第97話 衆愚の始末

 油断させて近づこう、というつもりだろう。

 だが、その前に俺のマチェーテが頭を叩き割ってるさ。

 さぁ、もう一歩。

 ん? コイツ、いつの間に剣を抜いたんだ?

 いや、ずっと見ていたんだ。

 抜いてないぞ。

 少し腰を捻ったと思ったら、手から剣が生えた。

 コイツ魔法使いだったのか。

 距離をとるか? いや、魔法使いなら接近戦の方が……

 コイツ変な構えだな。

 まるで剣を斬り上げた後のような……


 ヒョードルが最後に見たのは男の残心だった。

 男が相手の反撃に備え、心を残す構えを解く。

 鉈を持ったヒョードルが、何をされたのか理解する事もなく倒れる。

 男が脇差の抜き打ちでヒョードルを倒す、と同時にリトも仕事を済ませる。

 傭兵崩れの中で、いくらか戦えそうな2人が倒れる。

 忍び寄ったリトのナイフで、動きを止めた2人に、男が素早くトドメを刺す。

「一人で戦えない者が群れた処で、脅威にはなりませんよ」

 戦う事を諦めていたアウリア達に、刀を振り血を払う男が告げる。

「腕がたつのは2~3人。先に殺せばザコは何も出来ない」

 いつの間にか群れから抜け出したリトが、アウリアの後ろで呟く。


「う、うわぁあああっ!」

「やべぇ。コイツやべぇぞ!」

「バカ、逃げろ。逃げろぉ!」

 剣に手をかけ迷う者が数名いるだけで、残りは背中を見せて逃げ出す。

 群れの上位3人を倒され、パニックを起こした残りは抵抗も出来ない。

 混乱したまま、たった一人の男から逃げ惑う。

 追い払う事を目的としていない男は、逃げる背を斬り、腰を斬り割る。

 倒した相手の武器を奪い、次々と仕留めていく。

「生かしておくつもりはない。面倒だから逃げるな」

 一人、男の追撃から逃れた賊が、いきなり倒れる。

「どうしてマスターの言う事がきけないの? ちゃんと死んで」

 リトが逃げる者達の足を切り、足止めをしていく。

 迷って逃げ遅れた者達に、奪った剣を突き刺し、男が仕留めていく。

「仕返しが恐い臆病者なので、生かしておく気はありません」

 男は落ちていたナタで、一人一人トドメを刺しておく。

 臆病な男は、生きたまま逃がして様子を見たりはしない。


「どうです? どうにもならない絶望でもないでしょう」

 呆然とするアウリア達に声を掛け、街に報告に戻る。

 行きは元気に、はしゃいでいた5人が、帰りは静まり返っていた。

 リアン以外は皆、負傷している。

 男は傷が痛むのだろう。と、そっとしておく事にした。


 ギルド前にはマルコが待ち構えていた。

「待ってましたよ。エミール様の大事です。助けて下さい」

 命を狙われ、外に出る事も出来ないという。

 その場からエミール邸へ連れて行かれる。

「何だったんだろう……」

 呆然と見送る5人。

 その後ギルドで、リトがC級だと聞いた。

 もうすぐC級昇格だと、騒いでいた5人だったが、大人しくなった。


「おお! よく来てくれました。助けて下さい」

 仕方なくエミールに会うと、抱きつかんばかりに駆け寄って来た。

「どうしたのです。狙われているとか」

「そうです。やり過ぎたかもしれません」

 邪教徒の本部を調べていたエミールだったが、法国の一部に睨まれてしまう。

 国の内部を探り過ぎて、暗殺者が送り込まれたという。

「送ったのが邪教徒なのか、どうなのか。はっきりしないのです」

 他国の上級貴族を暗殺しようというのだ。

 半端な暗殺者ではない筈だとエミールは言う。

「分かりました。暫く泊まりましょう」

「よかった……助かりました。あ、お疲れの処すみませんでした」

 男の返答に安堵して、深く椅子に座り込むエミール。

「安心するのは早すぎますよ。まだ相手も分からないのに」

「いえいえ、貴方が警護に就いてくれるなら、もう心配はありませんよ」

 余程緊張していたのだろう、反動で気が一気に緩んだようだ。


 メイドが紅茶を運んでくる。

 男はその紅茶を口に運んだ処で、違和感に気付いた。

「メイド? 何故此処に?」

 メイドは20世紀初め頃の、イギリスに居た筈。

 中世どころか12世紀相当の世界に何故いるのか。

「貴方の国の文化らしいですね。迷宮で聞いて真似しました」

「ああ……そういう……まぁ、元は別の国ですがね」

 日本のメイドが輸入されていた。

 男は刀の手入れを始め、リトは荷物を取りに家に戻る。

 エミールの手配で、バスタードソード一振りも届けられた。

 男とリトを連れ、エミールは郊外の別宅に移る。


 メイドはヨーロッパにはいません。

 何故か……

 maidは英語だからです。

 家事をする女中や使用人をメイドと言いますが、日本で一般にいわれるメイド。

 黒と白のメイド服を着た使用人は、かなり最近のイギリスに居たらしいです。

 ついでに、ファンタジーの舞台として一般的な、中世ヨーロッパですが。

 ヨーロッパにショートソードという武器は存在しません。

 ロングソードも理由は同じで、英語圏ではないからですね。

 どこから来たのでしょうか。

 誰からなのかは分かりませんが、アメリカから日本に来た言葉のようです。

 剣の時代のアメリカ大陸は英語ではありません。

 現代の誰かが、ソードを長いのと短いので分けたのが、日本で広まったようです。

 イギリスからの可能性もありますが、見つけられませんでした。

 どの時代の国に存在した武器なのか、御存知の方はお知らせ下さい。

 現在では一般に広まった、過去の記録を探して調べるのは楽しいですよね。

 勘違いで間違って広まったり、存在しない物や動物が伝わったり。

 昔のセイウチは火を吐く怪獣だったそうです。

 今は火を吐かない、海獣ですね。

 古い記録は楽しいです。と、いうお話でした。


「誘っているのか……」

「しかし、本人が居るのは確かです。エサが本物なら問題ないかと」

「そうだな。護衛を信頼しているのか」

「あの男が護衛に就いているのでしょう」

「奴も始末した方がいいだろう。丁度いいかも知れん」

 エミールの居る屋敷に2人の男が忍び込む。

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