第118話 共同依頼
新しい革の鎧が届いた。
ほぼ胸当てだが、ナイフや小物を仕舞うベルトが付いている。
軽く、動きやすくて、男も気に入ったようだった。
脇差も野太刀も、
そんな浮かれていた男の家に来客がある。
気配と臭いでエミールではない、と奴隷達は気付いたようだ。
猫のエルザが、棚の上で警戒する。
羊のレイネが客を出迎えに、玄関へ向かった。
何故か、少し背中が嬉しそうだった。
戻って来たレイネは、残念そうな、悲しげな顔で来客を告げる。
「エミール様の遣い、マルコ様です」
知らない人間なら、始末して食べても良い、とでも思ったようだ。
「エミール様が忙しく、今は手が離せないのです。屋敷まで御足労願えませんか」
「先日言っていた件ですね。厄介な事になっているようですねぇ」
支度をして、リトを連れた男はエミールの屋敷へ向かう。
案内された部屋には、ギルドの連中だろうか他にも数人の男女が居た。
「あ、シショー」
「師匠も来るなんて、厄介な事になってそうですね」
「リトさぁん。私達ランクがBに上がったんですよぉ」
カムラ、トムイ、シアが騒がしく寄って来る。
「おお、リトはC。抜かされた。頑張ったんだね」
目線を合わせてしゃがんだ、シアの頭をリトが撫でてやる。
「きゅぅ~!」
リトに褒められ、シアが変な声を上げて、悶えている。
「称号も貰ったぜ! 英雄だって」
「恥ずかしいよね」
カムラは浮かれているが、トムイは恥ずかしそうだ。
「久しぶりよのぉ」
腰辺りまである、長く青い髪の若い男が声を掛けて来る。
「じいさん。アンタまで来たのか。ドラゴンがいれば俺達は要らないだろ?」
男が嫌そうな顔で応対する。
「ドラゴンは来てないぞ。魔法だって、今は殆ど使えぬわ」
金龍の友人、Sランクの賢者ナイジェルだった。
しかし、銀龍相手に張り切り過ぎて、大きな魔法は打ち止めらしい。
「BとCランクかよ。邪魔にならないようにな」
「おいおい。子供達を
2人の冒険者風の男が居た。
「俺達はAランクのジャンとジャックだ。聞いた事はあるだろう?」
カムラ達も賢者も困った顔をしている。
可哀想だが、誰も知らないようだ。
悲しい事になる前に、エミールが部屋に入って来た。
「お待たせしました。早速、依頼の話をさせて貰います」
いつになく真剣な表情のエミールが、集まった人間に依頼を話し始めた。
「目標は召喚の停止。複数の門が開いているようです」
王国の貴族、レンブラント男爵の別邸から、悪魔が溢れているという。
その屋敷が、北の評議国と東の帝国との、国境近くなのが問題だった。
3国の国境近くに悪魔が溢れ出て、暴れているらしい。
評議国も帝国も、国境近くに兵を出している、危険な状況だった。
溢れているのは、アイナと呼ばれる魔族だった。
人が対抗できない程の大物ではないが、数が多いようだ。
さらに国境付近に、3国の軍隊が集まっているのは危険だった。
何かの間違いで争い始めてしまったら、そのまま戦争にもなりかねない。
男爵の屋敷に潜入して、門を閉じるのが任務となる。
「じいさんの魔法で、屋敷ごと壊せばいいじゃないか」
男が面倒くさそうに、賢者に丸投げしようとする。
「今は使えないと言ったろう? それに門を閉じなければ、収まらぬな」
「そういえばお主、面白い事になっとるな。その腕どうした?」
ナイジェルが、男の左腕を指さした。
「うで……? あぁ、隕石の破片が刺さってね。取れないんだ」
「ほぉ隕鉄か。それは魔法を妨害する金属でな」
男の近くでは、殆どの魔法が消滅してしまうらしい。
「えぇ、師匠の近くだと私、役立たずになっちゃう」
シアが悲しそうに、おどけている。
そんなシアを見て、気付いた男は賢者に聞いてみた。
「そういえば、じいさんは呪文やら触媒やら、色々やってたな。なんでだ?」
「何を言っとる? まだ人間だからだな」
シアは呪文も何も使わず爆裂呪文を使っていた。
「彼女が特別なのか? じいさんが
「バカな事を……彼女は魔族じゃないか。使えて当たり前だろう」
「「「えぇー!」」」
知らなかったようで、カムラ達3人が悲鳴のような声をあげる。
「悪魔だったのかぁ。すぐ暴力だもんなぁ」
「凄いね~アレ見たい。羽! バサァって飛んでくの見たい!」
カムラは納得して、トムイは瞳をキラキラさせている。
「そんなワケないでしょ。ちっちゃい頃擦りむいた時も、赤い血だったでしょう」
「え~、そうだっけぇ?」
シアの否定は、カムラもトムイも納得いかないようだ。
「ん~お嬢ちゃんはハーフ……いや、クォーターかな。じいさん辺りが魔族だろう」
「おお~! かっちょイイ~」
カムラもトムイも羨望の眼差しだ。
「悪魔を見たら殺し合いだと思ってました」
どちらが正しい反応なのか、男は不思議な気持ちで見ていた。
「そうだな。じゃあ見本を見せて貰おう」
Aランクの二人に、ナイジェルが声を掛ける。
弓を持ったのがジャック。魔法剣士がジャンというらしい。
二人共Aランクの
賞金のかかった魔物や犯罪者を、仕留めるのが仕事だった。
「最高ランクという事で、小僧共に魔法の見本を見せてやってくだされ」
ナイジェルに乗せられ、ジャンが反り返るように胸を張る。
「そうだな。人類最高峰の魔法を魅せてやろう」
「もう少し下がった方がいいな……うん。その辺りだな」
賢者が、こっそり男を下がらせる。
距離は5メートル弱か。
魔法妨害の範囲は、男の想像より広かった。
「はっはっは。そこまで下がらなくても大丈夫さ。ちゃんと制御するからな」
「よし。すげぇの見せてやれよ。ジャン」
相棒のジャックもノリは良さそうで、単純なコンビのようだ。
油を染み込ませた松明を手に持ち、ジャンは足元に大きな布を広げる。
布は魔法陣が描かれていた。
複雑な呪文を簡略化する為のものだった。
ギルドのAランク。魔法剣士の魔法の詠唱が始まる。
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