第147話 参戦

 戦斧の大振りな攻撃が悪魔を襲う。

 悪魔の手が、ヴィルムの顔へ伸びる。

 その手がヴィルムの顔へ届く前に弾かれる。

 振り下ろされた戦斧が、悪魔の肩に弾かれる。

「ほぉ……」

「くそっ……硬いな」

 双方に小さな驚きが、一瞬浮かぶ。

 ヴィルムの体が悪魔の前で、くるりと回る。

 悪魔の動きがまた邪魔され、戦斧が叩き込まれる。

 悪魔には傷もつかないが、悪魔の攻撃も阻まれる。

 副官の女性が付かず離れず、悪魔を牽制しながら吠える。

「好きには動けないぞ。それが副官の仕事だからな」

 悪魔の邪魔をするカリンの武器は、スリングショット。

 軍人が持つような武器でもないが、笑えない破壊力だったりはする。

 特別に作った鉄球を打ち出すパチンコだ。

 タイミングと角度が合えば、悪魔の手を弾き、動きを止められた。


「カムラ、トムイ。此処はこれまでよ」

 シアが二人に声を掛け、荒野の悪魔へ向かって駆け出す。

 子爵の部隊に群がる、魔族を相手にしていた二人も後に続く。

「いやぁ、凄いねぇ。師匠の言ってた通りだよ」

「思い通りになんてならない。なんて言ってたのにな」

 トムイとカムラが男の指示通りだと、感心しながら走っていく。

「気を引き締めてよ。次はいよいよ悪魔だからね」

 気が緩んできた二人を、シアが叱咤する。

 男が予想した通り、子爵の部隊に援軍が到着する。

 連合軍の本隊が遂に追いついた。

 ルイ子爵の立場は最悪になるが、巻き込まれた兵や冒険者達は助かった。

 帝国のヨシュア将軍指揮の下、低級魔族を連合軍が掃討していく。


 大陸中に名を知られた、帝国の名将だけに、見事に連合軍を統率していた。

 出し抜き、いがみ合う事しか出来ない各国が、手を取り合い戦う。

 共通の強大な敵を前にした時にだけ、人間は団結する事ができた。

 相手が変るだけで、結局争いは無くならないが。

 それが神に似せて創られた、人間のごうなのか。


 悪魔の居る荒野を連合軍が囲み、精鋭が悪魔に挑む。

 果たして悪魔は、老兵ヴィルムが抑えていた。

 重い戦斧を振り回し、悪魔と対等以上に戦っていた。

 悪魔が仮の姿で加減しているとはいえ、尋常でない老人だ。

「やっと来たか。遅いぞ若いの!」

「おそくなりましたぁ~」

 トムイが気の抜けた返事をしながら、対悪魔に参戦する。

「重い……鎧が、重いよ」

 血塗ちまみれのカムラも、息を切らしながら追いついてきた。

「あれが悪魔かぁ。凄い魔力ねぇ」

 老人の姿の悪魔を包む、強大な魔力をて、シアが呆れていた。

 悪魔を包む魔力を削り切らなければ、ダメージも与えられない。

「なんと……子供達だけか?」

 交替して後退するつもりだった、老兵ヴィルムが少し焦る。

「若くても、彼等はBランク。噂の英雄ですよ」

 副官のカリンが報告する。

「なんと……こんなに若かったのか。ならば、もうひと暴れするかな」

 大きく息を吸ったヴィルムが、悪魔に飛び掛かる。


「受け止める、フォートレススタンス!」

 殴りかかる悪魔の攻撃を、カムラが受け止める。

 彼の最近のマイブームで、何かを叫び、自分を鼓舞しているだけだった。

 特に要塞化できるような、魔法やスキルがある訳ではない。

「今です!」

 カリンの鉄球が放たれ、ヴィルムの戦斧が悪魔を弾き飛ばす。

「ぬぅ……まだ斬れぬか」

「まだまだ、止められるぞぉ!」

 無駄に叫びながら、カムラが最前衛で戦う。

 トムイも、カリンと共に牽制しつつ、ナイフで嫌がらせを続ける。

「おっきいの……いっくよぉ!」

 魔力を練り上げたシアが叫ぶ。

「何だ? 戦闘中に魔法だと?」

 シアの叫びをいぶかしむヴィルムに、カリンが叫ぶ。

「さがってください!」


 戦闘中に使える攻撃魔法は、殆ど伝わっていない。

 大抵は何日もの儀式が必要だったり、実用的なものではない。

 爆裂魔法を使ったという噂は流れていた。

 信用していなかったヴィルムだが、副官の指示で退く。

 悪魔の前から、全員が跳び退く。

 魔法反射の結界が悪魔を包み、中心で爆裂魔法が発動する。

 爆炎が広がり、結界で反射して中心へ向かう。

「あっ……」

 シアの、やらかした声がこぼれる。

「みんな逃げてぇ!」

 シアの表情に気付いたトムイが叫ぶ。

 制御に失敗して結界が、爆炎に耐えきれなかった。

 結界が決壊する。

 反射され増強された爆炎が漏れる。

 爆風が周囲を薙ぎ払う。


「おいおいおい。子供の魔法の威力じゃないぞ」

「流石、あの人の弟子達です。いやいや派手ですねぇ」

 壁のようなタワーシールドを構えた戦士が立っていた。

 逃げ遅れたヴィルムとカムラを、爆炎から護っていた。

 隙間なく包む鋼の全身鎧、スート・オブ・アーマー。

 何故か目の穴すらない、鋼の戦士がそこに居た。

「やっとS級の御到着か。もったいぶりおって」


 鎧の男はギルドのS級、法国の重戦車ロベルトだった。

 笑ってしまいそうな程、大きな楯とスレッジハンマーを持っていた。

 巨大なポールハンマーを、片手で振り上げ悪魔に殴りかかる。

 当然のように悪魔は無傷だったが、ギルドの最高戦力も参戦する。

 魔獣をも圧し潰すハンマーを、悪魔が受け止める。

「ふむ……ヒトにしては悪くない」

「余裕もそこまでだぜ」

 慌てもせず、ロベルトが飛び退く。

 光が、光芒が幾条いくすじはしる。

 離れて見ていたカムラにも見えない程の高速の斬撃。

 一息に飛び込み、瞬速の連撃を浴びせ、駆け抜ける。

 光速とまで言われる王国のS級、貴公子ミハイルだった。

 その甘さを抱えたまま、全てを凌駕する程の強さを手にした天才剣士だ。

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