第159話 傭兵王
「アンタら、あの悪魔とも戦ったんだろ?」
「ドラゴンも倒したって聞いたぞ」
カムラを囲み、カミュと一緒にいた男達も煽て始める。
「え~、いやぁ……それほどでもぉ」
褒められ慣れてないカムラは、すっかり舞い上がっていた。
「あぁ……あれはダメだねぇ」
「ドラゴンも悪魔も、倒したのは師匠でしょうに」
浮かれるカムラを見て、トムイとシアは諦めた。
カミュも連れの二人も引き締まった戦士の体をしていた。
何者なのか敵意も感じられず、単純に興味を持っただけのようだ。
「おいおい。お前ら何やったんだよ」
何も知らないダエイが小声でトムイとシアに声を掛ける。
「いやぁ、色々と巻き込まれたんだよ」
「全部、倒したのは別の人だけどね」
こそこそ話している内に、カムラが
カミュの
「なぁ、俺も一緒に行っていいかな。あの人の家、行ってみたいんだよ」
「いいけど、有名な人なの?」
一緒に行きたいというダエイに、トムイが誰なのか問いかける。
「あぁ、たぶんな。この国でカミュって言えば、一人だけ有名なのがいるんだよ」
「まぁ、いいんじゃないの? ついてきなさいよ」
久しぶりにあったのだからと、シアも許して4人でカミュの家に招待される。
「今は此処に住んでるんだ。まぁ入ってくれよ」
「……………」
カムラ達三人は入口で声も出せず建物を見上げる。
屋敷というよりは砦だった。
「やっぱり……」
ダエイだけは予期していたのか、小さく呟く。
「どうした? まぁちぃと無骨だけどよ、雨風は凌げるし、部屋も余ってんだよ」
カミュと連れの男達に、砦の中へ連れ込まれる4人。
誘われるまま奥の大広間に入る。
長いテーブルが並ぶ食堂のようだった。
大勢の戦士達がカミュに声を掛ける。
「お帰り大将」
「今度は何を拾ってきたんだい」
「早かったな、大将」
不揃いな鎧に、使い込まれた武器。
兵士というよりは、傭兵団のような男達。
荒くれ者達に大将と呼ばれるカミュという男。
「俺がこの国の団長、カミュだ。よろしくな。お前らぁ! 宴だぁ!」
「「うおぉおおおっ!」」
怒号のように男達が吠える。
すぐに山盛りの料理と、酒とエールが運ばれてくる。
圧倒されるカムラ達3人を囲んで、傭兵団の宴が始まる。
荒野の魔物と犯罪者を掃討して、この地をまとめ上げた傭兵団。
その頭領がカミュだった。
彼はカムラ達の噂を耳にしており、話を聞きたかったという。
酒が入り、浮かれたカムラが調子に乗って、冒険譚を語りだす。
旧共和国の滅亡と、陰謀に巻き込まれた話。
「あの時は何も出来なかったねぇ」
「リトさんは、凄かった……」
カムラの語りを聞きながら、トムイとシアも思い出しながら、チビチビと呑む。
大森林で巨人を呼び出すカルトを見つけた話。
「あいつらって、結局なんだったのかな?」
カルトの正体を気にしながら、魚の揚げ物をつまむシア。
「ドライアドって初めて見ちゃったねぇ」
廃坑で戦った狼の亜人。
「シアがやりすぎちゃった時だねぇ」
「怒られちゃったね……あ、このお酒おいしい」
グビグビとジンをあおるシア。
東の帝国で砦を守り、帝国兵と共に戦った。
「帝国の隊長さん、凄かったねぇ」
「カムラは、ずっと泣いてたっけ……あ、この揚げ物おいしい」
何かの鳥の唐揚げをつまみ、濁った酒を呑むシア。
失った家族を取り戻そうとした男の話。
「結局救えなかったね……」
「師匠はドラゴンを倒してたね……このお酒変わった匂いねぇ」
いつの間にかテキーラを、ラッパ呑みしているシア。
そして南の皇国での悪魔との戦闘。
「カムラは死にかけてたっけ……」
「リトさんの手当は凄かった……おにくぅ」
リトのものまねで、塊お肉に噛り付くシア。
査問会に飛び込んできた魔獣。
「アレもなんだったんだろうね」
「あの時の貴族って、平民になったらしいよ? ……エビだぁ」
「それ、エビじゃないよ。ハサミがあるでしょ」
トムイの言葉が聞こえているのか、いないのか。
結構酔ってきたのか、大きなロブスターに噛り付くシア。
カムラの話で盛り上がる宴。
そんな食堂から、こっそり抜け出す男が一人。
砦の中は碌に警備兵もいなかった。
宴を抜け出し、地下へ降りていくダエイ。
鉄の扉の前にしゃがみ、持っていた道具で素早く鍵を開ける。
手慣れた解錠と侵入は素人ではなかった。
「此処にアレがあるはずだ。アレを盗み出せれば……」
宴が盛り上がっている間に、砦の宝物庫に侵入するダエイ。
大きな紫の宝珠を宝の中で見つける。
「本当にあった……これがオーブ、これさえあれば……」
宝珠に手を伸ばすダエイ。
「それを売れば、一生遊んで暮らせるだろうなぁ」
ダエイの後ろから声が掛かる。
背中に冷たいものが走り、固まるダエイ。
「バレないと思ったか? ずっと怪しいと思ってたんだよ」
酒場でカミュと居た二人の男。
傭兵王の側近二人が、ダエイを監視していた。
ナイフを抜き、決死の覚悟で抵抗するダエイ。
だが、余裕をもってナイフを躱した側近の膝が、ダエイの腹に沈む。
「ぐっ……ふぁあ!」
倒れながらもナイフを振り回すダエイに、二人の剣が振り下ろされる。
左の脇腹を切り裂かれ、額から右の二の腕まで斬られても、怯まず駆け抜ける。
「ほぉ……やるじゃないか」
「まぁ、逃げられはしないがな」
血塗れになり、フラフラと走るダエイを、ゆっくりと追う二人。
静かな地下から、愉快な酒盛りが続く地上へ。
盗賊となった、カムラ達の幼馴染が、必死に逃走をはかる。
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