第174話 城塞都市

 東西に広い評議国。

 東西と北が海ですが、国土の殆どが荒野と砂漠です。

 小さな部族の集まりで、連邦を名乗っていましたが、崩壊しました。

 現在は各部族の首長が集まり、合議で国を運営する、評議国を名乗っています。

 しかし、まだ全部族が加盟している訳でもなく、不安定な国です。

 まとまれば国面積と人口は大陸一です。

 人口は約2千万人、正規兵は約800万という、ずば抜けた国です。

 国民の、ほぼ全てが、戦闘に参加できる狩猟民族です。

 一部の女性と幼子以外の、ほぼ全ての民が戦闘に参加できます。

 正規兵の装備が、半裸に細身の槍一本とか、凄まじい国です。

 密林の原住民を想像して頂けると、そんな感じだと思います。

 他国と変わらない服装の民もいますが、服という概念がない部族もいます。

 南側の部族は、比較的近代的というか、文明が他国に近くなってます。


 帝都から北上し、そんな評議国へ入る男。

「見えて来ました。まずはあの町へ入りましょう」

 マルコが指す先には、高い防壁が立っていた。

「評議国の首都、と言ってもいい城塞都市だ。国で一番大きな町だな」

 自称帝国人のトーマスが告げる。

 評議国の情報を、本当に知っているようだ。

 東西に広い評議国のほぼ中央、南寄りの国境近くにその都市はあった。

 昔は王国との戦にでも使われたのだろうか。

 どうやったのか、高い壁に囲まれていた。


「はぁ~……凄いもんですねぇ」

「今では失われた技術だとか、魔法だとも言われますね」

 遥か高い壁を見上げる男に、マルコが謎の壁だと答える。

 その壁は不思議な、黒い金属で出来ていた。

 その壁は高く、雲の上まで続いているかのように、高くそびえていた。

 実際そこまで高くはないが、都市の入口から見上げると、果てしなく見える。

 厚みも相当なもので、高層ビルが立ち並んでいるようなものだった。


「いつ、誰が建てたのか、誰も知らない壁だ」

 トーマスも知らないようだ。

 高く聳える建造物に何か懐かしさを感じた男は、飽きずに見上げていた。

 トーマスとダニエルは興味なさそうだ。

 何度も来ているトーマスは、見慣れているのだろうか。

 王国の貴族様であるダニエルは、壁ごときに興味は持たないようだ。


「まぁ、中に入りましょうか」

 マルコが壁を見上げる男に声を掛け、懐から木の札を取り出す。

 入口の長い行列をよそに、隣の小さな扉へ向かう。

 門を守る鎧を着た兵が、マルコの木札を見て、扉を開けてくれる。

 行列に並ぶ人々の、恨めしそうな視線が向けられる。

「はっはっは……不条理ですねぇ」

 何故か、男は楽しそうだ。


「王国と友好的な部族の領内ならば、この札で便宜を図ってもらえます」

「敵対している部族もいるのですか?」

 マルコの説明に男が、素朴な疑問をなげてみる。

「西の方の部族は、友好的ではないと思います」


「王国の使者を襲ったりはしないだろうが、嫌っている部族もいるな」

「ふん……やつらは原始的プリミティブな部族だからな」

 マルコの言葉に、トーマスとダニエルも情報を漏らす。

 トーマスだけでなくダニエルも、評議国に詳しいようだ。

 しかもダニエルは、西側の部族が気に入らないようだ。


「そういえば、もっと自然と暮らすような部族だと思ってましたが」

「ここまで大きな都市はここだけですね」

 男の疑問に、マルコが答える。

「東の方に2つ、小さな町があるくらいだな」

「残りは集落だ。砂漠の民なんかは、ずっと移動しているらしいぞ」

 またしても、頼んでもいない2人の、プチ情報がもたらされる。

 どうも貴族様は、原始的な暮らしが、気に食わないようだ。

 鎧を着た兵士というのも、この城塞都市くらいにしか居ないらしい。


「この都市なら宿もあるし、食事も出来る。迷宮メニューもあるぞ」

「迷宮のメニューは楽しみですねぇ。早速、行ってみましょう」

 トーマスの情報に、男が喰いついた。

「おにくも?」

「ワニもありますよ~」

 涎を垂らすリトに、マルコが答える。

 一行はカフェ付きの宿屋へ入った。


「ここは迷宮から伝わる、異世界のメニューがウリなんだ」

「カレーとパンケーキだな。辛いのと甘いのだ。口に合わん」

 トーマスが自慢気じまんげに口にするが、ダニエルは好みに合わないようだ。

「カレーとパンケーキですか。何が出るのか楽しみですねぇ」

 男はイギリスか日本か、何処の国の料理が来るか楽しみだった。

 リトにはワニのステーキと、何かの肉の素揚げ盛り合わせ。

 残りの男達はカレーと、パンケーキを注文する。


 カレーという名は、イギリス人の聞き間違いと言われています。

 それが日本に入って来たという噂です。

 インドやタイではカレーという名ではありません。

 タイでタイカレーのつもりで、『カレー』を頼むと、日本のカレーが出るとか。

 日本の『カレーライス』は、ほぼ日本語のようなものですね。

 関係ありませんが、パプリカも日本語です。

 英語では、黄色いのはイエローペッパー、赤いのはレッドペッパーです。

 日本以外では、ペッパーの粉末をパプリカといいます。


「日本かぁ……まぁ、懐かしいけれども。パンケーキは何が出て来るんだ?」

 日本で食べた、懐かしい味のカレーライスだった。

 男も嫌いな訳ではなかった。

 まぁ、嫌いな人の方が少ないかもしれない。

 マルコもトーマスも、顔を真っ赤にして食べている。

 文句を言っていたダニエルも、何故かカレーを食べている。

 少し口元がニヤついているようにも見えるが、好みの味だったのだろうか。


「パンケーキというのも、御存知ですか?」

 マルコが、囁くような声で男に訊ねる。

「調理法というか、水にいた小麦粉を、焼いた物の総称ですね」

「何が出て来るか楽しみですね」

 甘い物が好きだったのだろうか、マルコの顔が子供のように綻んでいる。

 薄く焼いた生地で、たっぷりのフルーツと、生クリームを包んだものが出て来た。

「クレープか……予想外です。こちらは、日本では無かったようですね」


 ホットケーキも、お好み焼きも、クレープも、パンケーキです。

 パンケーキのパンはフライパンのパンです。

 たまに勘違いをしている店もありますが、BREADではありません。


 食べて飲む一行を、見つめる人影が一つ。

 深くフードを被り、マントを着た人物が様子を見ていた。

 一人小さく頷いたその人物が、男達のテーブルへ歩み寄る。

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