第152話 救世主

「「ウォオオオオオオ!」」

 戦場を囲む各国の兵士達、連合軍から地響きのような歓声があがる。

「おいおいおい。これはやりすぎじゃあないか?」

 流石のカリム様も、手柄独り占めはやりすぎではないかと、尻込みし始める。

 しかし、もう遅い。連合軍を縦横無尽に暴れ回り蹂躙した魔獣に、とどめを刺したその姿を、各国の兵士達が目撃してしまった。


「ご愁傷様です」

 再び動けなくなった男が、半笑いでカリム様を見ていた。

 そんな男に二人の女性が歩み寄る。

「森を救って戴いた事、感謝しております」

「小さな命を救って貰った事、忘れませんよ」

「助かりましたよ。動けませんが……」


 荒野に伸びた世界樹が地中に消えていく。

「貴方には、また会える気がします」

 聖女ロレーナが世界樹の根に絡み取られ、地中に消える。

 あれも神の奇跡なのだろうか……

「余り人に干渉してはいけないのですが、今回だけは特別です」

 妖しく笑うドライアドも、地に吸い込まれるように消えた。

「まぁ、なんとかなったな。帰るかリト……動けないけどな」

「うぃ~」


「すっげぇ……倒しちゃったよ」

「師匠って、人間なのかなぁ」

 魔獣を切り倒すところを、しっかり見ていたトムイとカムラが、呆れた顔で男を見ていると、シアが二人を叩く。


「呆れてないで、師匠を運んでくれる人を呼んでこなきゃ」

「そうだった。王国の人かギルドの人なら、助けてくれるかな」

「まだ動けないよぉ。ちょっと待ってくれぇ」

 まだ倒れたまま動けないカムラを残し、トムイが助けを求めて駆け出した。

 Sランク勇者ミハイルの手配で、男は戦場から帰還する。

 各国の貴族、要人、兵士達に囲まれるカリム様を、生温かい目で眺めながら。


 体感する温度だと暖かい。

 気分的なものだと温かい。

 と、なります。

 ……が、ちょいちょいやらかしますので、見かけましたら、ご一報ください。

 出来損ないからの言い訳でした。


 戦後の皇国統治、というか分譲、分割支配もカリム様のおかげで、王国が有利に話を進められたようだ。

 まぁ、鉱山くらいしか旨味のない国ではあるが。

 都合よく皇族に、何故か生き残りがいなかったので、土地は王国と帝国で分割統治する事になり、法国と評議国には鉱石の一部が納められる事になりそうだった。

 寒い雪山よりも、鉱石だけ貰える評議国と法国の方が、お得だったりするかもしれない。避難民達も、安全が確認された村から順に戻って行った。

 帝国と王国軍の一部が残り、魔物や魔族の掃討が続いていたが、数日経ち落ち着くと、王国内ではまた面倒な騒ぎが起きていた。


 一部の貴族を連れ、勝手な進軍をした子爵が敵対する貴族たちに叩かれていた。

 そんな彼の起死回生の一手は査問会だった。

 いわく、命令通りに動かず、作戦を邪魔した者がいた。

 それさえなければ、悪魔を仕留め、無駄な犠牲を出さずに済んだのだ。

 ……と、無茶な理屈が、なんと通ってしまう。

 しかも査問をする側に、糾弾される筈の子爵が入っていた。

 査問に掛けられるのは、命令違反をしたとされる、ギルドの冒険者3人。

 カムラ、トムイ、シアの3人だった。


「いやぁ~まいったなぁ」

「貴族よりも師匠の言葉を優先したからねぇ」

「仕方ないんじゃないの?」

 少し怒られるくらいは仕方ないと、3人とも大人しく従っていた。

 査問会に召喚され、控えの間で待つ3人。

 会場は王都の断罪の塔。王城近くに建つ白い塔で行われる。


「査問会が開かれる。3人共ついてこい」

 衛兵が控えの間から3人を連れ出す。

 簡素な椅子が3脚あるだけの部屋に通される。

 蠟燭の灯りだけで、窓のない暗い部屋は広いが、何もない部屋だった。

 壁は高く、天井も暗くて見えない程高い。上階へ吹き抜けになっているようだ。

 壁際の上の階には、見下ろす様に貴族たちが座っていた。

 3人の座る椅子の正面と両側、3面に王国の貴族達が居並んでいた。

「これより査問を開始する」


 大人しく座るカムラ達に、貴族の視線が降り注ぐ。

「命令に従わず、我が策を台無しにして全軍を窮地においやった。その所為で被害は広がり、悪魔の討伐も遅れてしまった」

 上階の正面、5人並ぶ貴族の一人が憎々しげに、罵るように口にする。

 あの勝手をした子爵のようだ。


「個人的な手柄だけを求め、勝手な行動で味方の被害を広げた。その罪は重い」

 正面中央の貴族が、ゆっくりと告げる。

 上の階は暗く、その顔は判別できないが、どいつもこいつもブタのように太った、汚いおっさんなのだろうと、カムラは興味なさそうな顔で座っていた。

 3人共、面倒だとは思っていたが、どうでもいい事だと査問に興味はなかった。

 王国の腐った貴族を舐めていた。

「……よって、カムラ、トムイ、シアの3名は死罪。火あぶりとする」


「は?……はぇ?」

「うっそぉ……」

 予想外の罰にトムイとカムラは、抗議の言葉も出ずに固まってしまう。

「全部私たちの所為にして、殺してごまかそうって事ね。まぁ、そんな事だろうとは思ってたけど……本当にやるとはねぇ」

 シアは一人だけ落ち着いていた。

「刑の執行は本日行う。このまま刑場まで連行する」

 反論の機会すらなく、処刑される事に決まった3人だった。

 貴族に囲まれ、孤児院出の若者達に、抗うすべはなさそうだった。

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