第182話 北の戦士

 奴隷商人のマルタンは、東の町では名士として通っていた。

 町の孤児院へも、多額の寄付をしていた。

 攫って来た子供を売った金の一部を、孤児院に寄付していた。

 他にも町の為に出資していた。

 罪滅ぼしのつもりだったのか、施しで優越感に浸りたかったのか。


 さらに家では良い夫であり、優しい父だった。

 その為マルタンの処分は面倒だった。

 そんな大人の仕事が、ギルドマスターに丸投げされた。

 ギルド長も絡んでいたので、責任を感じているマルクス。

 彼なら圧力にも負けず、キッチリと仕事をするだろう。


 子供達を連れたヴィルムと、別れたカムラ達は西へ向かうという。

「城塞都市ってのを見てみたいから」

「途中の町には大きな市場もあるって、変なモノに喰いつかなきゃいいけど」

「カムラは、すぐに変な物を買うからねぇ」

 せっかくなので、評議国を見て廻ると言う3人。


「変じゃないだろう。お前らには分からないんだよ」

 変な物に興味を持つカムラに、トムイとシアが困った目を向ける。

「評議国で町と呼べるのは、ここまでの3つくらいですからね」

 観光なら城塞都市しかないと、マルコも同意していた。

 自然と共に暮らす、小さな部族が殆どだという。

 集落や村のようなものが、数か所あるくらいだった。

 家すらなく、原始的な暮らしの、部族が多いらしい。


 他の用事のに、立ち寄っただけだと言う公爵。

 仕事が終わったので、評議国を少し廻ってみると言うカムラ。

 そんな彼等と別れ、男たちはヴィオラを送り届ける。

「余計な道草でしたね」

「アンタ、ほんとに何者なんだい?」

 いくら考えても正体の見えない男に、ヴィオラが探る視線を向ける。

 男は笑うだけで相手にしなかった。


 一行はヴィオラの叔母が住むという家へ向かった。

 青い屋根の家へヴィオラが駆け寄り戸を叩く。

 すぐに中から、中年女性が出て来た。

 背が高く、色々と豊満な女性だ。

「叔母さん!」

「おや、ヴィオラじゃないか」

 気が緩んだのか、涙を浮かべて、抱き着くヴィオラだった。


「父の妹でンクルマ叔母さんよ。この人達に助けて貰ったの」

 家の中に招き入れられた一行に、ヴィオラが叔母を紹介する。

 父が殺され戦になりそうだと、ンクルマに報告したヴィオラ。

 暫く二人で話してから、一行を中へ招いていた。


「このを、連れて来てくれたんだって。ありがとうね」

「お気になさらず。報酬を受け取ったら、すぐに消えます」

 男が被せ気味にこたえる。

 男とリトは座りもせず玄関ドアの近くに立っていた。

 何故か早く出たいようだ。


「そうだったね。これを受け取っておくれ」

「は? これは流石に……」

 慌てるマルコに差し出されたのは金貨だった。

 小金貨二枚。約5百万円だ。


「何をさせる気だ」

 ダニエルも多すぎると思ったようだ。

「あんたらも北へ行くんだろ? 護衛を頼みたい」

 王国公爵の情報を、ヴィオラも聞いていた。

 探している伯爵が、逃げたのも北だった。


 不味い事に逃亡中のセルジュが、北の混乱に絡んでいる可能性も高い。

 王国の貴族が、他国の一部を扇動して、内乱を起こしたとなると不味い。

 嫌な予感でもあったのだろうか、入口の男が小さく舌打ちをした。

「わかりました。こちらも北の部族に会わないといけないかもしれません」

 仕方なくマルコが依頼を受ける。

「そうかい。北へは息子を行かせる。一応部族の戦士だ」


 ヴィオラとンクルマは、東部にいる仲間を集めるという。

 南部の評議国議会へも報告し、北へも働きかけるという。

「アソン!」

 ンクルマが上へ向かって叫ぶと、二階から青年が降りて来る。

「なんだ母さん。客じゃないのか……ん? ヴィオラか」

「こいつが同行する。息子のアソンだ」


 北へいく戦士はンクルマの息子だった。

 ンクルマとヴィオラが事情を話す。

「俺は一人の方がいい。仲間は邪魔だ」

 その一言でマルコも男も、アソンを理解する。

 男なら彼の気持ちが理解できるか、とマルコが問いかける。

「気が合いそうですか?」

「別に仲間を邪魔だと思っていたりはしませんよ? チームプレイ大好きです」

「そ、そうですか……」


 青年の抵抗も虚しく、ンクルマとヴィオラに説得され、同行するアソン。

「北へ急ぐなら砂漠を越えなきゃね」

「先ずはオアシスの部族を目指して」

 北へ向かったセルジュが砂漠を通ったのなら、砂漠の民であるオアシスの部族が、情報を持っている筈だという。

「砂漠用の装備はすぐに用意するよ」


 アソンが外へ出て行き、ンクルマが食事の支度をしてくれた。

 刻んだ何かの肉と、刻んだ野菜を煮詰めたものが出された。

 香辛料がたっぷりの、黒っぽいナニカ。

 顔より大きな焼きたての、ナンのようなもの。

 見た目と臭いはよろしくないが、味はまぁまぁだった。

 慣れたらクセになりそうだ。

 リトは一人、干し肉を齧っていた。


「待たせたな」

 丁度食べ終わったところへ、アソンが戻ってきた。

 砂漠用の装備を用意してきたようだ。

 セルジュを逃がさない為、南北の内戦を止める為、すぐに出発する。

 荒野を北上して砂漠へ。

 移動するオアシスと共に砂漠を巡る部族を目指す。

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