第86話 防衛戦
守るべきではない者、護るべき価値のない者達。
金で雇われ、金の為だけに働き、そんな奴らを護った事もあった。
男は傭兵気分で気持ちを切り替える。
拠点を護る事、敵を殺す事だけを考える。
木がほぼ無いので、僅かに用意できた槍を
あちこちに嫌がらせで、穴も掘りまくった。
丈夫そうな家と簡単な柵で、騎馬の動きを制限する。
……つもりだったが、敵は鳥に乗って来た。
だが、馬用の準備は効果が出ている。
やって来たのは約40人。
後は3人で40人を食い止めるだけだ。
屋根からの矢が盗賊を射抜いていく。
鳥から降りた盗賊達が、剣を抜き殺到する。
柵を乗り越えようとする賊を、男の剣が切り払う。
男は盗賊が死なないように、手足を切り裂いていく。
放って置けば死ぬ程度に深い傷だ。
盗賊とはいえ、生きている仲間を助けようとする者もいる。
とどめを刺さなければ、一人斬るだけで2~3人戦闘から減らせる。
スティーブとジェームズもよく敵を抑え、戦っている。
傭兵として生き残っているだけに、集団戦に慣れているようだ。
上からの弓も良い仕事をしている。
男が4人斬った処で、盗賊達が逃げ出した。
それほど戦意もなく、勢いで応戦したが仲間がやられると、我先に逃げ出した。
「「ワァー!」」
隠れて居た村人が出て来て、歓声をあげる。
オリビエも暢気に喜んでいる。
流石に傭兵達は、若いホルスト以外厳しい表情だ。
「まぁ、出来る事をしましょうか」
男が声を掛けると、口元を緩めたスティーブが応える。
「そうだな。何をするにも、人手を集めないとな」
痛い目にあった盗賊団がどうするか。
当然報復に来るだろう。
遊び半分だった今回とは違い、本気の襲撃に来るだろう。
迎え撃つ準備に、村人から協力者を募る。
村人を護る協力を村人に頼む、というおかしな事になっていた。
数人の若者が協力してくれた。
盗賊の残した鳥で、一人を伯爵領へ走らせる。
現状を報告して、援軍を急かす為だ。
残りで柵を作り、穴を掘る。
隠れる事が出来る程深くなく、気にならない程浅くもなく歩きにくい。
そんな嫌がらせの浅い穴を幾つも掘る。
侵攻を少しでも遅らせ、弓の狙撃機会を増やす為の穴だ。
何人かは
「片側に集中するしかないな」
スティーブが渋い顔をしている。
「まぁ仕方ないでしょう。どうせ包囲されたら、どうしようもありません」
こんな場所での防衛自体、無理があると男が
「しかし、木やコンクリートの家もあるぜ。レンガもだ」
休憩中のチャールズが呆れて口にした。
「どこから調達したんだろうな。村に壁だけでも欲しい処だが」
ろくに木も生えていないので、拾って来たような家具を壊して柵にしていた。
盗賊達は思っていたよりも迅速だった。
逃げ帰ったその夜。
早くも報復に出て来た。
砦の全軍だろうか、昼間の4倍はいそうだ。
鳥に跨っている何人かは、幹部だろうか。
男の産まれた国では鳥目という言葉があった。
夜は殆どの鳥が寝ているだけで、別に暗くても目は見える。
人よりも良く見える目の鳥は多い。
夜行性の鳥もいる程夜目はきく。
あのダチョウのような鳥も、暗闇でも昼間の様に走っている。
7人対160人。
何人生き残れるかは、伯爵の援軍にかかっている。
「これは無理だな。まぁ、傭兵なんてそんなものか」
諦めたスティーブが剣を抜く。
「やはり何処でも傭兵ってのは、使い捨てみたいですねぇ」
溜息まじりに男も剣を抜く。
「村人は何人生き残れるかな」
顔のデカイおっさん、ジェームズも剣を引き抜く。
男には2人が、マックイーンとコバーンに見えてきた。
そう思って見ると、似ていなくもない……かもしれない。
「ははっ、豪華だな」
盗賊団は策も何もなく突っ込んでいく。
村人は戦えないと分かっている。
数人の傭兵しか居ないと、分かっているのだから当然だった。
暗くなってからの襲撃は、嫌がらせの穴の効果を引き上げてくれた。
鳥も人も穴に躓き、あちこちで転がっていた。
屋根からの弓攻撃が盗賊を射抜いていく。
狙わなくても当たる程、盗賊がかたまっていた。
確実に矢で仕留めているが、減っている気がしない。
柵を越えて来る盗賊を、3人が暗闇で切り伏せていく。
防衛の出だしは順調だった。
暗闇も、人数の少ない守備側に有利だった。
傭兵達にすれば、動く者は殆ど敵なのだから。
逆に盗賊は暗い中、同士討ちを気にしなければならない。
どうしても攻撃が一瞬遅れることになる。
盗賊の数が半分ならば、どうにかなったかもしれない。
盗賊達が反対側へ回り始めた。
防壁どころか、碌に柵もない難民キャンプだ。
包囲した盗賊が一気に全方位から雪崩れ込む。
「だろうね。そりゃそうするだろうさ」
目の前の盗賊を斬り倒したスティーブが、一瞬後ろを振り向く。
分かってはいたが、対策はしていない。
家と物陰を使ってのゲリラ戦しかない。
古い
大きな厚手の布を家の壁に使ってあった。
そこを通りかかる人影に、中から槍が突き出される。
「ぐぁっ……くぅぅ」
短く呻いた盗賊は、胸を貫いた槍を引き抜かれると、静かに倒れる。
中ではホルストが震えていた。
初めての感覚に腕が、脚が震える。
「や、やった。殺した……殺した」
膝をついたホルストは小さく呟き続けていた。
村の中央でジェームズが盗賊を切り伏せる。
「んぐっ! てっ、てめぇ、痛ぇじゃねぇか」
後ろから飛び掛かった盗賊のナイフが、腰に刺さっていた。
深く刺さったナイフを抜き、盗賊が離れる。
「うぐっ……くそったれ……」
膝をつくジェームズを囲んだ盗賊達が、次々と剣を振り下ろす。
何本もの刃が体を貫き、斬り刻んでいく。
ビクビクと痙攣して、倒れて動かなくなった体を斬り刻む。
ジェームズだった残骸を残し、次の獲物を探して盗賊が散っていく。
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