楽しい観光か理不尽な死か。
ここまで読み進めて戴き、ありがとうございます。
番外編として、ある少年の物語を公開しました。
少年の登場後か、登場前に読むか。
ごく短いものなので、お暇が出来た時に覗いてみてくださいませ。
孤児院から旅立った少年の成長の記録。
安住の地を求め大陸を旅する、少年の出会いの物語。
そんな短編『踠く者』もよろしくお願いします。
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