第167話 護る者達

 レーヴァテイン

 巨人スルトの妻シンモラが持つ、ロキが鍛えたといわれる武器です。

 巨人フョルスヴィーズルとの問答の中で、名称のみ出てくる謎の武器です。

 物語中で、巨人のセリフの中にだけ出て来る、不思議な武器です。

 何故かファンタジー作品では、そこそこ有名だったりします。

 作品によって剣だったり、槍や杖だったりします。

 しかし、元は種別も形状すら謎で、名前と武器である事だけしか分かりません。

「レーヴァテインという武器」としか記載がなかったりします。

 何故人気になったのか、不思議ですね。

 レヴァーテイン、レーヴァティン等のカナ表記もありますが、元は古代ノルド語なので、お好きな発音でどうぞ。

 この武器だけが、ヴィゾーヴニルを殺す事が出来る、とされています。

 シンモラにヴィゾーヴニルの尾羽を渡せば、この武器を譲って貰えるらしいです。

 エッダ詩『フョルスヴィーズルの言葉』より、豆知識でした。


「おおっ! マルコか……よく来てくれた。よくぞ……来てくれた」

 男がユニス邸に辿り着くと、領主自らが出迎えてくれた。

 面識のあるマルコに、抱きつかんばかりに駆け寄るユニス。

 感極まったのか、涙まで滲ませていた。

「お待たせしましたユニス卿」


「刺客はこの屋敷にも忍び込んで来てな……兵達は何処に待たせているのだ?」

「彼だけです」

 男とリトを見た、ユニスが固まってしまう。

 王国兵を引き連れて来るとばかり思っていたようだ。

「ひ、ひとり……なのか?」

「ご心配なく。侯爵が選んだ戦士です」

「あ、あぁ……そう……そうだな。精鋭という奴だな」

 侯爵が選んだのだからと、なんとか納得しようとするユニスだった。

「いつ襲われるか分かりません。すぐにでも出発したいのですが」

「お、おぉ、そうだな。おい、マチューを連れてきなさい」

 急かすマルコに応え、ユニスが家宰を迎えに行かせる。


 休む間もなく出発する事になり、屋敷の門前に幌馬車が用意される。

 両脇に長椅子が付けられ、向かい合って、計8人が乗れる大きな馬車だ。

 4頭の馬で引くので、歩くよりは大分速く進めそうだ。

「こちらでも護衛を雇った。ギルドで雇った腕利きだから、役にたつだろう」


 ユニスに6人の男を紹介される。

 リーダーの男がマルコに挨拶する。

 歳は30手前くらいに見える、長身の男性で使い込んだ革鎧を着ていた。

 軽装の戦士のようだ。

冒険者ベンチャーのメフディだ。よろしく」

「王国からの遣いマルコです。王都までの護衛、お願いします」


「そっちのマジェドとアドリアンも冒険者だ」

 メフディに紹介され、後ろの男二人が軽く手をあげ挨拶する。

 マジェドは鉄の鎧を着た戦士で、アドリアンは軽装で弓を持っていた。

「こっちの二人は王国の狩人ハンターで、シルバンとカンタンだ」

 紹介された二人が、頷くように軽く会釈する。

 カンタンは軽装の戦士で、鎖帷子を着たシルバンは短めの槍を持っていた。

「で、こいつはダビド。王国のギルドでは探索者シーカーになっている」

 小柄な男がニヤリと嗤う。

 探索者というよりは、盗人シーフの方が似合いそうな見た目だ。


 挨拶だけは済ませたマルコだが、それほど護衛に期待はしていなかった。

 邪魔にさえならなければ、どうでもよかった。

 男とリトは、さらに興味がなさそうだった。

 挨拶を交わすマルコ達を、見もせず馬車に乗っていた。

 一目見て、どうせ途中で死ぬか裏切るだろうと、名前すら覚える気もなかった。


「おぅ、結構天井高い。広い馬車だぁ。ん……ちょっとひっかかる」

 野太刀とザックを背負ったまま、リトは幌馬車に乗り込む。

 少し屈めば中で立つ事も出来るので、男の身長と変わらない刀も入れはする。

 座席に座ると少し幌に引っ掛かるので、リトは少し体を傾ける。


「ザックは降ろしてもいいぞ。刀は床に寝かせておけ」

 男に抱き着き、その胸に頭をうずめるように座るリトは首を振る。

「いつ襲われるか分からないから、リトがちゃんと持ってる」

「そうか? まぁ……いいか」


 馬車の中で移送依頼も忘れたように、リトが幸せそうにしていると、家宰に連れられた、お坊ちゃまマチューが外にやって来た。

「護衛も雇ったが、王都まで気を付けて行くのだぞ」

「はい、おじさま」

 見送るユニスの後ろに並ぶ、使用人達の顔は安堵に緩んでいた。

 マチューの予想外のセリフを聞くまでは。


「8人乗りかぁ。使用人は7人しか連れていけないな」

 屋敷の使用人で、馬車をめる気の坊ちゃまだった。

 貴族の用意した馬車なので、無駄に大きいだけだった。

 別に護衛や使用人を、乗せる為の8人乗りではない。

 王都までの長い道のりを、マチューの相手をさせられると思うと、使用人達は顔が引き攣り、変な汗が止まらなくなる。


「依頼はマチュー、一人の移送です。余計な面倒は御免ですよ」

 馬車の中から男が、早く乗せろと急かす。

「分かってます。すぐに出発しましょう。それではユニス殿」

「あ、あぁ……そうか? くれぐれも頼んだぞ」

 伯爵子息相手に、問答無用で急かす男。

 ユニスに雇われた戦士達は、男が何者なのか探るような眼で見るが、伯爵に逆らう気にもなれず、動けなくなっていた。


「さぁさぁ、さっさと乗って下さい。皆さんも、出発しますよ」

「なっ……ちょ、ちょっと待て。お前、離せぇ~……無礼だぞぉ」

 無理矢理、少年を馬車に押し込んだマルコが、出発を急かす。

「あ……あぁ。分かった」

 なんとか返事をするメフディが、仲間を内外に配置して乗り込む。


 ユニスが馭者に声を掛ける。

「頼むぞアル」

「お任せ下さい旦那様」

 ユニスに声を掛けられた馭者が馬車を走らせる。


 当然のように、安全な訳がない道中。

 何人が王都へ辿り着けるのだろうか。

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