第78話 元港町

 日頃の行いか、何事もなく3日目。

 何かあったような気もする一行だったが、ついに海が見えて来る。

 港町だった廃墟は片付けもされず、破壊されたまま放置されていた。

 街は破壊され、建物も潰され、千切れた人達が転がっている。

 そんな港町だが、大型の帆船でも泊められる状態で港は残っていた。

 その港には豪華な帆船が停泊している。

「これはまた見事な……でっかいガレオンだな」

 馬車も快適だったが、船も凄いものだった。

 ガレオンとしても、特別に大きい船なのではないだろうか。

 全長は50メートル近くあるだろうか。

 メインマストも60メートルくらいはありそうだ。

 何故かこの船だけ4~5百年先の技術で作られていた。


 何故かガレオンがあるが、12世紀程度の文明なので大砲は乗せていないようだ。

 迷宮の所為か、文明レベルがグチャグチャになっている。

 国で管理していなかったら、もっと酷い事になっているのだろう。

 光学兵器を搭載したロボット相手に、剣で立ち向かいたくはない。

 レーザービームを放つロボだとかが出てこない事を、男は祈っておいた。


 時代的にはおかしいが、船は見事なものだった。

 男も見惚みとれて声が出ないようだ。

「商会自慢の船です。キャラックと違い転覆したりもしませんよ」

 ロマンもお気に入りの船のようだ。

 キャラックで何かあったのだろうか。

「では私はここまでです。どうか大旦那様を、よろしくお願いします」

 馭者のアルブレヒトが、泣きそうな顔で男の手を握る。

 先代オリビエは部下に慕われているようだ。


 中世の終り、16世紀に帆船が多く造られ大航海時代が来ます。

 帆船は横帆おうはん縦帆じゅうはんがあります。

 マストの数と帆で種類が分かれます。

 縦帆1本マストだとヨット。

 横帆3本以上マストだとシップ。

 他にもパーグ、スクーナー、スループ、クナールなどに分かれています。

 有名な帆船だとコロンブス艦隊でしょうか。

 旗艦サンタマリアはキャラックでピンタとニナーはキャラベルです。

 ずんぐり丸くでっかいキャラックと探査探検用キャラベルです。

 初期のガレオンは安定性が良く、船速が速いのがウリです。

 長い衝角、ミズンマストのラティーン、張り出した四角い船尾楼。

 などがガレオンの特徴です。

 キャラックより安価に造れるのもメリットかもしれません。

 戦艦としても使えた所為で、だんだんと大きく重くなっていきます。

 デッキに大砲を数多く並べられる程、安定性が高いので商用にも使われます。


 ロマンとリトを連れ、豪華な商船に乗り込む。

「船長のベルントです。祖国の仇を討ってくれた事、感謝しています」

 船長は西の帝国の出身のようだった。

「今度は帝国の人ですか。多国籍な商会ですねぇ」

 何故かドラゴン退治の情報が漏れていた。

 これだけ大きな多国籍企業相手なら、情報を止めきれないだろうが。

 誰が漏らしたのか、突き止めた方がいいだろうか。

 男はそんな事を考えながら、船長に挨拶する。

「皇国までのんびりして下さい。クラーケンや海竜でも出なければ沈みませんよ」

 不穏な名前が聞こえた。

「出るんですか?」

 男が船長に確認する。

 出るなら降りて陸路を検討する気だった。

「見た事はありませんな。はっはっは、伝説の怪物ですから」

「残念でしたね。見たかったかもしれませんが、次回にして下さい」

 ベルントは実在するのかも怪しい、と笑って答える。

 ロマンも、今回は救助に集中して欲しいと、声を掛ける。

 男をなんだと思っているのだろうか。

 エミールの所為か、男が危険を好む変人とでも伝わっていそうだった。

「見たくはありませんよ。剣で戦える相手でもなさそうですし」

「はっはっは。長く乗ってますが、見た事はありませんよ」

 中年を過ぎていそうな船長が笑って船員の指示に向かう。


「ガレオンってのは、船員が死んで減っても、運行できるそうですね」

 男が突然、変な事を思い出す。

「こんな大きな船なのにですか。流石は最新鋭ですね」

 ロマンはなんの心配もなさそうだ。

「航海にでると船員は死んでいき、数が減るのが当たり前だという話です」

 少し不安になった男を乗せて、商会の帆船が出港する。

 陸の見える距離を行くので、遭難の心配もないという。

「フラグだらけかぁ。雪が降るような国で泳ぎたくないなぁ」

 男は船が沈むとでも思っているのだろうか。

「リト。海で泳げるか?」

「平気。ウサギだから」

 何がなのか分からないが、大丈夫なようだ。

 こっちの兎は海で泳げるのだろうか。

 まぁ、向こうの兎も泳げるのか知らないが。

 男は海を渡る真っ白な兎の群れを想像して、遠く外洋を眺めていた。


 クラーケン

 ドラゴン並に説明の必要がない程、有名なモンスターでしょう。

 ですが、比較的新しい怪物です。

 ギリシャ神話の映画に出て来るクラーケンは、名前だけのものです。

 別の魔物がマイナーだったので、名前だけ有名なものにしたそうです。

 クラーケンは1500年以上前からその存在は信じられていたようです。

 1755年に発表された「ノルウェー博物誌」で紹介されました。

 このデンマークのエリックさんの書いた本で世界に広まったようです。

 ノルウェー近海やアフリカに生息している、と言われていました。

 目撃事例が1800年代に集中しており、当時から人気があったようです。

 モンスターというより、UMAのようなものだったのかもしれません。

 関係ありませんが、UMAは日本の造語です。

 全長は数キロにもなり、島と間違えて上陸してしまったともいいます。

 イカやタコのような姿で描かれる事が多いようです。

 変った処だと、エビやクラゲにヒトデなどの姿もあるそうです。

 ダイオウイカがモデルだという噂もあります。

 ダイオウイカは20メートルを超える事もある、といわれる実在するイカです。

 頭から足が生えている頭足類ですね。

 イカは長い二本は触腕で、足はタコと同じく七本です。

 足の先には爪があり、ドリルの様に回るそうです。

 ロマン溢れますね。

 中世にコレを見たら、モンスターにしか見えない事でしょう。

 エンジンもない風任せの船で、20メートルの怪物に出会ったとしたら。

 その恐怖は想像以上でしょう。

 実物以上に大きく見えても仕方ないと思います。


 海竜

 元々龍は水と関係が深いと考えられていた事もあり、海にも当然います。

 実在した海の恐竜のようなものもいますが、東洋の龍に近い姿が多いようです。

 手足の生えた長い体の蛇のような姿で描かれます。

 陸のドラゴンと比べ、海だからか巨大なものが多いようです。

 人に友好的なものは、あまりいないようです。

 特に意味もなく船を沈めたり、津波を起こしたりする面倒な存在です。

 その大きさだけでも、人がどうにか出来るものではありません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る