第96話 不条理

 リヤドが槍を掲げ叫ぶ

「俺達は強い!」

「「「おう!」」」

 ハニスが剣を抜いて叫ぶ

「俺達は勝てる!」

「「「おう!」」」

 メディが槍を構えて叫ぶ

「俺達は死なない!」

「「「おう!」」」


 アウリアが駆け出し叫ぶ

吶喊とっかん!」

「「「おおっ!」」」

 剣を抜いた4人が、敵へ突撃する。

 リアンは後ろから、投げナイフで牽制していた。

 左右どちらの手でも、器用に投げている。

「ははは……凄い戦い方ですね。よく今まで生き残ってましたねぇ」

 男は後ろで、自分の事は棚にあげ、呆れて観ていた。


 そんな危ない戦い方でも、なんとか小鬼達を撃退していく。

 戦闘の度に傷つき、血塗ちまみれになりながらも生き延びる。

 前衛4人が傷だらけで、死にそうになる頃、フロアを制圧した。

「下の階もこんなだったら、逃げ帰るしかなさそうですねぇ」

「たぶん下は、祭壇があるだけの筈ですから……」

 男の心配にリアンが楽観的に答える。

 5人共、帰りは何もないと思っているようだ。

 帰り道で戦闘になったら、全滅しそうだ。

 などと、不吉な事を考えながら、最下層とされる3階へ降りる。


 地下3階は予想通り祭壇があった。

 何か儀式を行う為の広間のようだ。

 控室のような小部屋が幾つかあるだけだった。

 特に金目の物は見当たらない。

 リアンが、ざっと祭壇を調べる。


「お待たせ。これを報告すれば依頼完了だね」

 そういうリアンの背後に人影が立つ。

「さがれ!」

 咄嗟にアウリアが、リアンを引き寄せ庇う。

「くらえぃ!」

 メディの槍が人影を貫く。


 薄くぼんやりと光る、白い人影がゆっくり手を伸ばす。

 慌ててメディが飛びさがる。

 斬ろうが突こうが、霊体はビクともしない。

「な、なんだよコレ」

「斬れないなんて、ズルいぞ!」

 どうやら霊体を攻撃する手段は持っていないようだ。


 男が静かに前に出る。

「物理無効なんて、理不尽ですねぇ」

 男は腰の短剣を抜く。

「ぎぃぃいひぃやぁあああっ!」

 うっすらと光る刃が霊を貫いた。

 魂を削られるような悲鳴を残して、霊体は消えてしまう。

「さぁ、ギルドに報告するまでが仕事ですよ。帰りましょうか」

 男はボロ布で短剣にぬぐいをかけて腰に戻す。

 血も何も付いていないが、気分的に何か嫌だった。


 特攻5人は今更、この男は何者なのだろう、と考えていた。

 剣も槍も効かない相手を、短剣一突きで仕留めた。

 小鬼との戦闘に参加しなかったが、今思うと何か余裕が感じられた。

 研修か何かだと思っていたが、違うのではないか。

「俺達をC級に上げる試験官とかじゃないか?」

「でも、そんなの聞いた事ないよ?」

 出口に向かう間、男の正体についてコソコソと話し続けていた。

 そんな彼等を楽しそうに見守りながら、何も言わずに男は後ろをついて行く。


 遺跡の出口では衛兵達が横になって待っていた。

「よぉ、待ってたぜぇ。お宝は置いていきな」

「ヒョードル! こんな時に……」

 衛兵を無残に惨殺した賊が、待ち構えていた。

 そのかしらっぽい男に、アウリアが反応して叫ぶ。


「お知り合いで?」

「元皇国の傭兵でヒョードルだ。不味いぞ」

「宝なんてないのに、どうする? 皆殺しにされるぞ」

 男の問いにアウリアが答えるが、ハニスも知っているようで、慌てている。

「向こうは大勢いるぞ。こっちは傷だらけだし、逃げきれないぞ」

 メディも逃げる事しか考えていないようだ。


 外にはヒョードルを入れて17人もいた。

「くそっ! なんでこんな時に……」

 舌打ちをするアウリアに男が声をかける。

「こんな時だからこそでしょう。理不尽ですねぇ」

 男は何か楽しそうだ。


「ヒョードル! 中はただの墓だ。宝なんてないぞ!」

 アウリアが叫ぶが、ヒョードルは笑って答える。

「墓だって掘り起こしゃあ、金目の物もあるだろうよ」

「俺達は何も持ってない。自分で勝手に探せよ」

「それが面倒だから待ってたんだろう。お宝を渡さなければ、そこから出さねぇぞ」

 中で何か金目の物を探してくるしかなさそうだ。


「この様式の墓じゃ、金目の物なんて埋まってないよ」

 リアンが金持ちの墓ではないと、否定する。

「どうする?」

「どうしよう」

 話は纏まりそうになかった。

 楽しそうに見ていた男も、飽きて来たようだ。


「理不尽、不条理こそが人生ですよ。もう少し楽しまないといけませんね」

「は? ……はぁ?」

 アウリア達を残して、男が遺跡から出て行く。

 ゆっくりとヒョードルに向かって歩き出す。

 衛兵を殺し、大勢で囲み、もう戦意はないと思い込んでいた。

 傭兵くずれ達は余裕を見せ、油断しきっていた。


「ん? 見ねぇ顔だなぁ。新顔の仲間かぁ?」

「では知らないどうしですねぇ。よろしくどうぞ」

 一人、歩いて来る男をどう思ったのか。

 警戒もせず、すぐ近くまで近寄らせてしまう。

「一人でなんのつもりだい?」

「いえ、ご挨拶を……はじめまして。そして、さようなら」

 男は難なく間合いに入り込む。


 次回! 強盗団頭目『傭兵ヒョードル』VS『名もなき男』

 手強い傭兵達に囲まれる男とリトは、無事に逃れる事が出来るのか!

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