第136話 不死の軍団

 動く鎧を相手に、力尽きたロシュ。

 死にはしないが、すぐには動けそうにない。

 そんな彼等を、街の人々が取り囲む。

「これって……ヤバくない?」

「アンドレ、ロシュを担いで走れるか?」

「あぁ、なんて事ない。しかし、逃がしてくれるかな?」

「くそぉ、こんな時に……」

 倒れていた人々が、次々と起き上がって来る。

 アンデッド。

 動く鎧の次は、動く死体の群れが相手だ。

 逃げるにしても、周りは囲まれてしまっている。

 動く死体の群れは、倒した敵を仲間にして、勝手に増えていく。

 野放しにも出来ないが、既に数が多すぎる。

 この街だけではなさそうで、既に数千人はいそうだ。


 ロシュ達がアンデッドに囲まれている頃、各国代表は隣街にいた。

 辺りに散らばる下級魔族の群れ。

 特別大きな個体は上級魔族だろうか。

 全て死んでいる。

 その中心には全身鎧を着た、戦士が一人倒れていた。

 崩れかけの竿状武器ポールウェポン戦斧バトルアックスだろうか。

 武器を握りしめたまま、息絶えていた。


「S級の狂戦士イゴール、斧の勇者です」

 死体を調べていたマルコが告げる。

 魔族の群れと相討ちになったようだ。

「国を破壊した悪魔、ってのがコレって事は……ないよな」

「これ以上の魔族が召喚されたと思って、間違いないと思います」

 ヴィンセントもマルコも、さらに強力な魔族がいると感じていた。

「また集まって来た。ここを離れよう」

 レジーナが声を掛ける。

 元皇国民がアンデッドとなり、呻きながら集まって来る。

「囲まれる前に離れましょう」

 コレッジョも周りを警戒しながら賛同する。

 流石の僧兵もこの数は浄化出来ないようだ。

 男達は調査隊であって、討伐部隊ではないので、さっさと移動する。


「くそっ! 囲まれたぞ」

「なんて数だよ」

「降ろしてくれ。僕が道を開く。皆、逃げるんだ」

 アンデッドの群れに囲まれ、逃げ出す事も出来ないロシュ達。

 アンドレに担がれたロシュが、道を切り開くと言い出す。

「バカ言ってんな。碌に動けないクセに」

「そうだよ。一人でどうにかなる数じゃないでしょ」

 モーリスもイザベルも反対するが、代わりの案がある訳でもない。

 そんな絶体絶命の一行へ笑い声が届く。

 頭の悪そうな笑い声が、上空から降ってくる。


「はーっはっはっはっ! 愛の流星を受けろ!」

 光の帯を引き、アンデッドの群れに笑う変態が突っ込んだ。

 数百のアンデッドが、枯れ葉の様に舞い上がる。

「アラン! 来てくれたのか……」

「なんで飛んで来るんだろう?」

 緊張の解けたアンドレがボソッと呟いた。

「待たせたなロシュ! さぁ、此処はお兄ちゃんに任せるんだ!」

 ロシュの兄、変態のアランが、全身タイツで笑っている。

「そうだな、任せようか」

 モーリスも、ロシュを担いだアンドレを急かす。

「あ、あの……助かりました」

 イザベルも一言かけて、仲間と走り出す。

「気にする事はないよ。ロシュのついでだからね。さぁ、行きなさい」

 アランは、笑いながらアンデッドの群れを蹴散らしていく。

 一人でアンデッドも悪魔も殲滅しそうな勢いだ。


「アンデッドの軍団なんて、面倒ですねぇ」

 皇女のいる筈の城を目指し、歩きながら男がマルコへ話しかける。

「出来れば帝国と法国の軍で、どうにかして欲しいところですが……」

 隣接する両国で抑えられれば、王国としては問題ない。

 問題は、奴らが増えるという特性だった。

 もしも抑えきれず突破された場合、帝国軍まで動く死者となる。

 早めに被害を出さずに、殲滅しなければならない。

 その為に、法国も見捨てる訳にはいかなかった。

 協力して立ち向かう。……なんて事が出来るのだろうか。


 城も崩れ、殆どの建物が崩壊した廃墟。

 かつての美しい雪国の城下は、無残な姿になっていた。

 悪魔達の姿は見えないが、生き残りも居そうにない。

 動く者はアンデッドだけの死の街だった。

 そんな街で調査団と狩人は出会う。

「冒険者か? 生き残りがいたのか」

 一目で帝国軍人と分かる、軍服のヴィンセントが声を掛ける。

「帝国兵?」

 モーリスが反応し、ロシュが答える。

「僕らは狩人ハンターです。この国の人々を助けに来ました」

 また、おかしな……頭のおかしいのが出て来た。

 男は面倒くさそうに、顔をしかめる。

「どこから入ったんだ? この国は立ち入り禁止の筈だぞ」

 ヴィンセントが警戒しながら尋問する。

「各国の代表の方々ですね? 皆で力を合わせれば、悪魔だって倒せますよ」

 何やら勝手に盛り上がっているようだ。

 男があきれたように声を掛ける。

「何か勘違いをしていませんか? 協力なんてのは味方とするものです」

「え? ……は? いや、だって」

 まったく理解していない少年に、優しい男が答えを与えてやる。

「彼等は仕方なく、同じ方向を向いた敵同士ですよ?」


 どの国にもない技術。

 国を崩壊させるほどの悪魔を召喚できる何か。

 それはどの国も欲しい。

 同時に他国へ渡せない情報だった。

 秘密を知り、国の為に動ける人間。

 国の為に命を捨てられる人間。

 絶対の信頼と、母国の命運を背負った代表達。

 互いを監視し、出し抜き、蹴落とすのが目的だった。

 表向きは皇国の調査ではあったが。


 街一つのアンデッドを一人で、ほぼ殲滅させたアラン。

「ふぅ……やっと、片付いたかな? 早くロシュを追わないとっ……ん?」

 背中に衝撃があり、胸から金属が突き出していた。

「おぉ……まいったな。死体だからか? 気配とかないんだな」

 いつの間にか背後に迫っていたアンデッドが一体。

 藁を掬うピッチフォーク。

 その4本爪が、油断したアランの胸を貫いていた。

 後ろへ振る最後のこぶし。

 右の裏拳がアンデッドの頭を吹き飛ばす。

「はは……参ったな……ここまでか……」

 崩れるように膝を着くアラン。

 頭を失くしたアンデッドが、ゆっくりと後ろに倒れていく。

 もうアランには、それも見えなかった。

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