第85話 荒野の……

 帰りは何もなさそうで、馬車は荒野を走る。

 のんびりしていた帰りの馬車が、冒険者風の一団に囲まれる。

「我々は辺境伯の傭兵だ。荒野の巡回をしている」

「それはご苦労様で。我々は商会のものですよ」

 アルブレヒトが慣れた感じで挨拶する。

 すばやく、そっと銀貨を握らせている。

 役人や荒くれ者との交渉は慣れているのだろう。

「盗賊団がいてな。この先には進まない方がいいぞ」

 西の旧帝国領は滅亡後、手付かずのまま放置されていた。

 モンスターが蔓延らない様に、辺境伯の兵が巡回していた。

 王国内から犯罪者も逃げてくるようになってきた。

 そんな荒野に盗賊団が砦を造ってしまったという。

「応援を呼んでいるので、数日待っていた方がいいな」

 傭兵6人しかいないので、辺境伯に援軍を頼んだという。

「今奴らは、仲間をられて気が立っているしな」

 先日、砦から出た一人を追っていたらしい。

 その盗賊がボウガンで撃たれたそうだ。

 ダチョウのような鳥に乗って逃げていて、何者かに狙撃されたそうだ。

「へぇ~……」

 何か見た覚えのある馭者だったが、黙っていた。

「その腹癒せに奴ら、村を襲おうとしているらしいのだ」

 砦内に侵入している密偵がいるらしい。

 もっと北へ向かい迂回する手もあるが、北が安全だとは限らない。

「人の住む村があるんですか?」

「ああ。村とはいっても、難民キャンプみたいなものさ」

 僅かな帝国の生き残りや、王国からの流れ者が勝手に住み着いているらしい。

 テントの様な家を建て、寄り添って暮らしているらしい。

 辺境伯の兵が来れば、砦を攻めるそうだ。


「仕方ありませんね。援軍とやらが来るまで待ちますか」

 男は2~3日のんびり待つ心算でいた。

「彼等だけでは難民を護り切れないんじゃないか?」

 またオリビエが余計な事を言い出した。

「助けようと思ったりしていませんか? 無理ですよ?」

「そんな事ないさ。よし、援軍が来るまでその村で待とう」

 オリビエが難民キャンプで、過ごすと言い出した。

 そうされると、護らない訳にもいかなくなるが。

「いやいやいや。そんなテントしかない荒野で守り切れませんよ」

 丘すらない平らな荒野では、防衛もできない。

 しかし現地を見に行くと、立派に家が建っていた。

 粗末な物ではあるが、2階建ての家も建っている。

「いつの間に……」

 案内してきた傭兵も驚いていた。


「動けない者や年寄りもいます。どうにかなりませんか」

 村の代表に会い、盗賊からの避難を勧める。

「どうせ普通の街では暮らせない、ろくでもない連中ですよ?」

 男の言う通り村は、町には居られない理由のある流れ者の集まりだった。

 護ってやるような者達ではないと、言ってきかせるが。

 傭兵もオリビエに買収され、馬車も此処に留まるという。

「こんな奴らの為に、金と命を使わなくても……」

 乗り気でない男も、仕方なく村の防衛に参加する事になってしまう。

 柵を作り、槍と弓を用意するが、村人達は戦えないと言い出す。

「ほら。見捨てた方がいいですよ?」

「戦えない者は仕方がないだろう」

 それでもオリビエは護る気でいるようだ。


「護衛だってな。俺はスティーブ、よろしくな」

 傭兵のリーダーが、男に挨拶に来た。

「よろしくどうぞ。何人生き残れますかね」

「ははっ。まぁ、所詮傭兵だしな。そうだ、ついでに仲間を紹介しとくよ」

 傭兵達が集まって来る。

「奴はチャールズだ。長く組んでる男で、弓の腕は一流だ」

「よろしくな。剣は苦手だが、弓は任せてくれ」

 ちょび髭のおっさんが、ニヤリと笑う。

「アイツは北の連邦から来たイーライだ」

「今は評議国だよ。イーライだ。投げナイフが得意だな」

 一人だけ顔立ちが違う男がナイフを片手に挨拶する。

「そっちの黒い帽子がロバートだ」

「よろしくな。戦力としては期待しないでくれよ」

 詐欺師っぽい顔の男で、戦闘が始まったら逃げそうな奴だ。

「そっちはジェームズ」

「どっちかが死ぬまでだが、よろしくな」

 デカイ顔がテカテカした、脂ぎったおっさんが片手を上げて挨拶する。

「あっちの若いのはホルストだ」

 少年にも見える程若く、綺麗な顔の男がチラリと顔を向ける。

 経験はなさそうで、硬く緊張している若者だった。

 そんな6人と、流れ者の村を護る事になってしまった。

「俺はユル・ブリンナーか?」


「砦から出て来るのは、恐らく2~3小隊になりそうだ」

 出て来る賊は50人前後のようだ。

 もう少し減らして貰えないものだろうか。

 その夜、スティーブが密偵からの連絡を受け皆に伝える。

「チャールズとロバートは屋根の上へ。イーライと坊主は家の中からだ」

「ホルストだ。坊主じゃない」

「ああ、分かったよ小僧。残りは正面の柵で抑えるぞ」

 どうしようもない、仕方のない配置をスティーブから伝えられる。

「一度目の襲撃は明日の昼頃らしい。まぁ奴らの気分次第なんで分からんが」

 たったの七人で、何故か荒野の村を護る事になってしまった。

 さっさと逃げた方がよさそうだが、仕方なく男も参戦する事になってしまった。

 リトはいつも通り、事の善悪も、人の都合も関係なかった。

 全力でマスターのサポートをするだけだ。

 ただ邪魔にならない事だけを考える兎だった。

 夜が明け、ダチョウの様な鳥の群れが村へ駆けて来る。

 ドドドっと足音を響かせて、盗賊達が鳥に跨り攻めて来る。

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