第139話 旅の終り

 巨漢の重戦士アンドレ。

 敵の攻撃を受け止め、動きを止める役割だった。

 そんなアンドレが悪魔に殴られ、ぬいぐるみのように飛んでいく。

 楯ごと腕は折れ、潰れて脇腹に突き刺さっている。

 倒れたまま、立ち上がれない。

 追撃しようとする悪魔へ、モーリスが斬りかかる。

 倒れたアンドレに、イザベルが駆け寄る。

 雪に埋もれ倒れていたロシュが起き上がる。

「ぐぅ……くそぉ」


 フラフラと立ち上がるロシュの目の前で、モーリスが捕まった。

 モーリスの頭を鷲掴みにした悪魔の腕に力がこもる。

 ジタバタともがく、モーリスの頭が握り潰される。

 悪魔は、動かなくなった、剣士だったモノを放り捨てる。

「う、うわぁああああっ!」

 悲しみの叫びか、怒りの雄叫おたけびか。

 ロシュが、悪魔に突撃していく。

 危機になると、兄のアランが助けに来てくれた。

 彼等は知らないままだが、その兄はもういない。

 怒りにまかせて、ロシュが飛び掛かる。

 悪魔の右腕が、ロシュへ振り下ろされる。

 悪魔の一撃が、カウンター気味に決まる。

 オーラと魔力、光に包まれたロシュに、悪魔の右腕が刺さる。

 その悪魔の腕は、彼を止められない。

 触れただけで、腕は消し飛んだ。

 そのまま、ロシュは光弾となって、悪魔を貫く。

 強大な悪魔の体は、ロシュと共に光の中に消える。


「ぶふっ……くぁ……」

 倒れたアンドレに駆け寄る、イザベルの足が止まる。

 女戦士レジーナの剣が、背から胸を貫いていた。

 血を吐き、喉がゴボゴボと鳴るイザベル。

 剣を抜くと、音を立てて背から血が溢れる。

 叫び声もなく、イザベルは崩れ落ちた。

 倒れていたアンドレも、僧兵コレッジョがトドメを刺していた。

 少年達の旅は、あっさりと幕をおろす。

「相討ちまで行くとはね」

 軍人のヴィンセントは、子供達の頑張りに感心している。

「このレベルの悪魔が、徘徊しているとなると、面倒ですねぇ」

 マルコが悪魔の体の破片を調べていた。

 召喚された悪魔を追って、一行は南へ。

 法国との国境も近い山岳地帯へ入る。


 山の麓の小さな村。

 奇跡的に見逃された寒村を見つけた。

 雪の積もる寒い森の外れ、寂れた村、寒い寒村があった。

 広場には人々が集まっている。

 逃げ出す相談でもしているのだろうか。

「森の魔女のせいだ」

「あの魔女のせいに決まっている」

「追い出せ! 悪魔を呼ぶ魔女だ」

「火あぶりだ! 魔女は焼き殺すもんだ」

 村人達は殺気立って、かなり興奮しているようだ。


 崩壊した街の生き残りは、散り散りに逃げ惑う。

 山岳地帯にも、生き残りは逃げて来ていた。

 村に通りかかった者が、悪魔が出たと告げていった。

 村人達は魔女が、悪魔を呼び出したと信じて疑わない。

 脅威を排除しようと、興奮した村人達が集まっていた。

 ただの村人がどうにか出来るなら、脅威でもないだろうに。

 素朴で愚かな村人は、当たり前の正常な判断が出来ない。


 頭のおかしい集団は、手に手に松明や鎌、斧を持って森へ向かう。

「面白そうな処に出くわしましたねぇ」

 リトは興味なさそうだが、男は少し楽しそうだ。

 自分に向かわない衆愚は好きなようだ。

「少し見ていきますか?」

 マルコが皆に声を掛ける。

「魔女というのは気になりますね」

 折角だから、魔女の情報も欲しいと、ウーピーが興味を持つ。

 悪魔と関係ないと決まった訳でもないので、一応確認に行く。

 国が崩壊する中、くだらない事で時間と命を無駄にする人々。

 それを見物する国を代表する一行。


 森の中の粗末な小屋、それを囲む村人達。

 20人程の男達が、小屋を囲んで騒いでいる。

 小屋の中から黒いローブ姿の女性が出て来た。

 歳は20代後半くらいだろか、長い銀の髪の、背の高い細身の女性だ。

「出たな魔女め! お前が悪魔を呼んだんだな」

「そうだ、そうだ」

「火あぶりだ」

 騒ぐ男達を、煩わしそうに見渡す女性。

 何事かブツブツと呟きながら、近くの壺に手を入れる。

 中に詰まっていた枯葉を、数枚掴んで投げた。

 枯葉が舞い、一人の村人にまとわりつく。

「うぅ……ぐぅぅ……」

 枯葉をかけられた男は、急に苦しみ出す。


「魔女め、何をした!」

「おい、しっかりしろ」

 女が妖艶に微笑む。

「ふふ……正体を現す魔法よ」

 苦しんでいた男が、いきなり隣の村人に襲い掛かった。

「うわぁ!」

「ぐるるるぅ」

 犬の様に唸りながら、持っていた鎌を振り下ろす。

「うふふ、彼は紛れていた人狼よ」

 魔女の魔法で正体を現した人狼は、隣にいた村人に何度も鎌を振り下ろす。

 周りの男達も人狼に襲い掛かる。


「あれって……」

 離れた場所で見ていたマルコが、おかしさに気付く。

「精神系の魔法ですね。混乱させたようです」

 ウーピーが魔女の魔法を見抜いた。

「人狼だと思わせ、村人同士で殺し合いか」

 どっちもどっちだと、ヴィンセントも呆れていた。

 悪魔が暴れている時に、人間同士で何をしているのだろう?


「こんな所に居ていいの? 村にはもう一人、人狼がいるのよ?」

 魔女の言葉に村人達は、村へ駆け戻る。

 村では人狼探しの吊るし合いが始まるわけだ。

 誰が吊るされるか、一応見に行く事にした。

「ちょっと、あの魔女が気になるんで……」

 コレッジョは村より、魔女が気になるという。

 結局一行は村へ、コレッジョは魔女の元へ向かう。

 神に仕える者としては、魔女は見過ごせないのだろうか。

 まぁ、仲間でも部下でもない。

 好きにさせる事になった。

 悪魔に蹂躙され、滅びゆく皇国。

 そんな中、魔女裁判と人狼狩りで、殺し合う村人。

 面白がって見物する、各国の代表諜報員。

 人のごうはどこまでも……

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