第169話 狙う者達

 山岳地帯でもないのに、崖だらけの荒れた土地。

 この辺りには地下に広大な都市があったらしい。

 今は亡びた地下都市の遺跡群が眠る荒野。

 底も見えない崖を降りると、未探索の遺跡もあるという。

 盗掘団と魔物が跋扈ばっこする遺跡の上。

 そんな荒野を馬車が往く。


「いやぁ、見事に何もありませんねぇ」

 馬車の荷台から、外を覗く男が呟く。

「地下には遺跡群が眠っているそうですよ」

「遺跡目当てで、人が集まったりしないのですか?」

 遺跡があると言うマルコに男が訊ねた。


「昔は村だかがあったそうですが、寂れて今は、何もありませんね」

 マルコも興味がないのか詳しくはないようだ。

「地下に巣くっている魔物達が、厄介だとか聞いたな」

 発掘が寂れた理由を、メフディが口にする。

「そんな遺跡に、近寄りたくありませんねぇ」

 男がうかつなセリフを口にするが……


 寂れた遺跡は、危険を承知の盗掘団が発掘しているらしい。

 衛兵から逃れたい犯罪者や、強盗団等も潜んでいたりする。

 そんな地下遺跡に、入りたい者もいないだろうが。

 それでもフラグが立てば、入らざるを得ないだろう。


 馬車は街道を外れ、崖際の道に入っていく。

「おや? 街道を外れましたね」

「心配いらない。アルに任せておけば大丈夫だ」

 おかしな所を通るとマルコが気にするが、マチューは落ち着いていた。


「先代の領主から仕えているらしいな」

「そうだ。妻子も叔父上の屋敷にいるぞ」

 メフディも知っているほど、昔からの使用人で有名らしい。

 幼い頃からアルの馬車で、移動していたマチューは安心しているようだ。


「リト……何人だと思う?」

「ん~二人……かな」

「何の人数です? まさか生き残る数とかじゃありませんよね?」

 男とリトの不吉な会話に、マルコが不安な顔になる。

「まぁまぁ、すぐに分かりますよ。私は三人だと思ってます」

 街道を西へ行く予定だった筈だが、馬車は街道を外れて細い道を行く。

 先行している二人も、何故か外れた崖際の道を進んでいた。

 そんな不穏な馬車が、何もない所で止まった。


「どうしたんだ?」

 何も知らされていなかったメフディが、馬車から降りる。

「思ったよりも早かったですねぇ」

 男の呟きに、マルコに緊張が走る。

 幾度も巻き込まれてきたマルコも、何かを感じ取ったようだ。

「何だ、お前ら。おいアル、どういうつもりだ」

 外でメフディが叫んでいる。

 メフディの仲間たちが、馬車から飛び出した。


 外では馭者のアルが、馬車から馬を外していた。

 その先には傭兵のような男達がいた。

 ニヤニヤと嗤う男達が馬車を囲む。

 その中には、先行していたダビドとアドリアンもいた。


 馬を連れたアルが、その男達の向こうへ消える。

「なんだこれは……ダビド! アドリアン!」

「そう騒ぐなよメフディ」

 弓を構えたアドリアンが、メフディに笑いかける。

「こいつら傭兵団と一緒に、俺たち二人も雇われてたのさ」

「その御曹司には、生きててもらっちゃ困るんだとよ」


 そう言うアドリアンが弓を放つ。

 槍を持つ狩人ハンター、シルバンの眉間に矢が突き立つ。

 呻きを漏らす間もなく、即死したシルバンが倒れる。

「くそっ……」

「なんでこんな事に……」

 マジェドとカンタンがメフディの傍で武器を構える。

 しかし40人の傭兵に囲まれて、切り抜ける力はなかった。


「さぁて、どうしましょうねぇ」

 馬車の中で男が、外を見て困っていた。

「そ、そんな……アルが……なんで……」

 使用人に好かれている、とでも思っていたのだろうか。


 マチューは裏切られたのが、信じられないようだ。

 マルコは黙って男を見つめている。

「凄い。さすがマスター。三人だった」

 余裕なのか、気にしていないだけなのか、リトは何かズレていた。


「何の人数だったんです?」

「護衛のフリをした奴等の数です」

 マルコの疑問に、男が答える。

「知っていたんですか!」

「いや、知りませんよ。それくらいは、いるかなぁ……と」


 呆れて言葉もないマルコに笑いかけ、男が幌の骨組みを掴む。

「さて……あの数は相手出来ないので、逃げましょうか」

「え……どこへ……」

「リト、来い」

「あい!」

 戸惑うマルコとほうけるマチュー。

 なんの疑問も持たず、ノータイムで反応するリト。


「お前らはどうでもいいんだが……まぁ、ついでだ。死んでもらおうか」

「お前もな」

 メフディ達に死んでくれと言うダビドが、後ろから背中を斬られる。

 アドリアンも後ろから、胸を貫かれた。

 裏切った二人も裏切られ殺される。

 たいした抵抗も出来ずに、メフディ達も切り刻まれた。

 傭兵達が迫る、荷台だけになった馬車が、大きく揺れる。


「さぁ、行ってみましょうか」

 馬車の中、崖側に向かって男が体重を掛ける。

 そこへリトも飛び込む。

「なっ、何をっ!」


 叫ぶマルコが動く前に、傾いた馬車が倒れる。

 何もない空間、底も見えない崖下、地下遺跡へ向かって落ちていく。

 ほぼ垂直に近い斜面を、馬車だった荷台が転がっていく。

 大きく出っ張った、大きな岩を掠めて落ちていく。

 幌が破れ、骨組みは歪み飛び散っていく。


「ちっ……まぁ、いいか」

「この高さで助かりはしないだろうよ」

「仮に生きてても、下は魔物の巣だろ?」

 崖から覗き込む傭兵達は、下まで追うのは諦めた。

 全員始末したと報告すれば済むことだ。

 馬を連れたアルと、依頼者へ報告へ戻る。

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