第179話 新装備

「うるさいガキだ。おい、黙らせろ」

 太ったカエルの様な奴隷商人が、護衛に命令する。

 子供達を繋ぐ綱を商人へ渡し、護衛のポニーテールがカムラへ向かう。

「悪いな小僧。これも仕事なんでなぁ」

 その割には嬉しそうに、護衛は舌なめずりしている。

「暫く動けないようにしてやれデニス」

 カエル顔の商人マルタンが、護衛のデニスをけしかける。


 革の手袋をはめたデニスがコブシを握る。

 籠手の先についた鉄片が、その拳を守る。

 武器にもなる鉄の拳でカムラに殴りかかる。

「んぃ!」

 振り下ろされる拳を、カムラの盾が受け止めた。


 いつもの丸盾ではなく、丸みをもった大きな長方形の盾を持っていた。

 デニスは盾ごと圧し潰そうと、構わず殴りつける。

「んにっ!」

 デニスは盾の上から、力任せに殴る。

 受け止めるカムラの掛け声が、いちいちうざい。

「ん~にゃあっ!」

 それを受け止めたカムラは、気の抜ける掛け声と共に大きく踏み込む。


 大きな盾を翻し、さらに大きなデニスの身体を掬い上げる。

「うぉっ! なっ、くぇ……」

 くるんっと綺麗に回転し、背中から床に叩きつけられるデニス。

「ぷっ、くぇって言った。『くぇ』だって。……ぷふっ」

「ダメだよシア。ハゲの人が怒るよ?」

 床にひっくり返されて漏れた変な声を、シアに笑われるポニテのおっさん。

 それを諫めるフリをするトムイの、とどめの一言。


「な、何をしているんだ! 相手は子供だぞ!」

 奴隷商人が、顔を真っ赤にして怒鳴る。

 デニスの中のナニカが切れた。

 飛び起きたデニスはズボンから小瓶を取り出した。

 その赤い液体を一気に飲み干し、本来の武器を手にした。


 大型の槌、スレッジハンマーを振りかぶる。

「はぁ~……つぶれちまえ」

 真っ赤に血走った目のデニスが、カムラを睨む。

「あぁ……こんなところで、それを飲むなんて……」

 面倒臭そうな顔で舌打ちをする商人。


「お、おい、マルタン。あのポーションって、大丈夫なのか?」

「まぁ、仕方がない。もう理性も何も、ありゃしないよハディ」

 暴れて内装を傷つけられないか、心配なギルド長ハディ。

 仕方がないと諦めた奴隷商人マルタン。

 理性を失くしたデニスが横殴りにハンマーを振るう。


「えっ……」

「わぁお……」

 そのスレッジハンマーの威力に、トムイとシアも驚いた。

 盾で受け止めたカムラが、おもちゃのように飛んでいく。

 土壁も突き破り、外の大通りまで転がっていった。

 デニスがさらにハンマーで壁を叩く。

 壁に空けた穴から……いや、崩れて無くなった、壁の跡から外に出る。


「おい。やりすぎだ! 壁がなくなったぞ」

「暫くは声も届きはしないよ」

 慌てる天辺ハゲのハディと、諦めた太ったカエルのような商人マルタン。

「うはぁ……とんでもないねぇ」

「ぷっ、カムラったら派手に転がってぇ、格好悪いんだからぁ」

 派手に飛んで行ったカムラだが、仲間二人は笑っていた。

 ダメージはないのか、すぐに立ち上がるカムラ。

 それが、さらにデニスの怒りを呼ぶ。


「ひぃ、ひぃ……ひゃっ……はぁ~!」

 走り出したデニスは叫びながらスレッジハンマーを振りかぶる。

 逃げもせず盾を構えるカムラ。

「来い! 新しい盾の力を、見せてやる」

 力強く踏み込んだデニスが、ハンマーを下から振り上げる。

 ゴルフのようなアッパースイングがカムラを襲う。


「飛べぇ!」

 落ち着いて盾に左肩を当て構えるカムラ。

 地面に盾を立て、右足を後ろへ踏ん張る。

 異常に強化された一撃を、真向から受け止める気だ。


 大型のタワーシールド

 カムラの新しい盾は、見た目はタワーシールドだった。

 形は似ているが、それはライオットシールドだった。

 迷宮から流れてきた、機動隊のような、ジュラルミンの盾だった。


 タワーシールドは大型の盾ですが、ほぼ壁です。

 体をすっぽりと隠します。

 それに対抗するために、大きく湾曲したショーテルという剣もあったそうです。

 盾の向こうに隠れた相手を攻撃するという剣です。

 ふざけているとしか思えません。

 そんなピンポイントな間合いを、戦闘中にとれません。

 ごく一部の、天才と呼ばれる人にしか使えないと思います。

 同じような大きな盾には、カイトシールドがあります。

 騎乗でも足元を守れるそうです。

 重すぎるので、すぐに廃れます。

 それを小さく軽量化したものが、ヒーターシールドと呼ばれます。

 アイロンのような形をした盾です。

 ヒーターはアイロンの事です。

 以上、全ての盾の名は、かなり後の時代につけられた名です。

 当時もヨーロッパは、英語圏ではありません。


 壁を突き破るほどの、大型ハンマーの一撃。

 それを受け止めるカムラが叫ぶ。

「穿て! フラクタム・ブレイカー!」

 音声認証によって、盾に仕込まれた魔法が発動する。


 カムラの盾の底辺から鉄の杭が飛び出し、地面を抉り突き刺さる。

 魔法の鉄杭が地中に埋まり、大きな盾を固定する。

 自我を失う程の薬で、強化された一撃を、カムラの盾が受け止めた。

 どれだけ強化しようとも、人の力でジュラルミンは砕けない。

 動きの止まったデニスに、盾の影からカムラが飛び出す。


「んなぁ~っしょい!」

 力の抜ける掛け声で、力任せに殴りつけるカムラ。

 一撃で意識を刈り取られ、道端に倒れるデニス。

「バカなぁ!」

「なんだ、あの小僧」

 ハゲとカエルも慌てだす。


 パイルバンカーを御存知でしょうか。

 鉄杭を射出して敵を貫く、超至近距離用のロマン武器です。

 某アニメに出て来た、装甲騎兵なATが装備していた、架空兵器です。

 そんなイメージの、カムラの新装備でした。

 フラクタム・ブレイカーは破砕機です。

 鉄の杭を打ち込み、瓦礫などを破砕します。

 こちらは実在しますが、兵器ではありません。


「きっ、貴様ら、ギルドを敵に回す気か!」

「この町も……いや、この国への敵対行為だぞ」

 ハゲとカエルが騒ぎ出す。

「え~。そんな事言われてもぉ。取り敢えず子供達を返してよ」

 カムラもいつの間にか図太くなっていたようだ。


 しかし、中に居た冒険者や狩人達が外に出て来る。

 およそ半数、16人がギルド支部長ハディにつくようだ。

 残りの半数はハディの小遣い稼ぎに興味はないようだ。

「ちょっと多いんじゃない?」

「町中で爆裂とかしないでよ?」


 笑いながら見ていたトムイとシアも、カムラの後ろに回り込む。

 3人の少年少女の前にギルドの戦士達が立ちはだかる。

 流石に人数差が酷い。

 もう町ごと爆裂魔法で、吹き飛ばすしかないかと、シアが身構えた。

 そんな町の危機……もとい、少年たちの危機。

 そんなタイミングで援軍が現れる。


「いやいや、英雄殿は派手好きよのぉ」

 カムラ達の後ろから暢気な声がした。


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