第60話 乱戦と魔獣

 獅子の5倍はあるだろうか。

 大きな翼を持つ褐色の、巨大なライオンの体。

 頭だけが無く、そこには人間の女性がいた。

 胸までの女性がライオンの体から生えている。

 何故かライオンの腹には乳がない。

 砂漠でケンタを睨む石像が、エジプトに鎮座するスフィンクスが降ってきた。


 スフィンクスは、顔が人間の女性で身体がライオン。

 大きさはライオンの4~8倍あるそうです。

 背中に鷲の大きな翼を持つと言われています。

 鳥や羊など、人以外の頭を持つのもいたようです。

 しかし、大きな乳房が出ていた方が人気なので、女性頭がメジャーです。

 ギザの沙漠でケンタッキーとピザハットを睨む石像が有名でしょうか。

 6千年前に建てられたとされる、ピラビッドよりも古いという噂もあります。

 エジプトではホルアクティやルウティとも呼ばれるそうです。

 怪物の伝承はエジプトを含む中東一帯、そしてギリシアにまで広がります。

 有名なものだと、ギリシア神話のスフィンクスでしょうか。

 テーベの丘で謎かけをして、答えられない者を食べていたそうです。

 しかし答えられると丘の上から身を投げ出して、翼があるのに死んでしまいます。

 飛べよ……。

 この話が有名すぎて、エジプトのスフィンクスにも、逆輸入されたりしています。

 古くから、歴史書や博物誌にも登場します。

 偉い学者先生の本や、旅行記などにも載っているので、昔は実在したようです。

 神話ではエキドナの子とされています。

 エキドナは、三つ首のケルベロスに双頭のオルトロス、ヒドラやキメラ、さらにはラドンなどなど、子沢山なヘビっぽい女性です。

 スフィンクスの兄であり、父でもある双頭の犬がオルトロスです。

 犬は巨人ゲリュオンの番犬として、牛を守って暮らしていました。

 しかし、牛を盗みに来たヘラクレスに、棒で撲殺されてしまいます。

 そんな犬と蛇女エキドナの子がスフィンクスだとされています。

 エキドナの子オルトロスの子なので、エキドナの子であり孫だったりもします。


 男はスフィンクスを、空から叩き落とした相手が気になった。

 金色こんじきの巨体は大きな翼と長い尻尾を持ち、北西へ向かい飛んで行った。

 落ちて来たスフィンクスは、明らかに怒っている。

 もともと人喰いの魔物モンスター、戦闘するしかなさそうだ。

 帝国の軍人がゾロゾロと入って来た。

「民に被害を出す訳にはいかない。最優先はスフィンクスだ。攻撃せよ」

 16名の帝国軍人がファルシオンを抜き、恐れも見せず一斉に特攻する。

「その研究は世に出す訳にはいかない。ここで滅ぼす」

 ツヴァイハンダーを抜いた士官が、カムラに斬りかかる。

 そこへ割って入った男の、抜き打ちの脇差が両手剣をはじく。


 ファルシオンは、日本刀の大刀よりも少し長いくらいで、他のソードと比べると短めの刀身で、サーベルに似た剣でした。

 サーベルよりも厚みと幅があり、重さがあるので、切り裂いても叩きつけても使える剣で、比較的安価だった為ヨーロッパに広く普及したようです。

 鉈のような物で、武器ではなかったという説もあります。

 一般家庭にまで行き渡る程、浸透していたようです。

 ちょっとしたヒット商品ですね。

 一家に一振りファルシオン。

 英雄など、名のある人物が持つ剣ではありません。


 ツヴァイハンダーは両手剣、ツーハンドソードの祖と言われる、ドイツの剣です。

 中世後半にドイツでつくられた、両手持ちの長く重い刀身の剣でした。

 特徴として鍔近くに突起があり、剣をはね返す為のものだとも言われています。

 ……まぁそれはないと思いますが。

 コレ以降の両手剣に、その突起がありません。

 良い物なら残っている筈です。

 邪魔な飾りだったのでしょう。

 刀身が脆くなりそうですし。

 このツヴァイハンダーから、両手剣が作られ、ヨーロッパに広がったようです。


 両手大剣ツヴァイハンダーの重い一撃を、ナイフの様な細い剣で弾かれ、士官は驚きを隠せない。

 どうやら日本刀は知らなかったようだ。

「貴様何者だ。邪魔をするのならば、帝国軍剣士ロビンが容赦しないぞ」

 将軍ヨシュアと進軍して来た、副官のロビンが吠える。

「あんなもの手に入れて、どうするつもりだい」

 男が脇差を鞘に仕舞い、右足を前に出して、腰を落とす。

 相手の剣が長いので、こちらの間合いを読まれないように刀を隠す。

 左手を鞘にかけ、親指が鍔にあてられ、右手はだらりと前に垂れる。

 日本刀も居合も知らないロビンは、異様な構えに警戒する。


 なんか見た目カッコイイ、だけで勘違いされがちな居合抜き。

 その最大の利点は不意打ちです。バレてから鞘に納める意味はありません。

 刀身をはっきりと見られていない場合は、正眼の構えと同じ効果も期待できます。

 刀身を横から見ると、長さが分かり易いです。

 切先を正面に、縦に見ると短く見えます。

 その錯覚を利用して、相手の目に切先を向けるのが正眼の構えです。

 流派によりますが中段とは違います。

 鞘に入っていれば、正確な刀身の長さを測れないので仕舞っておこう。

 というのが居合抜きになります。

 居合も正眼も、間合いを誤認させるのが、目的の一つになります。

 それが全てでもありませんが。

 達人の居合は、正に『てから刀が生えた』ようにしか見えなかったりします。


「この世に残してはおけない。神の力で焼き尽くしてくれる」

 男とロビンが睨み合う。

 カムラは男の殺気に気圧され動けなくなり、汗が噴き出す。

 男はカムラの敵ではない筈だが、指一本すら動かせなくなっていた。

 スフィンクスが帝国兵と激しく戦い、暴れ回る脇で男とロビンが睨み合う。

 カムラもトムイも動けなくなっていた。

 シアだけは素早く、部屋の隅の柱の影に隠れていた。

 男も帝国兵も、暴れ回るスフィンクスすらもシアの目には入らない。

 彼女はリトだけを見つめていた。

 シアは命懸けでリトの動きを観察していた。

 リトは視線を切り、物陰を伝い、常に周囲を警戒しながら男の指示を待っていた。


 マルコが男の後ろから囁く。

「入口に真語の術者がいます。ロビンも清廉な武人ですから、恐らく真実でしょう」

「真語というのは?」

 男は目を逸らさず、マルコに囁くように問う。

「大きな代償を払い、神の力を行使するといわれる強力な魔法です」

「……ふぅ。いいでしょう。信じましょうか」

 男は力を抜き、構えを解く。

「どういうつもりだ。その資料は逃がさんぞ」

「目的は同じということです。そして、暴れるアレは邪魔ですね」

 男もスフィンクス戦に参加する。

「たしかに今はそっちが優先か。ティモ! 奴らを逃がすなよ」

「分かりました。逃げ出したら焼き払います」

 入口に立つ術師に声を掛け、ロビンも参戦する。

「ど、どうしよう」

「シア……タスケテ……」

 カムラもトムイも訳が分からなくなり、動くこともできずに助けを求める。

「もぉ……カッコイイとこも見せてよ。いいからコッチ来なさい。邪魔になるから」

 シアが柱の影から二人を呼ぶ。

 ヨタヨタとへっぴり腰で物陰に隠れ、3人は男の戦いを見守る。



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