第148話 魔神

「いいぞ、いいぞぉ。さぁ、ヒトの限界を超えてみせよ!」

 S級二人を相手にしても、悪魔は魔法も使わず、かりそめの肉体それだけで、素手だけで楽しそうに戦っていた。

 ヴィルムも参戦するが、押し切る事ができない。


「うむ、その礫……ちと邪魔くさいな」

 絶妙なタイミングで飛んで来る鉄球を嫌がる悪魔が、カリン目掛けて飛び掛かる。

 S級二人の攻撃を躱しもせず、まともに受けても怯みもしないまま、二人の間を擦り抜け、一息でカリンの目の前に迫る。


「ちっ、舐めるなよ!」

 スリングショットを手放したカリンは、素早く腰の剣を抜く。

 振り下ろされる悪魔の手刀をカリンの剣が迎え撃つ。

 振り上げられたカリンの剣は空を斬ったかのように、抵抗もないまま両断され、止まらない悪魔の手刀が振り下ろされる。

 鉄をも容易く切り裂く手刀が、カリンの顔に迫る。


「カムラ! トムイ!」

 叫びながら飛び込むシアが、カリンを脇から突き飛ばす。

 カリンに代わり、シアの背に悪魔の手が振り下ろされる。

 が……その手は大きな丸楯に払われた。


「ぬぁ……腕もげる。無茶しすぎだよシア」

「なんと……やるではないか小僧」

 泣き言を洩らしながらも、悪魔の攻撃を逸らしたカムラに悪魔も驚き、一瞬動きが止まったところへ、トムイの鋼糸が巻きつく。


「早くさがってぇ」

「もういっぱぁっつ……ぜろぉ!」

 シアが槍を突き出し、悪魔に爆裂魔法を叩き込む。

「逃げろって!」

 シアとカリンを抱え、カムラが駆け出す。


 まるで糸くずのように、鋼糸を引き千切る悪魔へ、ヴィルムの斧が振り下ろされ、ミハイルの斬撃が走り、ロベルトが前に廻り込む。

「ガキ共かと思ってたが、やるじゃないか」

「はは……もう限界です」

 壁のような楯を構え立ちはだかるロベルトに、カムラが泣き言を洩らす。

「もうちょっとなんだから、アンタも働きなさいよ」

 悪魔を包む魔力が減ってきていると、シアが急き立てる。


「悪魔は予想以上のようです」

「そうだな。数で攻めても無駄だな」

「加勢します」

 下級魔族を掃討した連合本隊が、荒野の悪魔を囲む。

 帝国将軍ヨシュアが副官を戦場へ投入した。


「帝国軍ロビンだ。参加させて貰う」

 両手剣ツヴァイハンダーを抜いたロビンが参戦する。

 悪魔の正面に立つロベルトが攻撃を捌き、両側からミハイルとロビンが斬りかかり、隙をみてヴィルム老が渾身の一撃を叩き込む。


「本当に削れてるのか?」

「結構減ってますよー!」

 魔力が視えないロベルトに、後ろからシアが叫ぶ。

 身に纏う魔力を削り切れば、ダメージを与えられるかもしれない。


 それだけを希望に、戦士達は武器を振る。

 それでも流石に一国を滅ぼした悪魔だ。

 ヒトが相手を出来る程度に手加減をしている筈だが、一流の戦士達でも決定打がなく、押し切る事が出来ずにいた。


「あの人は、まだなのですか?」

 動き回るトムイに、ミハイルがこっそり訊ねる。

「近くには居る筈なんです。てっきり先に来てると思ってたんですけど……」

「このままだと抑えきれないかもしれませんね。やはり、人が相手に出来るものでは無いのでしょうか。あれは神……と呼ばれる存在なのかもしれません」


 悪魔

 神に敵対する地獄の住人。

 人を堕落させ、その魂を穢れさせるといいます。

 神と悪魔、どちらが先だったのでしょうか。

 世界各地に古くから伝説、伝承が残り、姿もさまざまです。

 人間と契約を結び、力を貸したり、助けになってくれたりもします。

 神と違い、契約を重んじていて、ある意味信用できます。

 地方の神だったり、元は天使だったり、悪魔は神が作ったのかもしれません。

 一説によると、人間よりも数が多いといわれています。

 自分勝手な正義を押し付ける神よりは、マシな気もしなくもなかったりします。

 この世界では彼等の住む世界から、力ある存在を呼び出す術は失われています。

 強力な魔法が在った時代には、呼び出した悪魔を使役した者も居たそうです。


「あれ?……ごめん……ダメかも……」

「カムラ!」

 連戦の傷か体力か、限界を迎えた血塗れのカムラが膝をつく。

 駆け寄るシアとカリンが、カムラを横に寝かせる。


「ごめんよ……動けそうにないや……後は師匠に任せるよ」

「ちょっと黙ってなさい!」

 カムラの鎧を脱がせると、ぱっくりと開いた傷がいくつもみえる。

 胸と脇腹の傷が、特に深い。

「どうしよう……こんな傷……」


 泣きそうになるシアの脇から、叱るように声が掛かる。

「見てたら死ぬよ? さっさと服をいで、縫合するよ」

「へ? え……ぁ……」

 カムラの服を切り裂き、無理矢理剥がすと、消毒液をドバドバとかける。


「ひぎっ……くぁ……ひぃぃ!」

「うるさい。抑えて」

「は、はい!」

 沁みる痛みに暴れるカムラを、シアとカリンが抱きついて抑え付ける。


 そのまま開いた傷口を縫い付けていく。

「いっ、痛っ……ちょっ、無理、痛いっス!」

「男の子なんだから我慢」

「リ、リトさん!」

 いきなり現れカムラの手当を始めたリトに驚くシア。

「頑張りましたね、後は任せなさい。まぁ……やれるだけやってみますか」

 暢気にゴーレムを見ていた男が、やっと戦場に辿り着いた。

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