第95話 地下墳墓

 馬車に揺られ話していると、気の良い若者達だった。

 冒険者よりもパン屋でもやってた方が似合いそうだ。

 人が良すぎて、すぐ死にそうな若者達だった。

 リトが奴隷紋を見せつけたりしてる内に、馬車の目的地に到着する。


 村迄小銀貨4枚(約2万円)の乗り合い馬車で移動した。

 男達7人の他に一般客が5人、屋根の上まで乗って12人いた。

 小銀貨4枚を頭割りで、ひとり大銅貨3枚払う。

 もしも客が11人だったとしても、ひとり大銅貨3枚になる。

 11人が銅貨3枚を払い、1人が無賃乗車しても大丈夫かもしれない。

「なんか不思議だなぁ」


 今回は観てるだけで良い所為か、男の頭も緩んでいるようだ。

 余りにも目立ち過ぎるので、今回野太刀は置いて来た。

 いつもの大きなザックもやめて、リトも小さなバックパックだけだった。

「背中がスースーする……」

 リトは背中が軽すぎて、落ち着かないようだ。


 村に一軒だけあった食堂で、一休みして遺跡に向かう。

 食事は、殆ど具のない薄いスープと、硬い黒パンに薄いハム2枚だった。

 大銅貨2枚もする高級品だった。

 貴重な食料なのか、ぼったくりなのか。

 はしゃいでいた若者達も、悲しそうにうつむいている。

 諦めて村を出た一行は、発見された遺跡に向かう。


 遺跡は国の機関が調査するまで、立ち入り禁止になっている。

 お偉い学者様が調べる前の、危険度の調査が冒険者の仕事だ。

 死んで全滅しても危険だと分かるので、依頼は成功になる。

 お得な仕事だ。

 金目の物を、こっそり持ち帰るチャンスもある。

 お得な仕事だ。

 何故か人気にんきが無く、志願者が少ない種類の仕事だった。

 命懸けが当然の冒険者でも、危険度が不明な場所へ行くバカは少なかった。

 ある程度の知識が必要な、探索者シーカーとなると、さらに少なかった。


 入口には王国の兵が、暇そうに立っていた。

「ご苦労さん。調査にきたよ」

 アウリアが挨拶しながら、ギルド発行の書類を渡す。

「ギルドの事前調査だな。さっさと済ませて貰って、俺達も帰りたいよ」

「なるべく早く済ませるよ。後は学者さん次第だね」

 こんな何もない場所に、何日も立っているだけなのも辛そうだ。


 入口は下に降りる階段があるだけだった。

 完全に地下遺跡のようだ。

 リアン以外の4人が、松明に火を点け降りていく。

 リアンは両手を空ける為か、ランタンを腰に吊るして降りる。

 本当に4人前衛のようだ。

 一人くらい背後を警戒するかと思ったが、後ろは気にしないタイプらしい。

「地下かぁ。久しぶりですねぇ」

 松明を手に男も降りていく。

 最後尾にランタンを腰にして、松明を持ったリトが降りる。


 地下一階は結構広く、通路があちこち繋がっていた。

 何か古代文字が刻まれた石があるだけで、何もない通路が張り巡らせてある。

「地下墳墓だね」

 一回りして、リアンが口にする。

「古代人の墓って事か?」

「うん、このタイプだと3階位までかな? 最下層に祭壇があると思うよ」

「じゃあそれを調べて帰るか。何もいなさそうだしな」

「そうだね。ただの墓だから罠もなさそうだし」

 どうやら今回はのんびりと、地下墓地観光で終わりそうだ。


 男は基本口出しせず、大人しく後ろをついていく気でいる。

 だったのだが、地下2階へ降りた処で駆け出した。

 先頭を行くアウリアの尻を蹴り飛ばした。

「オウッ! ぐぇ……っ!」

 倒れたアウリアが立っていた空間に、何かが飛んで壁に突き刺さる。


「……クォレル?」

 石のクォレル(いしゆみの矢)だ。

 足元に細いワイヤーが張ってあり、ボウガンが仕掛けてあった。

 何かが住み着いたのか、新しい罠が仕掛けてあった。

「なんで気付いたんですか? 何も見えなかったのに」

 リアンが男に訊ねる。

「経験というか……まぁ、勘です。この階には何かいますね」


 地下2階も上と変わらない造りだった。

 通路が複雑に繋がっているので、背後からも急襲を受けるかも知れない。

 罠も警戒しながら、一気に緊張感が増した。

 一行の後ろに回り込んだ何かが、声も出せずに倒れる。


「マスター、捕まえた。小鬼が2体」

 後ろに回った相手の、さらに後ろに回り込み、音もなく仕留めていた。

 リトのナイフで動けなくなっている2体に、男がトドメを刺す。

 肌の色が少し変な気もするが、殆ど人間と変わらないので亜人のようだ。

 スキンヘッドで、額に小さなつのの様な突起がある。


「キラか……面倒だな」

「キラ? そういう亜人ですか?」

 亜人を見て渋い顔をするリアンに、男が訊ねる。

「古い言葉で、ホントはもっと長いんだけどね。キラって呼ばれてるよ」

 横からアウリアが口を挟む。

「キラコスミニ。長くはないだろう」

 と、ハニス。


うごめく者共。地下に住む亜人だね。獣人は小鬼って呼ぶかな」

「道具を使うし、数も多い。面倒な相手だ」

 メディとリヤドも簡単に教えてくれる。

 一気に面倒になった。

 男は遺跡ごと火を点ける、くらいしか思いつかない。


 一度地上に戻った一行は、簡単な柵を大量に作り始めた。

 思いつく中で、一番面倒な方法をとるようだ。

 地上の衛兵も柵作りに手を貸してくれる。

 通路を少しずつ封鎖していき、小鬼を排除していく事になった。

 男は入口にふたをして、生木を燃やしていぶすか、川から水を引いて沈めるか、くらいしか思いつかなかった。

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