第106話 帝国兵到着

 帝国では、5~20人の小隊を中尉が率いています。

 小隊を集めた中隊は大尉が纏め、100~500人規模になります。

 中隊を集めた大隊は中佐か大佐が纏めます。

 大隊を集めた師団は師団長が率います。

 少佐は別の仕事があり、基本、軍を率いたりはしません。

 この国独自の仕組みで、他国とは違います。


 今回、小さな村一つの為に派遣された帝国兵は中隊。

 セルジュ大尉が率いる300名の中隊でした。

 亜人を圧倒して制圧できて、少しでも早く到着出来る人数となりました。

 こんなメリットもない、領主も見捨てた村に中隊を派遣してきた帝国。

 帝国の財政が心配になる、相変わらず気持ち悪い国ですね。


「掃討戦だ。一匹も逃すな!」

 セルジュ大尉の号令と共に、廃坑の入り口が音を立てて崩れる。

「あ……」

「あぁ……やりすぎちゃったね。シア」

「ああっ! あ、あの……ごめ、ごめんなさい!」

 直ぐ近くでの爆裂魔法の振動に、廃坑は耐えられなかったようだ。

 トムイとカムラは怒られると思い、素早くシアの後ろへ隠れる。

 流石のシアも、慌ててセルジュに謝る。


「気にする事ではないよ。古い坑道は崩れるものさ」

 優しく声を掛け、泣きそうなシアの頭をポンポンとたたく大尉。

 坑道の出入り口は複数あると、承知しているセルジュは慌てず部下に指示を出す。

「アントニオとケビンの小隊は南の入り口から、カイの隊は北から進め」

「「「はっ!」」」

「トーマスの隊は坑道の補強だ。古い廃坑だ、気を付けろ」

「はっ!」

「ナディヤ。救護班、いつでも動けるようにしておけ」

「はっ! いつでも行けます!」

 全員が機敏に行動する。

 気持ち悪いくらいに統率がとれていた。

「はぁ~……相変わらず帝国は凄いなぁ」

「隊長って、女の人もいるんだねぇ」

 カムラ達は呆けて、帝国兵を眺めていた。


 そこへ正規軍の到着と大きな爆音に、村人が数人、廃坑へ様子を見に来た。

「ディーピカー! ああっ! ディーピカー!」

 若い女性が駆けて来て、シアの抱く子供に飛びついた。

 母親だろうか、酷く取り乱し、泣き喚くように子供の名を呼ぶ。

「あ、あの……ケガとか、ありませんから……」

 子供を抱き抱えた女性は、そのまま村の方へ走り去った。

「え……あ……うん。混乱してそうだしね。うん」

 呆然とするシアに、なんとかトムイが声を掛ける。


 大きなクレーターと、崩れた廃坑を見た村人が騒ぎ始める。

「な、なんだ、この穴は!」

「おい! アンタ達、廃坑も崩れているじゃないか!」

「村まで被害が来たらどうするんだ」

「こんな穴があったら、危険な村だと思われて、嫁が来ないじゃないか!」

「なんて事をしてくれたんだ」

「兵隊さんを呼んだのに、余計な事を……」

 村から様子を見に来た男達は、口々に好き勝手な文句を言い出す。

 ほぼほぼ、言いがかりだ。

「え……あ……ごめん……なさい…」

「余計な事だったかぁ……」

「頑張ったけれど、やらかしちゃったねぇ。」

 上手く出来なかった3人は、しょんぼり項垂れる。

「やっぱり、まだ師匠みたいには出来ないなぁ」

 その男だと、もっと酷い事になってそうだが……。


 元共和国の村では、戦える者などほぼ居ない。

 助けを震えて待つしかなかった。

 これが帝国の村ならば、違っただろうが。

 帝国では、成人の儀式があった。

 地域により内容は変わるが、その試練を乗り越えると成人として扱われる。

 そして、成人になると軍役が待っていた。

 病気で寝たきりでもない限り、金持ちも貴族も、例外なく軍で生活する事になる。

 1年2年という区切りがない世界だが、約2年程、全員が軍で生活する。

 いざという時、国民1200万人全てが軍事行動を取れる。

 全員が直接戦う訳ではないにしろ、何かしら動けるように。

 それが皇帝レオンの目指す国だった。

 帝国の民ならば、少年少女に泣きつく事などないだろう。

 依頼する事はあったとしても、弱者を気取ってすがり付く事はない。


 淋しそうに立ち去ろうとする少年少女に、見かねたセルジュが声を掛ける。

「君達は良くやったよ。たった3人で、子供を守りながら大したもんだ」

「ありがとうございます」

「彼らは善意で村を守ってくれたのだろう? 立派に働いたじゃないか」

 セルジュに言われ、村人は目を伏せ、大人しくなる。

「ちょっと、やり過ぎたかも、です」

「うん。次は上手くやりますよ」

「散らかしっぱなしですが、仕事の途中なので、私達は失礼します」

 カムラ達は村人にも頭を下げて、砦へ向かって行った。


 3人は良かれと思い必死に戦ったが、結果受け入れられなかった。

 そんな頃。

「くそっ! 油断した。なんでこんな事に……」

 男は一人、泥まみれで逃げ回っていた。

 リトは一人走っていた。

 村へ……飛ぶ様に駆ける。

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