第158話 新王国

 レイネとエルザが目を覚ましてから、奴隷を傷つけた元貴族にお仕置きが始まる。

 奴隷を傷つけた事、男と敵対した事、生まれてきた事すら後悔するピエール。

 泣きながら殺して欲しいと懇願する姿を、奴隷達にゆっくり見せてやる男。


 王都の外れで、そんなパーティーが開かれていた頃。

 大陸の西の荒野に、3人の英雄と呼ばれた、冒険者が来ていた。

 王国貴族に仕掛けられた査問会も、なんとかやり過ごした3人。

 カムラ、トムイ、シアの3人が西の帝国があった荒野を行く。


 廃墟だらけで、僅かな避難民が暮らす荒野となった、旧西の帝国だったが、盗賊や犯罪者が逃げ込み、モンスターも増えてしまい、長く無法地帯となっていた。

 そこを、ある傭兵団が纏め上げた。

 盗賊団と変わりないような、ならず者集団ではあったが犯罪者達を纏め、国として大陸の他国に認めさせた傭兵が王となり、傭兵王国となった。

 皇国の悪魔騒ぎもあり、そんな大陸中を巻き込んだ騒ぎの中、国として認めさせた傭兵は、傭兵王や蛮族王と呼ばれていた。

 そんな西の新興王国へ、ギルドの仕事でカムラ達が向かっていた。

 彼らは城下町、王都へ入る。

 城といっても継ぎ接ぎだらけの無骨な砦のようなものだった。


「もっと荒れてると思ってたけど、襲われもしなかったな」

 拍子抜けだとカムラが強がる。

「聞いてたより、ずっと安定しているみたいだねぇ」

 傭兵王国に入ってから、モンスターにも破落戸ごろつきにも出会わなかったと、トムイも気が抜けたようだった。

「まだ仕事中なんだから、気を抜かないで」

 そういうシアも、何もなさ過ぎて気が抜けそうだった。


 本来はもっと低ランクの者が受ける依頼だった。

 ただ書類を届けるだけの、お使いクエスト。

 だが、犯罪者と魔物が集まっている、旧帝国が目的地とあり、カムラ達に話が回ってきていた。

 3人は新しく出来た国を見てみたいと、依頼を受けて来た。

「後はこの王都にいるカシュって人に渡すだけだろ」

「カミュさんだよ、カムラ。この先の酒場に居るって言ってたね」

 トムイが相手の名前くらい覚えろと、カムラに注意する。

 シアは街を歩く人々の様子が気になるようだ。

「でも、王都っていうわりには、ガラの悪いのしか見かけないよねぇ」

 王都のメインストリートを歩いている筈だが、スラム街でも歩いている気分になってくる程、街を行く人々が一人残らず、ゴロツキにしか見えなかった。

 数は少ないが若い女性もいるが、娼婦か殺し屋くらいしかいない気がする。

「こんな人ばかりを、よく纏めたねぇ。王様にも会ってみたいね」

 トムイは此処をまとめた傭兵に興味が出てきたようだ。


「カムラか? ……トムイ、シア。生きてたのか!」

 突然声を掛けられ、振り向く三人。

「ダエイ……ダエイか?」

「久しぶりだねぇ」

「アンタ孤児院を出てから何してたのよ。まったく、連絡もしないで。生きてたのか、はこっちのセリフよ」

 同じ孤児院で育った少年ダエイだった。

 ちょっと何を生業なりわいにしているか見当がつかない、汚れた旅人風の格好だ。

「ハハハッ、変わらねぇな。確かギルドに入ったんだっけか?」

「おう! 此処にもギルドの依頼で来たんだ」

 久しぶりに出会って、はしゃぐカムラが仕事だと話す。

「カミュって人に会うんだ」

 その名に覚えがあるのか、トムイの言葉にダエイが反応する。

「カミュ? お前らそれって……」

「それよりアンタは何してんの? どうせ碌でもない事してるんでしょ」

 そんなダエイの言葉を遮って、シアが𠮟りつけるように決めつける。

「おいおい。俺だって色々やってんだよ」

「まぁ、取り合えず飯でも食おうぜ。そこの酒場で、俺たちの仕事は終わりだから」

 カムラが久しぶりだからと、ダエイと肩を組み酒場へ向かう。

「はぁ……まったくアイツらは……」

 溜息を吐くシアと、彼女を宥めるトムイも酒場へ向かった。


「すんませ~ん。カミュって人いますかぁ?」

 まったく警戒もなく、カムラが酒場のカウンターでマスターに声を掛ける。

「……」

 無言でカムラ達を睨む、ハゲた細身の男。

 酒場のマスターというよりは、殺し屋か戦争屋にしか見えない。

 彼も傭兵団の一員だったのだろうか。

 そんなマスターが奥の席を、黙って顎で指す。

「あ、どうも……」

 奥のテーブル席で飲んでる一団へ向かう。

「かっこいい~。シブイおじさまだよね~。無口なおじさまっていいなぁ」

 無口なマスターは、シアの好みだったようだ。

 大人の色気を振り撒く、セクシーでダンディーなおっさんを見つめるシアを引き摺るように、トムイとカムラが引っ張っていく。


「お届け物でぇす。カミュさんにサビーさんからですぅ」

 おねぇちゃん達を侍らして呑む三人の男に、カムラが声を掛ける。

「ご苦労さん、俺がカミュだ」

 若いが鋭い眼つきの男がコブシを突き出す。

 カミュの出した手の指輪に、カムラが預かった指輪を合わせる。

 割符はピタリと合った。

「はい、確かに。これ書類です。受け取りにサイン下さい……はい、どうもです」

 書類を渡し、サインを貰って依頼完了だ。

「なぁ、あんたアレだろ? 英雄カムラじゃないか?」

「へ? いやぁ、そんな英雄だなんて……へへへ。まぁ、そう呼ばれたりもしなくもないけど……えへへ」

「笑ってんな」

 英雄と呼ばれ照れるカムラと、それを見て何かイラつき蹴りつけるシア。

「なぁ、英雄の冒険譚を聞かせて欲しいんだが、ちょっとだけうちに寄ってってくれねぇかな。美味いもん食わせるからよ。な? いいだろ」

「え~冒険譚ですかぁ? まぁ、仕事は終わったから、時間はあるけれどぉ」

 モジモジするカムラが、気持ち悪い。

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